木ノ葉短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
物心ついた頃から、その人はいつも傍にいた。
ただ静かに、いつも部屋の隅などから私を見ていた。
彼のその異様な姿に、最初の頃は大泣きしたけれど。
「ああ、そりゃ油女様だね。この辺りの土地の神様だよ。あんたが寂しそうだから、遊びに来て下さったんだろう」
おばあちゃんの膝であやされながら、ちろりとその姿を見やる。
達筆な文字なのか模様なのか分からないものが描かれた布切れで目元を覆い、古めかしい着物を纏った長身の男の人。
所在なさげに隅に立つ神様を見て、その日から少しずつ怖いと思わなくなった。
近付くと、喜色を滲ませながらもどこか物憂げに頭を撫でてくれる。
彼が、田舎で祖母と暮らす私の遊び相手になるのは、それからすぐの事だった。
山でも川でも、彼は常についてきてくれた。
つと彼が指を上げると、蝶やバッタが現れる。
生き物全般が好きな私は、大はしゃぎでそれと戯れていた。
両親がおらず祖母に育てられた私は、穏やかな彼らに見守られ、自然の中で伸び伸びと育った。
やがて学校に通うようになると、油女様との時間は減っていった。
人の多い所は苦手なようで、私と祖母以外の居る時にはどこかへ姿を消していたくらいだ。
それでも、高校生になった今も帰路では迎えに来てくれて、家でも一緒に過ごしている。
「油女さまー、学校疲れたーねむいー」
「よく頑張ったな。だがもう少し頑張れ。何故ならもう少しで家だからだ」
「ヤダまだ後20分もあるー、おんぶー」
「歩け」
「ちっちゃい頃はおんぶで帰ってくれたのに……ケチ」
「何故ならその頃はまだ軽かったからだ。今の体重は……」
「わーっ!なに!?酷いよ乙女に向かってセクハラ!」
ひとしきり騒いでから、よっこらしょと立ち上がる。
手を差し出されたので取ると、そのまま自転車の後ろに誘導された。
「疲れたなら、俺が漕ぐ。後ろに乗っておけ」
「えっ……いいの?神様、着物で運転出来るの?」
「問題ない。何故なら、神だからだ」
それは根拠として正しいんだろうか。
とは言え、神が言うのなら人の子は黙って従うのみだ。
自転車に跨る神様の後ろに、大人しく尻を乗せる。
「眠くても、しっかり捕まっておけ」
広い背中にぽてりと頬を預ける。
やがて危なげなく自転車は進み始め、風がさらさらと頬を撫でていった。
彼の袖をすり抜けた風から、緑の香りがする。
懐かしい。
この匂いに包まれて、背中に揺られて眠るのが好きだった。
けれど、今は。
人からはする由もない香りに、この想いが優しく突き放されている気がするのだ。
「油女様」
「どうした?」
「……日が暮れるのが、早くなったねぇ」
「ああ。そろそろ、秋だな」
季節が、変わっていく。
自転車の風に揺られた枝から、桜紅葉がひらりと落ちた。
.
27/27ページ
