木ノ葉短編
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「シノくんの、お部屋に……行きたいです」
次のデートはどこに行きたいかと訊ねた際、清香は少し考えた後、恥ずかしそうにそう答えた。
同期である清香は、ヒナタと少し感じの似た、大人しい女子だ。
数年前に任務で組んだ時以来、お互いに気になっており、少しずつ距離を詰め。
今年、めでたく恋人となった。
幾度もデートを重ね、お互いの事を理解し合ってきた今日この頃。
確かに、そろそろお互いの部屋へ行くのも良いのかも知れない。
知れない、が。
「や、やっぱり嫌……ですか?ごめんなさい、無理にとは言いません」
「いや、少し驚いただけだ。何故なら、お前の方からその、積極的になるのは、珍しいからだ」
「うぅ……。好きな人の事、もっと知りたいって思ってしまって……すみません、変態みたいですよね私……!」
耳まで赤くして顔を覆う彼女に、拒絶する気など起きる訳もない。
嬉しさで俺の方こそ口元を片手で覆う羽目になる。
「いや、俺の部屋なんかで良ければ……是非、来て欲しい」
ぱあっと顔を上げ輝かせる彼女に、照れ臭い嬉しさと共に一抹の不安が俺の胸に浮かぶ。
何故なら、俺の部屋に彼女が居る状況で、紳士であれるかどうか……少し、自信が危ういからだ。
しかして、当日。
正直、彼女が居るだけで緊張が背筋を這い登り、手を出すどころではなかった。
思い返せば、友人と呼べる存在すら部屋に上げた経験が無い。
俺の好む生活しやすい普通が、周囲、ひいては彼女の好む物であるか、不安でしかなかった。
せめて不快な思いをする事だけはあって欲しくないと願いながら今日を迎えたが、果たして。
部屋に入った彼女は、緊張しながらも嬉しそうに周囲を見回している。
勿論片付けはしてあるが、気が落ち着かなくなるのでじっくりは見ないで欲しい。
「大丈夫か?その……変じゃ、ないか?」
「えっ、いいえ、全然!すみません、男の子の部屋に入るのは初めてなので、珍しくって……ジロジロ見ちゃいました、ごめんなさい」
「あ、いや。俺の方こそ、すまない。人を部屋に上げるのは初めてなんだ。不快にさせる部分があったら、教えてくれ。善処する」
「そんな、不快な所なんてありません!それよりも……シノくんの匂いがして、シノくんの物があって。ああここはシノくんの部屋なんだなぁって思えて、私、嬉しいです」
幸せそうに微笑みを向けられて、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
思わず顔を手で覆った。
別の方向に緊張してしまうので、やめて頂きたいものだ。
お互いに照れてぎくしゃくしながら、促した座布団に座って向かい合う。
好奇心を抑えられぬままチラチラと部屋のあちこちを見ながら、もじもじしている清香が可愛い。
「何か、気になる物があるか?あれば、一緒に見るが」
「あっハイ。では、ですね……」
彼女の希望により、虫の図鑑などを一緒に見る。
並んでページを捲る距離の近さに、お互いほんのりと頰を染めながら。
「あ、この蝶さん、綺麗な羽ですね」
不意に彼女が伸ばした手が、ページを捲り終えた俺の手と、当たった。
ごめんなさい!と引っこみかけた手を、気付けばそっと掴んでいた。
「え。あの、シノ、くん……?」
「あ、すまない……」
言いながら、手は離せず、そのままじんわりと彼女の温もりが染みていく。
甘やかな誘惑に流されるまま、ぼうっとしていると、彼女の手が優しく俺の手を握った。
「……ふふ。シノくんの手、大きいです」
俺よりも小柄な彼女は、照れながら両手で俺の片手を包んだ。
にこにこと笑う彼女に、ついに胸の内が溢れて堪らなくなって。
「清香」
軽く手を引き、彼女の顔を覗き込む。
不思議そうな顔をしていた彼女は、視線が合うと途端にぽんっと赤くなった。
「は……へっ……?」
意味不明な言葉を漏らす唇も可愛くて、思わず口元がゆるむ。
顔を近づけるとぎゅっと目を固く閉じる彼女の頬に、小さく唇で触れた。
そのまま隣へとずれたい欲を抑え、顔を離す。
彼女の事は、大切にしたい。
だから、今はまだ。
口付けた頬を撫でて、自分の物だと実感するだけで我慢しておこう。
「ふゎ……シノくん……。えへ、嬉しい、です」
潤んだ目でふうわりと笑う彼女と、額を合わせて笑い合う。
この幸せが続く事を、この幸せを守れる事を、ほんの少しだけ仄暗い欲を混ぜて、祈った。
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