砂の里短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小菊の花が咲いてる。
辺り一面真っ白に染めて。
まるで雪景色じゃん。
そん中をゆっくりゆっくり歩いてく。
一歩ごとに踏み出す感覚を楽しむ様に。
風に揺れる小菊を穏やかな目で追って、その風とじゃれるようにまた一歩踏み出す。
そうして歩いてくと、周りにも何人かうろついてんのに気付いた。
皆綺麗に咲き誇った小菊を見つめては、口々に
「綺麗だ」
とか
「かわいい」
とか
果ては
「好き」
とか
小菊に向かって話しかけてる。
小菊は困ったように風に揺れて、それでもニコニコ通りかかるヤツらに咲いてやがる。
途端、胸がざわりと騒いだ。
なに、やってんだよ。
おい、てめぇ。コイツに好きとか言うなよ!
大体、コイツはっ!
……コイツ、は。
――俺のものじゃ、ない。
叫ぼうとして、うなだれた。
なにやってんじゃん、俺。
俺のものでもねぇのに。
片手で頭を抱え、自嘲気味に笑う。
ザア、と風が吹いて、小菊が悲しげに揺れた。
好きだって。
ずっとずっと、花なんか咲く前から好きでたまらなかったんだって。
……あの時、言っておけば……。
激しく風が吹いて、根こそぎ花をもぎ取って行く。
慌てて手を伸ばしても、もう二度と届きはしない。
枯れ果てた地面に膝をつき、頭をこすり付けて土を握る。
手遅れで失う恋は、つらすぎる。
いつになればこの夢も見なくて済むようになるのか。
よせてはかえす波のように、繰り返し永遠に。
花を失う夢を見る。
小菊のように愛らしかった、あいつを失う夢を。
「清香……っ」
嗚呼。今日もまた、君のいない一日が始まる。
.