砂の里短編
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「カンクロウさんいますか?」
「ん? お、シカマルじゃねぇか!」
「すいません、突然来て。任務で近くまで来たんで、寄らせてもらいました」
つい最近出来た新しい兄弟。
挨拶の後の他愛もない話に、気にかかっていた姉の話が混ざる。
里を跨いで嫁に行った姉の近況を語る男の目は、はにかみながらも穏やかで、姉の幸せが十分に伺えた。
わざわざ忙しい合間をぬって、こうして顔見せにくる兄弟を自分は気に入っている。
姉を預けるに足る、信頼できる男だ。
「お姉さんを、責任持って幸せにします。絶対、後悔させません」
ふと、結婚式の際、この男が放った言葉を思い出す。
あれは、結婚の誓いと同じ位、重い誓いだった。
もしも破れる事あらば、八つ裂きにされても文句は言わないとばかりに、真剣な。
親を亡くして以来、苦楽を共にして生きてきたかけがえない姉だ。
それを自らが家督を継がねばならない身である為に、他里へ嫁がせる事。
その意味を覚悟の上で、なお、姉を嫁に望むのだと、意思を滲ませた言葉だった。
あの時は、昨夜の出来事を知っていたのではないかと、実は内心驚いていた。
前日。姉の、最後の砂の里での暮らし。
ほぼ日常と変わりない日を過ごした後――3人で、泣いた。
まさか泣くとは誰も思っていなかったが、涙が、出たのだ。
俺と我愛羅にとって、テマリは生まれた時から姉だった。
それ以上でも以下でもなく、唯一、当たり前に近くにいた身内だった。
当然の様に我が儘を言って、叱られて、先に立っていた。
その存在は、もう、俺達だけの姉では無くなる。
そう思った時、俺達は、身を絞るようにして、互いに抱き合いながら声も無く泣いた。
だから俺は、片手で男の肩を掴んで軽く揺すった。
伝わるべき物は、お互いにそれで全て伝わっていた。
「なあ、シカマル。お前、この後暇か?」
「? ええ、まあ。後は里に帰るだけっすよ」
「そんじゃ、飯食ってけよ。俺達姉弟の行き付けの店、連れてってやる」
「まじすか。そいつは楽しみだ」
「我愛羅も呼ぶか。今日は俺が奢るじゃん」
「えっ、いいんすか」
「お前に心配されるほど俺の懐事情は寂しくねぇじゃん。ま、その代わり、我愛羅にもテマリの話してやってくれよ」
「……へへっ。そんじゃ、遠慮なくご馳走んなります」
少し入り組んだ道にある、炭火の煙が立ち込める店に思いを馳せる。
よく任務帰りに寄っていた、小さな店。
片隅で焼き鳥をつついていた姉弟は、もう居ないけれど。
あの頃飲めなかった酒など酌み交わしつつ、その事を語るのも、いいかも知れない。
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