抒情歌
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何年かの月日が流れた。
俺と清香は相変わらず。
いや、清香はどんどん成長していった。
子供から、少女へ。
俺も、昼間の観察や清香の魂を通して、どんどんと現実世界の知識や常識を理解していった。
そして、今や俺の魂は、肉体の感覚や感情についての感覚が実感出来るようになっていた。
清香は成長した影響か、以前の様な真っ直ぐ一辺倒な想いを俺に投げる事は無くなった。
その代わり、複雑で様々な感情をその時々で投げかけてくる様になった。
人間の食い物で言うなら日替わりのコース料理の様で、これはこれで悪くない。
ここで向けられる想いが全て俺に向いているのは変わりないのだから。
毎度満腹になるおかげで、俺の体は今や牛くらいに膨れていた。
俺の毛皮が心地良いのか、清香は相変わらず俺にもたれて俺とお喋りをする。
俺の方も、清香の重さや温もりが心地良く、手持ち無沙汰に毛を撫でられるのも気持ちが良かった。
「で、どうじゃん?学校には慣れたのかよ?」
「まだ高校生始まってすぐよ?流石に緊張しまくりよー」
「ま、心配すんな。お前は昔っから友達すぐ作れる奴だから、きっとすぐ楽しくなるじゃん」
「そうかなぁ?ふふっ、カンクロウが言うなら、気楽に構えておくわ」
顎の下を掻くように撫でられて、ゴロゴロと目を細める。
最近は撫でられる気持ちよさが分かってきたので、清香に撫でて貰う事が増えた。
おかげで最近、人型でいるより猫型でいる方が多い。
しかし、そういえば、と思い至る。
人型で触れ合った事はあまりない。
人は撫でられると気持ち良いんだろうか。
清香に少し離れて貰ってから、人型にくるりと変わる。
久しぶりに人型になると、なんだか少し奇妙な感じがした。
体の感覚を確かめてつつ見ると、清香が驚いた様に目を丸くしている。
「ん?どした、清香」
「あ、あれ?カンクロウ、そんな感じだったっけ……?」
「へ?」
清香を見て、自分の足元を見て、ああと思い至る。
「俺、人型も少し成長してるみたいだな」
清香が小さい頃は、多分今の清香くらいの大きさだった。
それが、恐らく人間の成人男性くらいになっている様だ。
鏡を出してまじまじと見てみると、確かに以前より体つきもがっしりしている。
へぇ、と一通り眺めてから鏡を消すと、清香はこちらを見たまま立ち尽くしていた。
「清香?どうしたじゃん?」
「いや……あ、う……」
近づけば、じりじりと下がる。
なんだかむっとして、逃げない様にがしりと両肩を掴んだ。
「なんで下がるんじゃん」
「いや、その……。ていうか、何で急に、人型……」
「ああ。忘れてた。清香、撫でてくれじゃん」
見失っていた目的を思い出し、清香に頼む。
驚いて清香が素っ頓狂な声を上げるが、構わずずいっと頭を差し出した。
清香も小さい頃は撫でられるのが好きな様子だった。
なら、人型でも撫でられれば気持ち良いに違いない。
清香の手が、ぎこちなく頭に乗せられて左右に動く。
ふむ。これは普通に気持ち良い。
でも、髪の毛があるせいか、猫の時とそう大差ない。
首の下なんかは、どうだろうか。
猫の時はそこが気持ち良くて好きなのだが。
彼女にねだると、そろそろと優しく掻いてくれる。
悪くは無いが、あの毛をかき分ける感覚が無いのでイマイチだった。
それよりも、毛が無いことで肌に直接伝わる彼女の肌や温度の方が心地良い。
「か、カンクロウ……?」
清香の手を取り、頬に当ててみる。
手の匂いは、猫よりは感じられない。
やっぱり猫の方が嗅覚が鋭いようだ。
そのまま、清香の手を首や腕に沿わせて移動させてみる。
服の上からだと毛が絡んだ手で撫でられているようで、少しもどかしい。
袖をまくって直接腕に当てると、スッキリと体温が滲んで心地よかった。
腹の服もめくって、清香の手を直接当てる。
腹の皮膚は腕より柔らかいせいか、より清香の柔らかさを感じられる。
腹を撫でて貰うのは凄く気持ち良さそうだ。
すりすりと彼女の手をすりつけ、満足したら、背の方にも手を持っていく。
背中は皮膚が硬いから、こちらはこちらで顎下を撫でられている時に近いかも知れない。
どこか安心して落ち着ける感覚にもなる。
耐えきれないとばかりに、清香が急に俺の名前を叫んだ。
「……っカンクロウ、も、もうやめよ?」
「……?」
見れば、背中に手を伸ばす為に俺に密着した清香が、俺を見上げて目を潤ませていた。
真っ赤に染め上がった顔で、口元を歪めている。
不意に、ここに満ちている清香の想いに気付いた。
甘酸っぱい匂いがして、触れるとしっとりとしながら、ビリビリと痺れる。
取り込んだ瞬間、魂が芯から揺れて共鳴した。
俺からも同じ想いが溢れて出て来るのを感じ、堪らず目の前の清香を抱きしめた。
視界すらクラクラする。
清香をもっと触りたいし、もっと清香に触れて欲しい。
腹を満たす為じゃない。
もっと、もっと清香の想いを味わいたい。
清香が欲しい。
清香の大切な何かが。
「清香……」
顔を上げて、彼女の顔を改めて見る。
潤んだ瞳はいよいよ涙が溢れそうで、顔の赤さは耳まで広がっている。
頬に触れると小さくビクリと跳ねる。
半開きで震える口元が面白くて、親指で捏ねる様に唇を触った。
現実を覗いていた時に、人間が唇同士を合わせる表現を見たことがある。
実際にやってみたら、どんな感触なんだろうか。
好奇心のまま、ゆっくりと顔を近づける。
すると、彼女の両手のひらが俺の唇を押さえてきた。
「だっ……だめ!ここまで!終わりよ!」
「なんふぇ……」
「終わりったら終わり!こういうのはっ……その、ちゃんと恋人同士でするんだから!」
ぐいぐいと胸を押され、渋々離す。
ぱたぱたと顔を仰ぐ清香に、再度触れようとすると、ぺしりと手をはたかれる。
「もう、今日は人型禁止!接触禁止!」
満更でもない空気だった筈なのに、その気に当てられたのは俺の方なのに、等とブツブツ内心文句を垂れながら、大人しく猫型になる。
それでも清香に触れずにいるのは癪だったので、不意をついて頬に軽く口先を当てた。
「んじゃ、続きはまた今度じゃん」
「っ……!」
ぺろりと口元を舐めて笑えば、清香はまた顔を真っ赤にしてぺちぺちと俺の背を叩いてきた。
可愛い姿が見られて溜飲も下がったので、今日はこれで良しとする。
.
