木ノ葉短編
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知恵者は秋の実りを蓄える。
何故なら、その先に冬が来るのを知っているからだ。
「というわけで、無駄にお前に構っている暇はない。何故なら、俺は忙しいからだ」
そう言って、燻らせる煙をふっと落ちてきた葉に吹きかけた。
煙に乗って押された葉が、ゆるりと地面に着地する。
気だるげに水タバコを吸うその姿は、まるで忙しそうには見えない。
呆れたようにこちらを見下しながら、彼は身を乗り出して、今度は私に向かって煙を吹きかけてきた。
「お前は何者か。それすら答えられないのに、お前は俺に何を求めている?」
「私の名前は清香って、何回も言ってるのに……」
「そういう話ではないと、何回も言っている」
このやり取りも何度目か。
けほけほと煙を振り払いながら睨み上げるも、彼はどこ吹く風とまた水タバコを口にくわえた。
印象的な色の瞳が、するりとこちらを流し見る。
品定めするように。何かを期待するように。
その瞳に映る何かになりたくて、ここに来ている。
長ったらしく小難しい話をするばかりの男で、愉快な会話がある訳でもないのに。
あの瞳から、目が離せない。
今日も今日とて、こうして来てしまうのだ。
「あなたの、目には。私はどう映ってるの?」
そう問うと、彼は少し眉を上げた。
「ほう、驚いたな。問い返すとは。少しは知恵もついたようだ」
感心した風に言ってから、考えるように水タバコを一口含み、軽く吹く。
そして、ふっと笑いながら、私を手招いた。
近づくと、タバコの吸い口が顎に添えられ、顔が上に向けられた。
「なら少し、ヒントをやろう」
そう言って、耳元に顔が寄せられる。
「俺は、お前が実になるのを今か今かと待っている。
何故なら、その実を手に入れたいと、ずっと望んでいるからだ」
頬がかっと熱くなるのを感じた。
心臓が、落ち着きなく跳ね回る。
顎にあった吸い口が、下におりて、胸の上にトンと置かれる。
「だが、お前が何者となるか、決めるのはお前自身だ」
さて?どうする。
煙に混ざる甘い香りが、頭の芯をくらりと揺すった。
花へ実になれと誘う虫は、やがて生ったその実を喰らう。
その通りに、彼のゆるく細められる瞳の熱は、私の身の内を絡め取るように這いずっていた。
熱に浮かされ、煙に揺すられ。
嗚呼。漸く、理解する。
とっくに手遅れで、答えなんて決まっていたのだ。
すっかり虜になっていたから、彼の元に幾度も来ていた。
「私は、……あなたの為の、実だわ」
「そうか」
口角を上げた彼が、嬉しそうに手を取り、身を引き寄せる。
「ならば、遠慮なく頂こう」
今まで耐えた空腹を、満たす為に。
うっとりとそう囁いてから、彼は唇を重ねた。
濡れた落ち葉の様なしっとりとした口づけを幾度か交わし、ふ、とその唇の間から、吐息が漏れる。
「嗚呼。想像以上だ。……ゆっくりと。これから楽しむとしよう。何故なら、冬は長いからだ」
伏し目がちの視線が唇をなぞってから、私を見つめる。
偏屈で回りくどい彼の愛は、伝わり難い物だけど。
その愛で紡いだ繭の中は、冬を越せるほど温かいのだろうと思った。
柔らかい果実を包むように、そっと抱き寄せるその腕は。
葉を落とす木枯らしに負けぬ程、温かな優しさに満ちていたから。
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