木ノ葉短編
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正直、爆笑した。
目の前の男は非常に不機嫌を醸し出しているが、仕方ない。
申し訳ないが、今の私にこの笑いを止めるのは困難だ。
落ち着いて謝ろうと彼を見、また吹き出す。
駄目だ。
涙に滲んだ視界でもインパクトが絶大過ぎる。
「シノっ、表情見せないったって、それは、幾ら何でも、てっ鉄壁過ぎるよぉぉっ!」
て言うか、正しく鉄だ。
先日、教員試験に受かり、記念にサングラスを新調したシノが、今日、家に遊びに来た。
玄関の扉を開け、絶句。
茶を出すまでは何とか耐えたが、そこで限界だった。
ロボコップにでもなるつもりか、この男は。
いや、なるのは教師だが。
しかし子供に敬遠されそうだと考えて、いや、ウケは取れそうかと考え直した。
想像して、また笑う。
「……」
「ご、ごめんごめん! いや、大丈夫似合ってるよ」
「……やっぱり、替えるか」
「ごめんってば! あー、えっと。とにかく、晴れて新米教師! おめでとうっ」
臍が完全に曲がってしまう前に、仕切り直しと声を上げる。
彼は剣呑な視線を投げながらも、元々気分が良かった為か、それ以上は蒸し返さなかった。
それにほっとしてから、少しは慣れた顔を見る。
「それにしても、シノが教師、かぁ」
「おかしいか?」
「いや、全く。意外だったけど。案外向いてるんじゃないかしらねぇ?」
寡黙に、目立たずに、という一族の信条に反して、元来注目されたがりなのだ、この男は。
教師という仕事は、ある意味天職かも知れない。
まあ、突然教師を目指すなんて言い出した時には度肝を抜かれた。
理由は訊かなかったが、この男の事だから、考え抜いた末の決断だろう。
しかし、そう思うと興味がわいてきた。
一体全体どういった理由なのか。
訊けば、シノは口を開いた。
「皆が、新たな里を作る上で、前を向いて歩き出している」
ナルトは火影に、ヒナタはその支えに、シカマルは補佐に、チョウジは他里との交流に。
その他にも、里の環境を整える者、後を追えるような先人となるため精進を重ねる者、流れを見て覚えておこうと胸に秘める者。
「俺は、その中で、自分がすべき事、できる事を考えた。俺は、どちらかと言えば、仕切り屋だ。それに、外交などの場で派手に活動するよりも、じっくり根元から詰める方がやり易い」
それならば。
「後から里を支える世代を、育てる側に回ろうと思った。里の、世界のこれからを託せる者達を」
上手くできるかどうかは、分からないが。
1人で立派に子供を育て上げている紅先生の様に。
全力で挑もうと思っている。
彼はそう、静かに、胸の内に盛る焔を告げた。
彼の、この秘めた激しさが気に入っている。
彼を形作る一欠片を垣間見た気がして、少し胸が熱くなった。
……なるほど、これが惚れ直した瞬間、という奴か。
思考と裏腹に火照りが顔まで競り上がる。
照れ臭さを誤魔化すため、湯飲みを掴んで弄んだ。
「ふぅん、そっか。いいね、それは。期待できる未来になりそうだ」
「ああ。――それから、実はもう1つ、理由があって、だな」
「ん?」
小首をかしげ、彼を見る。
珍しく彼は、歯切れ悪く言い淀んでいた。
いつも、言いたい事は遠回しながらもはっきり言う男であるのに。
そんなに後ろめたい事でもあるのか、と鉄壁の瞳を見やった。
「お前と、添い遂げたいからだ」
「……は、」
湯飲みを遊ばせていた手が滑りそうになる。
い、今何て。
いや聞こえていたけど、でも。
混乱する頭に、意を決した声がまっすぐに響いた。
「平和な今、いつまでも忍に安定した仕事がある訳ではない。だから、今後お前を養う為には、確実な職がいい。子供も、何人か欲しい」
終いには柔らかな声音で告げ、私の手をとる。
優しいながらも力を込めて押し包むシノの手は大きくて、温かな熱が滲んだ。
「……俺と、生涯を共にしてくれるか?」
「っふふ。もちろん。シノ以外は嫌だ」
全く、なんて男だ。
どれだけ惚れさせれば気が済むんだか。
こればっかりはどうしても抗いようがない。
珍しく染まっている男の頬を指先で撫でた。
愛しいったらない。
きっと私も相当緩んだ顔をしているんだろう。
シノが、目元を覆うそれに手を掛ける。
あ、と思う間もなく障壁は除かれ、熱をたたえた琥珀が姿を現す。
その奥では、別の色も揺らめいていて、どこか妖しく艶かしい。
この瞳を見るのが私だけだとくれば、優越感にも似た喜びに胸を鷲掴まれた。
「そのサングラス、やっぱり似合うよ」と。
降りてきた熱を重ねた後に告げようと、密かに決めた。
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