暁その他
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がく、と膝が折れて、そのままずるずると床に倒れた。
血まみれでまだあたたかいそれをコツンと足先でつつく。
さっきまで「殺さないでくれ」だの、「やめろ」だのうるさく叫んでいた身体は、もう口も開かない。
ぐにゃりとした肉塊になって、ただ床に転がっている。
ビチャ、と血の海を踏む音がして振り返った。
「清香」
「サソリ……。もう、そっち終わった?」
「ああ。こっちも終わったみたいだな。クク、相変わらず派手に散らかしやがる」
サソリは手の中の巻物をぐるぐると巻き直しながら、こっちに歩み寄ってきた。
一歩踏み出すごとに血が跳ねて、彼の足元に赤い模様が描かれる。
「サソリ、汚れてる、足」
「ああ?お前自分のこと見てから言えよ。顔も体も返り血まみれじゃねえか」
「え、そうなの?」
頬に手をやると、ぬるりとして手が滑った。
下を見れば、暁の装束も湿って黒ずんでいる。
汚したつもりも無いけど、いつの間にこんなに汚れたんだろう。
とりあえず布を出して、顔を拭った。
すると隣まで来たサソリが、布をひったくって私の顔を拭き始めた。
「こっちの方が汚れてんだよ。ったく、見当違いの所ばっか拭きやがって」
「うん……ごめん」
少し乱暴に拭かれて揺れる視界の中、つと目をやると床に転がった男と目があった。
額を脳までザックリ切ったせいで脳の水と血が垂れ流されている。
口を半開き、目をむいてこちらを睨む男の最期を思い出し、私は呟くようにサソリを呼んだ。
「なんだよ?」
「この人最期、殺さないでって言った」
「そりゃ、誰だって言うだろ」
首上げろ、と言うサソリの声に、くいっと天井を見上げる。
天井にも、飛び散った血の跡。
「何でかなあ?生きてて、この人そんなに楽しい事があったのかな?」
「さあな。でも、まだ未練があったんじゃねえか?」
「ふーん……」
ほら、おわったぞ、という声と共に、ぽんと手に布が置かれた。
それにありがとうと応えて、布をしまう。
じゃあ帰ろうか、と踵を返すとサソリが、清香と私を呼んだ。
「心配すんなよ」
「ん?」
「最初に、お前を拾った時に言った言葉。……ちゃんと、守ってやるからな」
サソリと初めて会った時。
彼は、私が途切れさせようとしていた生を無理やり続けさせた。
サソリは私が気に入ったらしい、私を拾ってやると言い出した。
『俺は、お前を俺の傀儡にしたいんだよ。今すぐ死んだお前を傀儡にするのもいいが、まだ、足らねえ。
もう少し、俺の隣で生きろ。そうしたら、もう一度お前が時を止めたいと思った時に、俺がお前を俺の芸術の中で永遠にしてやる』
気が付けば、私はコクリとうなずいていた。
そして私は今、暁の一員として彼と共に動いている。
「……うん。ちゃんと、守ってね」
「ああ。今まで、こんなに手塩にかけて作ってる傀儡なんてねえからな。完成したら、傷一つ付けねえくらいに手入れしてやるよ」
「ほんとうっ?」
「ククッ……ああ。だから、俺の知らない所で勝手に死ぬんじゃねえぞ」
「うん。サソリにちゃんと殺してもらえるようにする。私は、サソリの物だから」
嬉しくて少し上機嫌に足を踏み出せば、まだ乾いていない血溜まりが軽く跳ねた。
サソリも一つ笑いをこぼしてから、私の隣を歩き出す。
私の頭を軽く撫でるサソリを見ながら、ああ、今なら死んでもいいかもしれないと、胸の鼓動が呟いた。
END.
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