木ノ葉短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よし、できた」
キュッと音をさせてペンが止まる。
細い短冊に書いた文字をもう一度読み直し、間違いがないことを確かめると、紐を持って玄関へと向かった。
「さーさのーはーさーらさらー」
昼間玄関に置いた笹に、短冊をひっかける。
今日は、七夕。
織姫と彦星が一年に一回の再開を遂げる、おめでたい日だ。
で、下にいる人間たちは、幸せ者の二人にちゃっかりお願い事をする。
「筈だったのになあ」
玄関から覗けば、外はザーザー降りの雨。
真っ黒く染まったこの空じゃあ、織姫と彦星も出会えない。
「一年に一回の大切な日なのに。ね、キバ」
誰もいない空に向けて、つぶやくように言った。
溢れそうになった涙を抑えるため、強く唇を結んで、ドアを閉める。
そしてそのまま、そこに背を預けてずるずるとその場にしゃがみこんだ。
今日は七夕以外にも、私の恋人、キバの誕生日という大切な日でもあった。
でも、今キバは里にいない。
任務のために、外に出てる。
予定通りなら今頃はもう帰ってくるごろだけど、生憎この雨。
今日はきっと帰ってこられない。
はあ、とため息をつくと同時に冷たい雫が足元にしみを作った。
「催涙雨、かあ。誰が考えたか知らないけど、うまいこと言うよねえ」
七月七日に降る、二人の涙を誘う雨。
「キバ」
一年に一回の再会ってわけじゃないし、明日になったら会えるんだから、わがままだとは
思うけど。
なんだか無性にさみしくなって、会いたくてしょうがなくなってきた。
「キバ、帰ってきて……」
後からあふれてやまない涙を手の甲で拭う。
明日になったらちゃんと笑うから。
だから今だけ泣かせてよ。
鼻を啜り、もう一度涙を拭いた時。
急に体が支えを失って、後ろに傾いた。
え、と思った次の瞬間、濡れた何かに頭がぶつかる。
「清香?」
上から降ってきた声に弾けるように頭を上げると、目が合った。
「キ、バ……?」
驚いて目を見開いたまま固まる。
だって、こんなことって。
会いたいと思った瞬間に会えないはずの人が来るなんて、そんな。
奇跡だ。
「お前、泣いてんのか?」
しゃがんだキバの顔が、心配そうに私に近づく。
私も体を起こして、未だ信じられずにキバの顔を見た。
「キバ? え、本当に?」
「ああ、悪ィ。遅くなっちまって」
優しく涙を拭ってくれたキバに、思わず抱きついた。
「っわ! おま、清香、濡れるって!」
「キバ、お帰り! 待ってたよ!」
「……ただいま」
キバは仕方ないなというように笑うと、ポンポンと頭を撫でてくれた。
濡れてながらも感じ取れるキバの体温がうれしくて、また涙がこぼれる。
やっと現実だと理解すると、安心して頬が緩んだ。
と、同時にあれ?と疑問も浮かんでくる。
「でも、どうしてキバ帰ってこれたの? あんなに雨降ってたのに。
ちょっと危ないよ。どこも怪我してない?」
体を離してから一息にそう言うと、ちょっと落ち着け、とキバが苦笑した。
「本当は帰れねえとこだったんだけどよ、どうしても今日お前に会いたかったから。
紅先生に無理言って、先に赤丸と帰ってきたんだ」
少し頬を赤くして言うキバに、こっちまでくすぐったい気持ちになってくる。
「そ、そっかあ。嬉しいな」
照れて二人で笑っていると、小さく声がして、キバの後ろから遠慮がちに赤丸が出てきた。
すっかり蚊帳の外になっていた赤丸に手を伸ばし、ごめんごめんと頭を撫でる。
「赤丸も、キバここまで乗せて帰ってくれたんだもんね。ありがとう」
「ああ、全速力で頑張ってくれたからな!」
キバも赤丸にありがとな、と笑う。
「でも、急いで帰ってきてよかったぜ」
キバの言葉に私が首をかしげると、キバは悪戯っぽく笑った。
「だってよ、清香俺のことずっと待っててくれたんだろ? こんなトコで寂しそうに泣いてよー。全く、かわいいったらねえよな!」
「んなっ」
一気に顔が熱くなるのを感じ、誰のせいよ! とキバに叫んだものの、嬉しそうに、俺のせいと笑うだけで。
果ては、俺って愛されてんな! と抱きしめられてしまった。
キバに嬉しそうに抱きつかれると、なんでもまあいいか、と思えてしまうから、私も結構単純にできてる。
でも、雨の中急いで帰ってきてくれたキバに、私も間違いなく愛されてる。
嬉しくなって、私もキバを抱きしめた。
清香、と名前を呼ばれて顔を上げれば、小さくただいま、とキスをされた。
触れるだけのかわいいキスに、幸せを噛み締めて笑う。
「キバ、赤丸」
「ん?」
「クゥ?」
「お誕生日おめでとう。生まれてきてくれて
ありがとね」
「ああ。ありがとな、清香」
「ワンッ」
END.
おまけ
「ん? あ、短冊じゃねーか。何書いたんだ?」
「ああ、それ、もう叶ったからいいの」
『催涙雨が止んで、帰ってきたキバたちに「おめでとう」が言えますように』
「っ清香、大好きだっ!!」
「私も好き、キバ」
「清香ー!」
「わわわわ!? キバっケーキ落ちる、ケーキ!」
催涙雨を振り切ってきたキバと同じく、上の二人も天の川を乗り切ったようで、外の催涙雨も止んだ様子。
.