砂の里短編
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カンクロウが夜私の部屋にくることはそう珍しくない。
いつからそうなったか覚えてないけど、大概、夜にカンクロウは私の部屋に遊びに来る。
別に恋人同士という訳でもなく、もちろん夜の逢瀬などというものでは決してない。
互いに気のおけない友として、リラックスして遊べる。そんな間柄だ。
騒いでも騒ぎ過ぎないし、ふざけても悪ふざけはしない。
マナーをよく守る、実によき訪問者だ。
――1分前までは。
ぎしり、顔の横に置かれた手がベッドを軋ませた。
「あのぅ、カンクロウさん。あなたは一体何をしているんですかね?」
「見て分かんねえのかよ。頭悪ィじゃん」
「いや、この世には理解しても理解したくない現実っていうものがあるじゃないですか」
「だったら思い知らせてやるだけじゃんよ」
カンクロウは今、ベッドの上で私を押し倒している。
茶化してみようとしてもカンクロウにその気はないらしく、鋭い目が緩むことはない。
さらには、顔が近づいてきて唇を重ねてしまった。
瞬間、頭突きを見舞ってたたみかけるように蹴りを発する。
入った。
そこら辺の下忍ならひっくり返るかもしれないけれど、カンクロウにはそこまで効かないだろう。
証拠に、カンクロウはベッドから落ちてすぐに床で体制を立て直した。
私は天井付近の壁に張り付いて、簡易な結界をはる。
これでチャクラ糸くらいは防げるはず。
「まあ、話そうよカンクロウ。私もいきなり襲われるのは怖いし。……一体どうしたの?」
しばらく黙ってこちらを睨みつけていたカンクロウは、やがて諦めたのか、口を開いた。
「お前、……我愛羅が好きなんだろ?」
かすれた声が鋭く届く。
睨んだ瞳が射殺さんばかりに光った。
「え……。そんな話、どこで」
「聞いたんだよ。今日、待機所で。お前が我愛羅に……一生懸命、好きかどうかって問い詰めてたって」
一瞬、顔が強張る。
カンクロウの口からこのことが出てくると思わなかった。
まさか、あんな所を人に聞かれてたとは。
「それは……確かに本当だけど、」
言いかけた言葉は終わる前に遮られた。
グイッと腕がカンクロウの方に引っ張られる。
気づくと、カンクロウの指から私の腕までチャクラ糸が伸びていた。
驚いて、次の瞬間にはまたベッドの上まで引き戻された。
「い、いつの間にっ……」
「お前が反撃しない訳がねぇからな。さっきベッドにいた時につけたじゃん」
もがいても腕はびくともしなくて。
カンクロウが再び私にかぶさった。
そこまでされれば私もさすがに余裕なんてなくなる。
「だ、だからって何でこんなことになるのさ!いつも冷静なカンクロウらしくないよ!?」
「冷静……?」
冷たく呟いてから、カンクロウはいきなり私の腕をベッドに押し付けた。
「俺は、いつだって冷静なんかじゃないじゃん!お前を、他の男にとられたくねぇ、我愛羅にだってやりたくねぇ!
お前を、俺のものにしてぇって……」
苦しげにカンクロウの顔が歪む。
太い腕が私を抱きしめた。
「お前が、好きじゃん……」
――え。今、何て。
驚いて、思考回路が動くことを止める。
好き?誰が。
カンクロウが。私を?
「っ……カンクロウ!!」
理解した瞬間、私は大声を出していた。
びくっとカンクロウの肩が跳ねる。
驚くよね、私も驚いたよ。
「私、言いたい事があるんだ!」
掴まれていた手も振り払って、カンクロウの襟元を掴む。
「わ、私も……カンクロウが、好き」
「……は?」
頬を赤くしながら、告げた。
カンクロウは停止している。
段々と猫のように細い目が大きく見開かれていき、混乱の極みとばかりに声は裏返った。
「な、お前、我愛羅が好きだってっ……!」
「いつ私がそんなことを言いましたか」
「だって、さっきお前!」
「私、一っ言も我愛羅が好きなんて言ってないんだけどね」
カンクロウが好きとは言ったけどさ、と目をそらしつつ続けると、カンクロウの顔にも朱がさした。
「俺、よくここに来ちゃ夜遅くまで一緒にいたけどよ。お前、全然そんな素振りもなかったじゃん」
「……だって、カンクロウって自由人で気ままだから、縛られるの嫌がるし。そのくせカンがいいでしょ。気づかれたら、どっか行きそうで、さ」
まあ、いつかは言うつもりだったんだけど。
今はまだ、友達としてでも近くにいたかった。
「で、とりあえず我愛羅にカンクロウが好きだって言ってみた」
あの時の我愛羅の憎たらしさったらなかった。
ならお前が姉になるのかって嫌そうな顔で言う。
『え。我愛羅私のこと嫌いなの?嫌いじゃないよね、私のこと好きだよね?』
あの時、鼻で笑われ冷めた目で見下されたことは、割と大きなダメージを私に与えてくれた。
「じゃあ、俺の勘違い、じゃん?」
そうなるね、と頷けば、やっと納得したのか、気の抜けた表情でカンクロウが笑った。
どさっと私の上にかぶさって、さっきよりも優しく私を抱きしめる。
「よかったじゃん……」
「まあ、私も必死で隠してたし」
カンクロウを拘束して、嫌われて、逃げられたくなかった。
「清香。お前も、ひとつだけ勘違いしてるぜ」
「え?」
「俺は、自分が居る場所を他人に決められず、自分で決めたいだけだ」
だから、とカンクロウが続ける。
「俺がお前の所に来た時点で、俺はお前の隣にいるって決めてたじゃん」
「……!」
目から鱗が落ちて、ぱちぱちと目をしばたたく。
クク、とカンクロウが耳元で笑った。
「俺達2人で馬鹿みたいじゃん」
「……本当。2人で何してたんだろね」
カンクロウにつられて、2人で笑った。
お互い好きなくせに必死に正反対のことをして。
「お前は友達のふり。俺は、お前を他の男にやるくらいならって焦ってたからな」
……何気に私は危機を脱していたり。
内心思い出して再び緊張する。
でも、そこまで想われていたのかと思うと自然と笑みがこぼれた。
カンクロウ、好きだよ、と。嬉しくて、思わず口をついて出る。
俺も好きじゃん、とカンクロウも言った。
「……ところでさ、カンクロウ。なんか距離が近過ぎるよね、離れようよ」
「なんでだよ」
「いや、そろそろ恥ずかしいし」
「却下じゃん」
カンクロウがスパッと言ってのける。
抗議の声を上げようと口を開けば、その一瞬前に阻止された。
やわらかい唇の感触。
目の前にはカンクロウの顔。
一瞬止まった心臓が再び動き出した頃には、カンクロウは元の位置に戻って私を抱きしめていた。
「何が何でも、朝まで絶対このままじゃん」
満足そうな瞳で、したり顔のカンクロウが言う。
そんな幸せそうな顔で言われたら、反論なんかできるわけないって。
分かってやってるな、この性悪男は。
熱い頬も早い鼓動も近くにいるから隠せなくて。
恥ずかしいからカンクロウの肩に顔をうずめた。
「仕方、ないなぁ」
惚れたのが運の尽き。
「とことん付き合うよ」
言って、カンクロウの背中に腕を回した。
身体の厚みと重さが心地いい。
カンクロウの腕のぬくもりに包まれて、私は静かに目を閉じる。
耳元に小さく聞こえた言葉に、私も笑って囁いた。
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