砂の里短編
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暗くなった廊下に一筋、光が伸びている。
開け放たれたドアの向こう、今日もきっと彼女はいる。
「清香ー、いるか?」
中を覗き、軽くドアをノックする。
すると、机で書き物をしていた彼女は顔を上げた。
眼鏡の奥、知性をたたえた瞳が細くなる。
「ん? ああ、カンクロウ。また来たのか」
「またってのはご挨拶じゃん。せっかく恋人が様子見に来たってのによ」
「ふふふ、済まなかった。本当は嬉しいよ。戸口では何だ。入ってくるといい」
「ん、邪魔するじゃん」
了承を得てから部屋に入る。
清香はここで里の書物の管理を行っている。
たかが書物の管理と侮ることなかれ。
里中の書物の管理というのは意外に大変な仕事だ。
在庫、貸し出し、分類、入荷、記録――。
里の歴史全て扱っているといっても過言ではない。
他の施設との連携もあり、気がついたら出張しているなんてこともざらにある。
俺達忍が刹那的な現在と未来を相手にしているとすれば、
清香の相手は膨大な過去と現在だ。
ともすれば、傷付き、たちどころにねじ曲がってしまうほど緻密に積み上げられたもの。
だからもし、それらに危害が及ぶ可能性がある時、彼女のテリトリーに侵入したら――想像を絶する怒りが待っている。
以前驚かせてやろうと無断で入った時は顔の横に何かが飛んできて、見れば頑丈な鉛筆が後ろの壁に刺さっていた。
その後は……あえて語らないでおこう。
つくづく恐ろしい女である。
まあ、そこが仕事の顔と仕事以外で見せる顔とでギャップが出ていいんだけど。
お茶入れるよ、と急須をとる清香を目で追い、気付く。
そういえば、清香はいつから眼鏡をかけているのか。
ちらと机を見れば、字の細かい書類達。
机の横の山積みになった書類も見て、本当に大変そうだと思う。
俺達の書いた報告書の山もある。
これを整理していくのかと思うと、清香の根気に感服する。
俺、忍でよかった。
こんなに細かいものとばかり向き合っていたら、目も疲れるだろうに。
そういえば、彼女に初めて会ったときも、書類絡みのことだった。
確か、俺の報告書が汚いとバキ先生に呼び出された時、隣にいたのが清香だ。
あの頃は俺も清香も今よりもっと幼かったけれど。
確か清香はあの頃から眼鏡をかけていた。
「はいお茶。……何考えてたんだ?」
「んー、清香のことじゃん」
「ふふ、それは光栄だね。私の何がそんなに興味を引いたのか」
茶を一口飲み、清香の顔に輝くものを見る。
「眼鏡じゃん」
「は?」
清香がきょとんと目を見開く。
「眼鏡、いつからかけてんだ?」
「うーん、そうだな。確か11くらいからだな」
「けっこう前からだな」
「まあ、両親について6つからこの仕事をしているからね。目も悪くなる」
眼鏡を外して眺めながら、清香は笑う。
ああ、素顔もいい。一気に無防備感。
清香のポイントはギャップだな、と再確認した。
「ふーん。じゃあ、今眼鏡外してどのくらい見えるんじゃん?」
「そうだな……」
周囲を見回し、考え込んだ後、清香は俺を見た。
そして、俺に近づくと、すっと顔を寄せてきた。
鼻先の付きそうな距離に心臓が跳ね、たじろぐと、清香は口を開いた。
「このくらいで、はっきり見えるな」
静かにそう言い、清香が離れる。
そしてそのまま座って眼鏡をかけようとする清香に、今度は俺が瞬身で近づいた。
与えられたものを奪われるような感覚に焦る。
大体、何事もなかったかのような清香の反応も気にくわない。
俺ばかりが清香を意識しているようだ。
もっと、清香の頭を俺で埋めたいくて、先程の距離と同じように顔を近づけた。
急に覆い被さった俺に清香は驚いて目を見開く。
珍しく動揺する清香が可愛くて、口角が上がった。
ああ、もうスイッチオン。
「っな、何……っ!?」
「あれだけ接近されて、冷静保つなんて俺には絶対無理じゃん」
「ちょっ、カンクロウ待っ……んんっ」
問答無用。煽った清香が悪い。
責任はきっちり取ってもらう。
「んっ……カンク、ロ……っ」
「……っ!」
ああ、でも。
やっぱりお持ち帰りでスイッチ全開になりそうだ。
清香の手から眼鏡が滑り落ち、カタンと音を立てた。
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