抒情歌
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あれから俺は、清香の周囲であれば少しだけ現実を覗けるようになった。
近頃は、夢の中であれこれ清香が昼間の出来事を話してくれる事が増えたので、話題が増えた。
夢の中で一緒の時間も、過ごしやすくて良い。
例の花は、あの形のまま取ってある。
それを横に清香を探そうと意識すると、清香の周囲が覗ける。
今は、ちょうどスケッチブックに絵を描いている最中だった。
一面明るい色の中に、異様な黒い塊と笑顔の顔らしきものが一つ。
これは……ついこの前の俺と清香か?
母親らしき人間の声が、上からふってくる。
「あら〜。またお絵かきしてるの?清香」
「うん!上手にかけた!」
「あら〜!上手ね清香ちゃん」
母親の友人がちょうど訪ねて来ているようで、そちらからは頭を撫でられている。
自慢気に母親たちに説明する清香に、母親たちはうんうんと頷いている。
「カンクロウはねー、とってもすごいの!ネコちゃんだし、かっこいいし、お花だってなんだって出せるの!
わたしねー、将来カンクロウと結婚するんだ!」
「そうなの〜、すごいねぇ」
「……」
清香の頭を撫でる友人とは違い、母親の表情は少し違和感がある。
疑問に思ってじっと見ていると、不意に、清香がこちらを向いた。
ぱあっと表情を輝かせ、スケッチブックを放ってこちらに駆けてくる。
「カンクロウ!」
驚いた。
清香は俺の魂を得たせいで、俺が見えているらしい。
見えるのは俺の方だけかと思っていたが、こうして覗けば彼女もこちらを覗けるようだ。
これが白昼夢と呼ばれる状態か、と納得する。
俺の手を取り跳ねる清香とは反対に、後ろの大人たちはいよいよ気味悪そうにこちらを見ている。
「……あの子、最近ずっと、こんな話ばかりするの」
「イマジナリーフレンドってやつでしょ?それかほら、何か幼稚園とかで流行ってるとか」
「むしろ、幼稚園の先生からも、繰り返しその話をしてるけど、お家で見てるアニメとかですか?って聞かれたのよ……」
「うーん、そっか……」
「あの黒い物の絵もずっと描いてるし、ちょっと心配で……」
ぎゅっ、と胸が掴まれたように不安になった。
こんな感覚になるのは初めてで、戸惑う。
このままでいると、俺と清香は引き離される予感がした。
現実の事はまだよく分かっていないが、今の清香は確実に疑われている。
夢の中と同じように語りかけてくる明るい笑顔を見ながら、俺は一つ決意した。
「なぁ……清香。一つ頼みたいことがあるじゃん」
その日、清香の夢の中で、俺は清香に向き直った。
きょとんとしている清香の手を取り、口を開く。
「夢の記憶をな、昼間は俺に預けて欲しいんじゃん」
「きおく?あずける?」
首を傾げる彼女に、なんと言ったものかと頭を悩ませる。
「その、いつもは夢で話した事を、目を覚ました後も覚えてるだろ?」
「うん!」
「それを、明日からは忘れて欲しいんだ」
途端、清香の表情が固まる。
やがて、その顔がくしゃくしゃと形を崩してゆき、周囲までが暗くなっていく。
「カンクロウのこと、忘れちゃうの……?ヤダよぉ!」
「だ、大丈夫!大丈夫、忘れやしねぇよ!今まで通り、毎日ここに来るし、会いに来たら思い出すじゃん!」
慌てて、こぼれ落ちる大きな雫を拭ってあやす。
しがみつきながらべそべそと泣くので、しばらくは腹の湿り気を感じながら頭や背を撫でてやるしかなかった。
やがて、落ち着いた彼女がぐちゃぐちゃの顔を上げる。
「ん、ほんと……?ずっとちゃんと会える?」
「ああ。約束するじゃん。毎日来るし、ちゃんと記憶は預かっとく。俺が来たら、ちゃんと記憶も元通りにしてやるじゃん」
「ん……。わかった」
顔を拭いながら言うと、渋々納得して頷く。
頭を撫でて褒めてから、気分を変えようと清香を抱き上げる。
「ありがとじゃん。じゃ、今日は何して遊ぶんだ?イルカでも見るか?」
「イルカさん!見るー!」
そうして、その日から清香は昼間は俺を忘れるようになった。
周囲も安堵した様子で、清香には何もされなかった。
昼間の様子を覗いても、清香は俺に気付かないし、何も問題ない。
夢の中で過ごす時もいつも通りで、その時の俺は、まるで気づいていなかったし、何も知らなかった。
俺に起きている変化と、この先に起きる出来事を。
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