木ノ葉短編
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「……さ、寒いでござる」
「お前はいつの時代の人間だ」
シノのツッコミに「現代だ」と返せば、ため息が一つ吐き出された。反射的にムッと眉根を寄せる。
目の端で隣を睨むも、口から吐き出された息が白いのを見て一気に寒さが倍になり、それ以上返すのを止めた。
代わりに、羽織ってきた上着の前を寒さを締め出すように寄せた。
「ううぅ~、寒いぃ~」
「お前は少し黙るべきだ。なぜなら俺が迷惑している」
本当に鬱陶しそうにシノが顔をしかめて言ってくる。
ちくしょー、万年厚着人間め。
お前さんには一生この辛さは理解できまいよ!
大体、寒がりの私が普段こんな薄めの上着着るわけないでしょ?
何でなのか少しくらい察してよ。
シノと2人で任務だからって昨晩から一生懸命服選んで、少し寒いけど我慢するかって苦渋の決断までしたのに。
やっぱり寒いもんは寒いんだよ!
ぶつくさ鬱陶しくって悪かったわね、この鈍ちん!
たまには虫ばっかりじゃあなくて乙女心の勉強もすればいいんだ!
「……黙らないもん。寒いもんは寒いんだ!寒い寒い寒いっ!」
「清香、」
「寒いっ!!シノなんか嫌いッ」
「……」
ぎゃんぎゃんと当て付けのように叫んでやれば、シノも諦めたのか口をつぐんだ。
やった、勝ったと思いつつも虚しい感が否めず、私もそれ以上は黙った。
変わりに、下から這い上がってくる寒さと格闘を始める。
一生懸命あっためようと短めのスカートをはいた脚をすり合わせていると、ふいにシノが私を呼んだ。
「清香」
「なに……ぷふぉっ」
「着ておけ」
振り返った瞬間衝突したそれを見れば、見覚えのあるコートで。
顔を上げるとさっきよりも一段階薄着になったシノがそこにいた。
心なしか不機嫌そうな顔で、早くしろと促してくる。
「え、いきなり何で?」
「いいから、着ろ」
「えええ~、いいよ。だってあと帰るだけなんだし。もう2時間くらいで里に着くでしょ。そのくらい我慢するよ」
はい、とシノにコートを返す。
そしてまた前を向き、歩き出そうとした時。
シノが後ろから、コートごとかぶさってきた。
驚いてじたばたするも、後ろから伸びた腕ががっちり私を抱えこんでいて、上手く身動きが取れない。
すっと耳元にシノの顔が近づき、清香、と低い声が私を呼んだ。
いつもより抑えたような声に、思わず体が抵抗を止める。
「清香、コートを着ろ。俺も男だ。ここでもう2時間がもう一晩になるような後悔をしたくないだろう」
一瞬、シノが何を言っているのか分からなかった。
けれど理解した途端、顔を真っ赤にしてかぶせられたコートと一緒に、シノから距離を取った。
「シノ、シノちょっ……何言ってるのかなあっ?あははー、寒さで頭おかしくなったんでしょ!ね!?」
「わからなかったか。清香、襲われたくなかったら今すぐ着ろ」
「はい喜んでっ」
言うが早いかほとんど一瞬の速さでコートを羽織る。
シノのマジ顔と威圧感が怖い超怖い。
あははは、あったかーい。と笑いながらも私の背中には冷や汗が一筋伝っていた。
シノが納得したように頷いて、また歩きだす。
その後を追いかけるように私も歩きだした。
一定の距離を保ちながら、前を行くシノの背中を見る。
「……あの、さ。シノ」
「……なんだ?」
「さっきの、本気で言ったの?それとも、黙らせるために冗談で言ったの?」
「後者だ」
「あ、あは。やっぱそうだよね」
「……と言いたい所だが、前者だ」
シノの返事に思わず足を止めると、シノもつられて歩を止めた。
そして表情の読みにくい顔をこちらに向けると、じいっと射抜くような視線をこっちに投げかけてきた。
「……服装が、いつもと違うな」
「へ、」
「脚が、いつもより出ている。襟元も、いつもより広い。それに髪も、上の方でまとめてある」
ざわ、と木が風に揺れるのと共に、シノからの気配が変わった。
思わず一歩下がると、シノはすたすたとこちらに歩み寄ってきた。
後退し続けた背が木に当たると、シノは瞬身で一瞬にして間合いを詰めた。
逃げられないように、私の頭の上辺りに肘をつく。
上から覗き込まれ、鼻先がつきそうなほど近いシノの顔に心臓が跳ね上がった。
「清香。誰の為にそんな格好をしている?」
「それ、は……」
「好きなヤツのため、か?」
黙って頷くと、シノから殺気にも似た気配がにじみ出てきた。
驚いて顔を上げると、シノが眉間にしわを寄せていた。
「誰が、好きなんだ?」
「え」
「誰だ、清香……!」
「んんっ!?」
いきなりシノに顎を持ち上げられたと思ったら、唇が重ねられた。
荒々しいキスに抵抗しようともがくも、腕を頭の上でまとめられてしまい、動けなくなる。
抵抗らしい抵抗もできずに、ほとんどされるがままになっていると、薄く開いた唇からシノの舌が入ってきた。
瞬間、頭に血が登って、気がつくと私は、シノの鳩尾に膝を突き込んでいた。
軽い蹴りだったがノーガードだったため効果があったらしい。
シノは私から離れると咳込んだ。
少し涙目みたいだけど、むしろ泣きたいのはこっちの方だ!
「バカあああ!!シノのバカ、バカバカぁッ!!」
腹を抑えながら私の方を見るシノに大声で怒鳴りつけた。
「シノとの最初のキスは優しいキスにしたかったのにっ……シノのバカ!もう知らないこの鈍感ッ!!」
半泣きでバカを連呼した後、木に登って里へと走り出す。
「俺との、最初のキス……」
はっとしたようにシノが顔を上げ、私の後を追いかけ始めた。
凄いスピードで私の名前呼びながらこっち来るけど、絶対振り向かない。
速い鼓動は全力疾走でごまかせるけど、熱い頬は、ごまかせないから。
悔しいから、見せてあげない。
でも、里に着くまでに捕まえられたら……。
「清香!」
END.