砂の里短編
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森の奥は、昼であっても薄暗い。
慣れ親しんだ環境とは相反するそれは、もの珍しくはあれど、好きではなかった。
そんな湿った気分に加え、更に今の状況。
不満の1つもこぼしたくなるというものだ。
「なぁーんで、こうなるかね」
「ま、なっちまったモンはしょーがねぇじゃん」
ため息混じりにごちる。
うずうずと指先を無意識に動かす声の主は、どう見ても、しょうがないなんて雰囲気はない。
更にげんなりと気持ちが下がった。
簡単な護衛任務のはずだったのだ。
栄えた商人からの依頼で、火ノ国へ移動する間、盗賊から守って欲しいと。
途中の渓谷は、確かに盗賊の縄張りで、心配はごもっとも。
よっぽど貴重な荷物らしく、絶対に無傷で届けたいため、忍を頼ったらしい。
渓谷辺りに差し掛かると、やはり連中は襲って来た。
私は荷物と商隊の守護に専念し、攻撃はカンクロウが弾く。
そう分担していたのに。
途中、カンクロウは違う動きを始めていた。
攻撃を弾く、無力化する事が主だったのに、積極的に敵に切り込んでいっていた。
ひと度傀儡を開けば、魅せつけずにはいられない。
こいつの悪い癖だ。
慌てて止めさせたが、既に1人2人は息絶えた後だった。
盗賊は、忍とはいえ、ガキ2人から荷も奪えず、更に死傷者も出されたとあっては、黙っていないだろう。
だから、いなすだけで済ませようと言っておいたのに。
てめぇのせいだぞ傀儡狂い。
そう言って隣の男を蹴り飛ばしてやりたいが、今はそうもいかない。
ぐるりと四方を囲む人数は、30人弱といった所か。
まあ、不幸中の幸いなるかな。
八つ当たりの相手には事欠かないで済みそうだ。
徹底抗戦なら、全力で挑まねば。
里まで行けば手も出せまいし、道中の安全確保には、ここで出来るだけ潰して、動けなくしておいた方がいい。
また戻って仲間でも呼ばれたら面倒だ。
何せ今回の任務は、盗賊鎮圧じゃない。
恨み辛みの口上は、悪いが聞き流しだ。
「あー、全く。割に合わない。カンクロウ、あんた15は引き受けて頂戴よ」
「あ!? 半分以上俺に押し付ける気かよ」
「何、か弱い乙女に頑張れっての?」
「んなもん、何処にいるのか教えて欲しいじゃんっ」
弓矢や短刀が雨霰と降りかかってくる。
カンクロウの傀儡が背から放たれると同時に、私も印を結び終えた。
攻と防を流れに乗せて2人で行う。
こういう時、カンクロウは率先して流れを作ってくれるから、助かる。
お互いに応えながら、相手を飲み込み確実に倒していく。
漸く全員地面に伏させた時には、さすがに息が上がっていた。
「はあ、はっ、も、あたし、チャクラ残って、ない」
「はーっ……、俺も、さすがに疲れた、じゃん」
「ずっと流れ作ってくれて、ありがと。次は、もうちょい合わせ易くして」
「口は達者だな……」
肩で息をしながら、カンクロウを見やる。
本当に珍しく、カンクロウは疲れを表している。
今までなら、こんなに素直に人の言葉を聞きはしなかった。
止められようが、好きな様に楽しんで、にやにやと尊大な態度を崩さない。
渓谷でだって、本来なら止まる事なく、よく回る頭で以て、文句をつけられないように片を付けていた筈だ。
人の迷惑顧みず、策略を巡らし文句は受けない。
それが、カンクロウだった。
それが、今は、何となく――落ち込んでいる?
敵が全員無力化されたか視線を動かす瞳には、僅かに後悔の色が見てとれた。
いつもの高慢さは、すっかり成りを潜めている。
「……カンクロウ、さ」
「ん?」
「なんか、いつもと違うね」
唐突な言葉に面食らってから、好奇の視線に耐え兼ね、顔をそらす。
どこか罰が悪そうに頭を掻くその態度に、ますます目玉が飛び出そうだった。
こいつ、こんな顔するんだ。
斜口が常の私でも、その言葉を慎む位、その態度は素直だった。
「と、とにかく。終わったんだから、帰んぞ」
「え、ああ。うん」
振り切るように歩き出したカンクロウに続き、多少ぎくしゃくとした動きで、私も続く。
何だか、こうして隣を歩くのが、酷く不思議な心地がした。
頭陀袋の如くぼろぼろになって帰還した私達は、バキ先生にしこたま叱られた。
忍としての心構えからもう一度改めてこいとまで言われ、2人共暫く任務を干される事になった。
それでも大人しく修行に明け暮れているのは、カンクロウによる所が大きい。
木ノ葉へ行って以来、三姉弟が変わったという噂は聞いていたが、実際目の当たりにした衝撃は、大きかった。
一体何があの冷徹な彼らを変えたのか、何を思って変わっているのか。
自分も、あんな風に――。
近頃修行から帰って考えるのは、こんな事ばかり。
風呂上がりに冷たい水で喉を潤してから、ほうと息を吐く。
不意にいつもの思考を遮ったのは、躊躇いがちなノックの音だった。
こんな夕刻に誰だと思いながら、扉を開いて、予想外の人物に目を見開く。
橙色の光のなか、所在なさげに立っていたのは、目下一番の興味の対象だった。
「か、カンクロウ?」
思わず須っ頓狂な声を上げれば、遮る様にずいっと箱が突き出される。
「こないだの任務で、怪我したろ。俺、暴走しちまったから、巻き込んで悪かった……じゃん」
尻すぼみな言葉の内容からすると、中身は特別な傷薬か何からしい。
受け取る箱に、なんだか気持ちが擽られるようで、温かさが胸に広がる。
「あ、ありがとう。――ところでさ、」
その、変化を。
もっと知りたかった。
目の前の男といれば、もっと見つけられるような気がした。
「カンクロウ、夕飯まだ? よかったらさ、これのお礼に……」
答えを得るのは、もう少し先のお話。
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