砂の里短編
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「バキ、結婚はまだしないのか?」
「ブッ」
上忍待機所にいた時。
いきなりイサゴがそんな事を言ってきた。
危うく飲んでいた茶を吹き出しかけ、むせる。
冗談かと思い振り向くも、そこには真面目な顔があった。
「と、突然、何を……」
「今年、もうお前は34だろう?俺は38だが、2人子供がいる。
お前もいい加減結婚しておかないと、そろそろ困るぞ?」
……何が困るのか具体的には聞かないでおく。
しかし、驚いた。
突然こんな話を持ち出されたからではなく、一瞬、イサゴに考えを読まれたかと思った。
清香と付き合い始めて、もうかなりになる。
付き合い始めた頃のアイツは、まだ十代で、とても結婚など考えられたものではなかったが、今は……。
「そうだな」
頃合い、か。
その日、俺は仕事を早めに切り上げることにした。
が。
「しまった、大分遅くなった……!!」
執務室を出て直後、全力疾走で暗くなる道を駆ける。
間に合うか!?
屋根を飛び、見張りに驚かれ、屋根から降り、また地面を駆け。
角を曲がって、やっと、目的地に到着した。
慌てて中に入り、まだ営業中か尋ねると、まだもう少し開けていると返事が返ってきた。
……間に合ったか。
ほっと息をついて、周りを見回す。
赤、白、黄、オレンジ、ピンク……。
数え切れないほどの色をした花が所狭しと並んでいる。
明らかに自分には似合わない景色に、少し照れくさくなって頬をかいた。
俺は別段花が好きというわけではないが、アイツは、以前から花が好きだと言っていた。
「さて、」
アイツの好きそうな花は……。
一応身なりを正し、深く息を吐く。
そして、チャイムを鳴らした。
ぱたぱたと足音が近づいて来て、はあいという声と共に扉が開いた。
「バキさん!」
驚きと嬉しさの混ざった声に瞳。
どうしたんですか、と尋ねる清香に、背中に隠していたものを差し出した。
「どうも、花についてはよく分からなくてな。お前が好きそうな花を選んできたんだが……その、」
そっと、考えていた言葉を清香に告げる。
途端、泣き出しそうな顔をして彼女が俺に抱きついてきた。
泣きながらコクコクと頷く清香に、一つ。
感謝と愛を込めてキスを送った。
ポケットに忍ばせてきた小さな約束の印しは、どうやら無駄にならずに済みそうだ。
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