木ノ葉短編
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最近清香に無視されるようになった。
廊下ですれ違う際、笑顔で手を振っても、そっぽを向かれ。
上忍待機所で会えば、即、他の人に話かける。
話の輪に入ろうとすると、不自然無く話を切り上げ、退室。
街で会っても、視線も合わず。
本格的に、意識して俺の存在を抹消されてる。
いやまあ、自分が悪いのは分かってるんだけどね。
反応が面白いもんだから、ついつい、からかいたくなってしまう。
清香と初めて会ったのは、清香が上忍になった日だ。
あの頃は可愛げたっぷりだった。
きらきらした瞳で俺を尊敬して、敬語で、どことなくテンゾウみたいな。
敬語はいいよと言ってからは、よくつるむ同僚になって。
ある時、内容は忘れたが、からかって嘘をついた事があった。
その時の清香は、真っ青になっておろおろと右往左往し始め、からかったこっちが驚いた。
ネタばらしをすれば真っ赤になって狼狽えて、なんとまあ、面白かったこと。
以来、味をしめた俺は事ある毎に清香をからかう様になった。
そして、現在に至る。
まあ、100%俺のせいだが。
無視され続けるっていい思いではないし、清香は普通に遊んでも楽しい相手だから。
そろそろ仲直りしておきたいなぁ、と思い。
俺は今ここにいる。
仕事場の出口。
ここなら絶対に通るし、清香は遅番だったから残っている人数も少ないだろう。
逃げられずに2人で話すならここで捕まえないと。
組んだ腕の人差し指をトントンと遊ばせながら、とっぷりと暗くなった空を眺める。
色々と考えながら待っていると、漸く清香の気配がやって来た。
よし、行くかと組んだ腕を外しかけて、固まる。
気配は、2人分だった。
他の同僚と帰っているのか。
清香は大概1人で帰るのだが、今日は心配した誰かと一緒らしい。
しまった、どうするか。
「あはは、私だって上忍なんだから、夜道の心配なんていらないのに」
「いーや、仮にも女性を1人で帰したとなったら、男の面目がない」
「“仮にも”?」
「あっしまった。つい、声に出た」
「この、イズモ~っ!」
楽しそうな声が聞こえてくる。
今日はイズモが清香を家まで送るらしい。
ならば、今日はやめるべきか。
そう思いながらも、足が動かなかった。
……何でこんな事してるんだろう、俺。
気配を悟られにくい距離をおいて、清香とイズモの後をつける。
気配はできるだけ消して、会話を聞き取れる位には近く。
何だか情けない気がして、内心盛大にため息を吐いた。
清香の家に着いた時は心底ホッとして、胸を撫で下ろした。
「ごめん、送ってもらっちゃって。遅いのに、ありがとね」
「いいって。清香と話せて楽しかったし」
これで漸く気が済んで、自分も家に帰れる。
下手したらA級任務より精神的負担がかかった。
帰ろ、と腰を上げた時、また声が聞こえてきた。
「ねぇ、清香。カカシさんと、最近距離がないか?」
「え、そう、かなぁ?」
途端に、耳が集中する。
「前は、よく一緒にいたのに、今は……。別れたのか?」
は?
「は?」
「え、付き合ってるんじゃないのか?」
「ち、違う違う違うっ! 付き合ってないよ。あんなおちょくり男と付き合う訳ないから」
おちょくり男って……。
ちょっと眉根をよせてみるも、抗議出来ない表現に眉を下げた。
それにしても、一部からそんな風に見られてたとは。
俺と清香が、ねぇ。
実際意外なのは、不快なくむしろどこか少し照れたような、自分の感覚だった。
まあ、それで清香に戴いた評価は“おちょくり男”だった訳だが。
「そっ、か。それなら、さ。これから、出来るだけ俺が帰り送ってもいいかな?」
「へ?」
「あと、来週の水曜日早引けだろ? 俺も早いからさ、飯食いに行こう。あ、もちろん奢る」
愕然と言葉を失った。
――去らなければ。
ここから先は聞いてはいけない。
頬を上気させて言葉を募らせる、彼が続ける言葉は。
「分かんないか? ……俺、ずっと清香が好きだったんだ」
そこから先は、覚えていない。
気がついたら、家のベッドに倒れ込んでいた。
拳を握りしめ、腕を瞼に重ねる。
ああ、そうか。
自分は、清香とはしゃげる日々が幸せで。
その場所にぬくぬくと居るのが楽しくて。
その当たり前の刻に慣れきって、気付けなくなっていたのだ。
「清香、」
自分も、実は彼女が好きだったのか。
気を置かず接してくれる彼女が。
「清香……」
――どうしようも、ない。
END.