砂の里短編
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ああ、はらわたが煮えくり返りそうだ。
やっと見つけたと思ったら、まさかとんでもないところを目撃することになるなんて。
木ノ葉と砂の合同パーティー。
親睦を深めるためにと開催された催し。
原則だれでも自由参加。
両里の上忍下忍区別なく無礼講。
元々堅苦しい事が苦手な俺としては、中々興味深いものだった。
正式に招待も受けていたし、俺は我愛羅の護衛も兼ねて参加することにした。
「えっそれ面白そう。私も行く!」
清香にも行くか尋ねた所、色好い返事が帰ってきた。
いつも派手な服を着ない清香のドレスアップ姿が見られる、なんて、やましい心は文字通り下に隠して。
衣装選びも一緒に行こうと思っていたが、清香をテマリに拉致されたため、中止。
清香は俺の彼女なのだから、と一言物申したい所だが、そこは抑える。
伊達に19年姉弟やってきた訳じゃない。
逆らった結果は目に見えている。
……パーティーには健康体で参加したい。
結局どんな服を買ったのかについては秘密と言われ、分からずじまいだった。
まあテマリが見立てたというのならば、悪くないだろう。
期待半分、妄想半分、楽しみに待つとする。
ちなみに俺の方は、我愛羅と一緒に選びに行った。
我愛羅は俺に任せると丸投げしやがって、適当に後を付いてきていた。
任せられたこっちは適当にやる訳にもいかず(何しろ相手は風影だ)、センスの限りを尽くしてアクセサリーまで決めた。
無礼講とはいえ同盟里との催し。
あまり逸脱しては困る。
結論として王道のタキシードにした。
なかなか悪くない仕上がりだ。
後ろで息が詰まるだのぶつくさ言っていたが、無視する。
そんなことで洒落た格好なんかできるか。
そして、当日。
木ノ葉と砂の中程にある建物で、パーティーは始まった。
着替えも済み、清香を探しに行こうと思いきや、そうもいかなかった。
一応、我愛羅の護衛としても参加している以上、しばらく我愛羅の側を離れる訳にはいかない。
その上今や立場が風影の兄だ。
代わる代わる客が挨拶に来て、自由な時間は遥か彼方になっていた。
やっと解放されたのは、我愛羅も疲れを見せ始めた頃。
ナルトの来訪をきっかけに、テマリが有無を言わせぬ笑顔で客を追い払ってくれた。
さすが姉貴じゃん。この時ばかりは尊敬と感謝を込めて呟いた。
ナルト逹と一緒なら変な問題も起こらないだろう。
後は任せて、俺もテマリもここで一時解散することにした。
さて。と、急ぎ足で会場を歩きだす。
こうなることは清香も分かっている事とはいえ、些か遅くなり過ぎた。
早く合流しなければ。
足早に歩きつつ会場内に目を走らせていると、見覚えのある靴が目に入った。
この間買い物に出かけた時に買った靴。
高い踵に細い足首がよく映える。
清香、と視線を上げて、絶句した。
清香の前に男がいた。
片手は彼女を押さえつけもう一方は今にも彼女に落とされようと――
首筋に這った低温で、男が止まる。
鋭いクナイは寸分の狂いなく頸動脈に当てられていた。
周囲はどいつもこいつも殺気に敏感な連中ばかり。
騒ぎにならぬよう最低限に、しかし鋭く男に突き付け。
射抜く、否、射殺すほどの瞳で。
「俺の女に勝手に触んじゃねぇ」
震えながら離れた手は手刀で叩き落とし、鳩尾に一発見舞ってやる。
男は一瞬目を見開いたあと、ずるずると床に崩れた。
ここがカーテンに隠れる場所でよかった。
しばらくそこで寝てろ。
清香を連れ、会場から一旦出る。
喧騒は遠く、俺と清香の2人きり。
「清香、大丈夫か?」
少し離れた場所まで来ると、振り返って清香に訊いた。
引いていた手はそのまま。
「平気。何もされてないから。ごめんね、中々振り払えなくて」
清香の手を引き、腕の中に閉じ込める。
清香を俺が独占しているのだと実感したくて。
他の男など許さない。
俺だけが清香を独占できるのだと。
「清香、腕見せてみろ」
「うん」
素直に差し出された腕。
そこには、やはり先程の男に押さえつけられた跡が残っていた。
「あの野郎……。コレ痣になるじゃん」
「あ、大丈夫。ほら」
言葉と共に清香の手にチャクラが現れる。
それを腕にかざせば、溶けるように跡は消えた。
ね?と清香は見上げてくるが、俺はその手を離さないまま。
「まだじゃん」
「っ!? カンクロ……っ」
目に見える跡は消えても、跡を付けられた事実は消えない。
跡があった場所に唇を這わせ、清香に見せつけるように舌先でなぞる。
最後に軽く音を立てて唇を離せば、清香は戸惑いながら顔を赤く染めていた。
堪らずその唇に自分のそれを重ねる。
嗚呼、この顔も。
吐き出される切なげな吐息も。
この指に触れる柔らかな髪の一筋さえ。
全て愛しい。
俺の、俺だけのもの。
だから殊更許せない。
俺より先にこの姿を目にした事。
勝手にこの身体に触れた事。
傷付け、跡を残した事。
その事実を全て追い出すように、あの男が触れただろう場所全てに口付ける。
勿論、あの男ならば触れられもしないような場所へも。
消えないのならば、塗りかえてやる。
「、んっ。カンクロ……」
「清香、」
なめらかな肌に触れるのも、口付けも、残り香さえも。
他人には許されない。
全部、受け入れられるのは俺だけだと。
見せつけ、思い知らせるように。
夢中で、清香にキスを浴びせた。
「カンクロウ、だけ、だから」
キスの合間、清香が言った。
「私、カンクロウだけにしか、させないから」
「清香……」
見つめると、赤い頬のままいたずらっぽく笑う。
「さっきだって、カンクロウが来てなかったら、私あいつの股間でも蹴り上げるつもりだったしね」
男としては想像するだに痛い対処だが、まあ一番効果的な対応だろう。
清香のたくましさが愉快で思わず笑った。
「カンクロウにしか許さないよ。私は、カンクロウが……好きだから」
照れながら続けられた言葉は単純で、簡潔で。
だからこそ素直に一番奥の深い所まで染みた。
清香を抱き寄せ唇を重ねる。
自分が感じた深さを伝えるように、深く、深く。
舌先でなぞればふるりと震える清香が愛しくて、手を絡める。
もっと近くに感じたい。
深くまで、1つになって。
「好きじゃん、清香……っ」
もういっそ、このまま。
清香の服に手をかける。
瞬間、清香を抱えて飛び退いた。
先程俺達――いや、正確に俺のいた位置のみ、地面が1mほど削れている。
チャクラの気配はよく知ったもので、性質は風。
嫌な予感がして顔を上げれば、居た。
スリットの入ったドレスを翻し、巨大な扇子を構えた、我が姉が。
一瞬で顔が青ざめた。
「カンクロウ……」
「はっはいじゃん」
「こんな所で何してる」
「それは、えっと、そのっ……」
全身から滲み出る怒気で、テマリの周囲は風が静かに渦巻いている。
いたずらを叱られる子供なんて生ぬるいモンじゃない。
処刑寸前の罪人の気分だ。
「――私は、」
テマリが足に力を込め、チャクラの鋭さが増していく。
「勝手に長々我愛羅の護衛を放って外に出ていいと言った覚えも、」
扇子がチャクラを纏い、周囲の風の強く巻いた。
「増してや清香といちゃついて襲っていいと言った覚えも、」
それだけで殺せそうなほど鋭い視線に、身体がすくみ上がる。
「――全くないぞこの大馬鹿野郎!!」
大きく扇子が振りかぶられ、勢いよく攻撃が繰り出された。
とっさに避ければ、後方にあった岩が砕け散る。
やばい。本気で切れている。
でも、なんでこんな所に姉貴がいるんだ。
「客からきいたんだよ! 涼みに出ようとしたらうちの弟がいちゃついてて出られなかったってな!」
げ。しまった全然気付かなかった。
扇子が唸り、また風が飛んでくる。
「今回は身内だったから笑い話で済んだものの、他人だったら里の恥だぞ!!」
頬をかすり、髪の毛が数本離れ散る。
「発情期の犬みたいに盛りやがって…! もういっそ私が去勢してやる! そこに直れ!!」
青筋を浮かべたテマリは角でも生えそうな勢いで叫ぶ。
俺の動きに合わせて放たれた攻撃はもう避けようもなくて。
清香を着地しやすいよう突飛ばし、観念して俺は猛攻を受けた。
木に叩きつけられてから、地面とこんにちは。
回転する世界の中で、清香が俺に走り寄ってくるのが見えた。
「か、カンクロウ!! 大丈夫!?」
「あー……もう駄目じゃん。清香にそっくりな天使が見える……」
呟くと同時に頭の横にクナイが刺さった。
「ほお、まだ寝ぼけたこと抜かす余裕があるのか。じゃあ姉さんが目を覚まさせてあげようじゃないの」
「いや、もうオメメぱっちりデス。すごく目が覚めましたもう全然問題ないじゃんっ」
「テマ姉さんストップ……!」
拳から凶悪な音を響かせながら、テマリがこちらに歩いてくる。
背後に炎とか、ダダッダッダダ♪とか、見えるのは俺だけなのか? 幻術なのか?
確固たる殺意と共に拳が真っ直ぐ振り下ろされた。
清香が庇うように俺に抱きつき、あ、胸柔らかい――。
耳元で、地面から何かが抜ける音がした。
見上げれば、テマリはクナイを取り上げ収めている所。
「って、テマリ……?」
「ああ、もう下らないからこの辺にしといてやる。清香に手当て受けて、5分以内に戻ってこい」
次何かやらかしたらカマイタチだからな、と言い残しテマリは踵を返した。
「……はあ、助かったじゃん」
「うん。でも5分以内に戻らないと今度こそ本気で怒られるね。カンクロウ、傷見せて」
ごもっとも。
身体を起こして傷を治療してもらう。
清香の手が傷に当てられた。
「あ、そんなに深くないね。さすがテマ姉さん。これならすぐ治るよ」
清香が目を伏せ、チャクラが俺に流れ込んでくる。
白い手から腕へと視線でなぞった。
思い返してみると、今日ゆっくり清香を見たのはこれが初めてかもしれない。
広く肩をさらした身体の線は華奢で、自分とは違うことを実感する。
大人っぽく結い上げた髪に、ドレスはテマリらしいシンプルなデザインの物だ。
派手ではなく、静かな色っぽさが仄かに香る。
「ん。おしまい。もう大丈夫だよ、カンクロウ」
「サンキューじゃん、清香」
清香に礼を言って、2人で立ち上がった。
そしてそのまま会場に戻ろうとする清香を呼び止める。
「どうかした? あ、まだどこか痛い?」
「いや、その……。綺麗じゃん、清香」
大きな目が更に見開く。
「言ってなかったから、な」
「えっと、うん。……ありがとう」
みるみる頬を赤くすると、はにかんで笑った。
ふと思いついたように顔を上げ、清香が俺を呼ぶ。
手招きに応じ背を屈めれば、頬に小さな音。
「か、カンクロウも格好いいよ。あと、助けてくれてありがとう。嬉しかった」
「私も言ってなかったから」と照れくさそうに笑う。
もう一度清香を抱きしめたい衝動にかられるが、ここは我慢する。
今だけは騎士でいよう。
テマリも恐い。
続きは……また次のチャンスに。
「行こ、カンクロウ」
「ああ」
差し出された手を包んで歩き出す。
今は、清香と一緒にパーティーを楽しんで、他の男共に牽制でもかけておこう。
清香は最高の女で、俺のもんだ、ってな。
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