砂の里短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ああ、人間ってどうして破壊することしか出来ないんだろう。争うことばかりで、きっと修繕とか頭にないんだ」
「そーだな。お前の手元がいい例じゃん」
呟いた私の後ろからかかった声にきっと睨み返すも、
敵はスルースキルを発動して、涼しげに雑誌をめくっていた。
噛みついて反論してやりたいものの、自分の手元を見ると、反論出来る言葉は存在しないことが分かる。
そこには、破れた制服だったものがあった。
だったもの、というのは、以前より改善された状況という訳ではなく、むしろ……。
「何で破れたもの繕おうとして余計にほつれが増えんだよ?もうある意味才能じゃん」
またいらんチャチャを入れてくる……!
「っるさいわ!邪魔すんな黙って雑誌読んどけ暇人!」
必死にこれまでない位の努力をしている私の後ろで、悠々と暇オーラを垂れ流すコイツがさっきからうざい。
イライラとトゲ付きの言葉を返すもかえって面白がっているようで、笑いを含んだ返事しか返ってこない。
大体なんでコイツがここにいるんだ!
私は家庭科室で静かに縫い物しようとしただけなのに。
「嘘でしょおおおおお!?」
お昼休み。
友達とふざけて小突きあってた私は悲鳴を上げた。
トン、と軽く肩を押された私はずっこけて。
無理な体制で体を支えたために。
……制服を破りました。
ので放課後、家庭科室で縫うことにしました。
し・か・し!
私には大きな問題がある。
私は、裁縫が苦手中の苦手なんだ!
「うーん、ゴメン清香。あたし今日バイトなんだ」
裁縫が上手い友達にヘルプを頼んだものの、全員に断られ。
うん、まあ用事なら仕方ないよね……。
「大丈夫だって!適当にやればなんとかなるよ」
ならないよぉ!
むしろワケわかんない黒魔術状態になるよぉ!
とにもかくにも。
保健室で借りたシャツを羽織って、私は出陣した。
半ばヤケクソで家庭科室に着いた時、中に人影があったから、わーい、先生!と思って開けゴマっ。
「ん?アレ、清香じゃん」
瞬間ドアを閉めた。
何でアイツがいるんだ。
いやいやとりあえずここを離れよう!
関わるとろくなことがない。
教室戻って縫おう。
くるりと反転した時、あいつが私の襟首をがっしりつかんだ。
「なあにやってんじゃん。早くはいれよ」
ぎゃーーーっ!!
そして今に至る。
カンクロウは、中学からの知り合いで、私が苦手とする人物の一人だ。
いつもちょっかいばっかりかけてきて、シツコイ。
俺様で自信家で、しかも頭がいいから余計にタチが悪い。
2人きりになりたくないヤツNo.1!
の、コイツと、私は今2人でいる。
やっぱり、悠々と雑誌を読みながらも、ことある毎にからかってくる。
神様、私はアナタに何か悪いことでもしましたか。
ちっくしょー、と未だ直らないシャツと格闘していると、急にひょいっとシャツが上に引っ張られた。
いつの間にか目の前に来たカンクロウが、私のシャツを取り上げている。
「っな、何……!」
「コレ、俺が直してやるよ」
シャツを確認するように眺めた後、にやりとカンクロウが笑った。
「はあ?」
「交換条件じゃん」
カンクロウ曰わく。
今日出された作文の宿題が出来ない。
書きたいことはあっても、上手く文に出来ない。
だからシャツを直す変わりに、筋書きだけでも考えてくれとの事。
まあ、作文は得意だし。
シャツ直してくれるなら……。
こく、と私は頷いた。
「よし、決まりじゃん」
裁縫箱を渡して、プリントを受け取って、本当に大丈夫かなぁと思いつつ、作文と向きあった。
30分後、私の目の前には綺麗に縫われたシャツが下がっていた。
「えええ、嘘ぉ!?なんでこんな完璧に……!」
「ま、俺にかかればこんなモンじゃん。楽勝、楽勝ー」
……なんか、目がバカにしている。
「ハイハイ私は不器用ですよー」
ふんっとプリントをつっ返して、気がづいた。
ありがとさん、とプリントを眺めるカンクロウのシャツ。
「ボタン、外れてるよ?」
上から二番目のボタンがなくなっていた。
「ああ、コレ帰ってから縫うじゃん」
「じゃあ、私が縫う!」
固まってから、ぶんぶんっとカンクロウは首を振った。
構わず針を手に近付くと、凄い勢いで後ずさる。
「たっ、たんま!清香落ち着け!」
「私不器用だけど、ボタン縫うのは得意なの!さあよこせっ」
ガタガタとぶつかりながら逃げるカンクロウの首根っこを捕まえた。
誰も仕返しなんてしてません。
神様仏様ーっと叫ぶカンクロウは針を突きつけて黙らせて。
Let's 縫いもの!
「面倒だから、このままでいいよ。ほら、襟見せて」
「え、このままって……」
「よっ――」
焦る声は無視して、針を突き刺した。
すいすいと針を動かし、ボタンとシャツとを往復させる。
さっきまで騒いでたカンクロウも、ボタンが順調にとまっていくにつれ、静かになった。
「っん。出来た。我ながら上出来っ」
ふっふーん。恐れいったか。
ぷつん、と歯で糸を切って、カンクロウにどや顔を見せる。
と、ふいに肩に圧迫感を感じ、体が密着した。
……へ?
「清香」
上からカンクロウの声が降ってくる。
あれ、これは要するに抱きしめられて……る?
頭が理解した瞬間、血液が逆流したような気がした。
って、ちょっとぉぉおおお!?
私が行動するよりも早く、大きな手はくいっと私の顎を持ち上げた。
「待ち伏せした甲斐あったな。お礼するじゃん」
柔らかなぬくみが唇に落ちた。
と、同時にぱっと腕が離される。
ほけ、とする私から離れ鞄をひっつかむと、私の方を振り向く。
「お礼のお礼がしたくなったらいつでも来いよ。歓迎するじゃん」
いつもの自信たっぷりの笑みを残して、カンクロウが出ていった。
「っわ、私のファーストキスを返せえええええ!!!」
逆流どころか、血が沸点を超えて飛び出しそうな勢いで、叫んだ。
ばしっとドアに叩きつけられた裁縫セットだけが、虚しくずるずると床に落ちる。
「あ、いつ……!絶ッ対、仕返ししてやるから!!」
口元を手で覆い、顔の熱を冷ますため、私はその場にしゃがみこんだ。
ここから続きだす2人の時間を私はまだ知らない。
.