エレクトロン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺にとって、清香は、彼女曰くの『ダベり友達』であり、隠れ蓑でもあった。
清香は、高校に入ってから出来た、数少ない俺自身の友達だった。
俺の遊び友達は、基本的にキバを通して知り合った連中ばかりだ。
自分から人と関わるのを疎う俺をキバはいつも巻き込んでくれる。
だから、俺は中学時代、それなりに浮かず沈まずの立ち位置に居られた。
高校に入って、1年生の夏休み明け。
清香は、俺の隣の席になった。
挨拶程度の関係が変わったのは、清香が教科書を忘れた為、机を合わせて授業を受けた日だ。
普通なら授業中に何か話した事で友達になる、という流れなのだろうが、俺達は違った。
互いに興味が薄かったし、正直、俺自身にそんなコミュニケーション能力は無かった。
俺達にそれが起きたのは、授業が終わり、机を戻そうと立ち上がった時だった。
清香が「あっ」と声を上げると、俺のノートを凝視していた。
いや、見ていたのはノートの下。
授業中こっそりと見ていた虫関係の雑誌がそこにあった。
昨日購入した最新刊で、我慢出来ず持って来てしまった物だ。
気持ち悪がられるだろうと覚悟していると、予想に反して清香は輝いた目をこちらに向けた。
「これ、最新刊? ねね、ちょっと見せてくんない?」
以来、俺達は友達としてよくつるむ様になった。
虫の話を他人と出来るのは楽しかったし、彼女のお陰で俺は安全に学校生活を送る事が出来た。
だから、彼女は俺の生活に、純粋に必要不可欠な存在だった。
失いたくないと感じるのは、大切だと感じるのは、そのせいだ。
――そう、思っていた。
[#da=1#]はいい奴だ。
噂の真実を知っても、何ら変わらず俺と友達でいてくれた。
目の事で無茶な協力を頼んだ時も、快く頷いてくれた。
俺は、その優しさに甘えきっていた。
最初はぎくしゃくしたものの、清香とのデートは楽しかった。
1人の時はあんなに恐ろしかった周りの目は気にならなかったし、清香に触れていると安心出来た。
以来、清香には多大な負担を掛けてきた。
楽しい外出に浮かれていた俺がその事に気付いたのは、清香が安心した様に部屋でクッションを抱いた時だ。
普通に過ごしてきた彼女には、やはりあの程度の視線でも負担が大きいらしい。
清香は何でもない風を装っていたが、やはり、疲れる物は疲れる。
それは、俺が一番よく知っている事だ。
――だが、この関係を続けていたい。
不意にそんな事を思った自分に驚き、それでも、友達として彼女を大切に思うなら、早々に解放すべきだと思い直した。
だからあの日、彼女と普通に別れる事が出来て、安堵したのだ。
やはり正しかった、これでまた友達として一緒に居る事が出来る、と。
それが、間違いだった。
清香が、あれ以来俺の家に遊びに来る事は無かった。
確かに、テストだ何だと慌ただしい行事もあった。
それでも、遊べない程ではない。
現に、清香は他の友達とは遊びに出掛けている。
確かに、ここ最近は俺が独占してばかりだったから、今度は他の友達が彼女と遊びたいと思ってもそれは自然な事だ。
だが、腑に落ちないと駄々を捏ねる自分が心の中で喚いていた。
しかし、正直誘おうにも口実が見当たらない。
手をこまねいている間に清香は彼女達に取られる。
清香がまた俺の家に来たいと言い出さないか期待するばかりで、実際そんな事は起きない。
もしかすると、清香は俺に辟易して、もう俺とは遊びたくないのか。
そんな暗い思考にずぶずぶと浸かっていた時、光が差した。
「なぁ、シノ! テスト明けによ、ぱーっと皆で遊びに行こうぜ!」
清香も誘う予定と聞いて、俺はすぐさま了承した。
これで清香と遊べるし、次への口実も見つけられるかも知れない。
その日は、テストの事も忘れて、休日へと思いを馳せていた。
一瞬、声が出なかった。
洒落込めば人は変わって見える。
そんな事は知っていた。
デートの時の清香の別人っぷりを見れば分かる。
あれを初めて見た時は感心が一周回って笑いになったな、等と思い出す。
だが、今目の前に居るのは、間違いなく、清香がお洒落をしている姿だ。
「ええーっ清香!? いいじゃない、その格好~」
「え、清香!? スカートだし……本当に清香よね?」
いのとサクラが駆け寄って叫ぶ。
そうだ、彼女はいつもと違う格好をしているのだ。
何か、言わないと。
だが、何と?
――可愛い
無意識に感想が頭に浮かんだ瞬間、清香と目が合った。
思わず開いていた口が閉じて、それから、意を決して口を開いた。
だが見えたのは清香では無く、キバの後ろ姿。
ナルトも寄って来て、2人で俺と清香の間を塞ぐ。
知らず、眉間に皺が寄った。
仄黒く腹から湧いた感情は、シカマルとチョウジの言葉で彼女が見せた反応により、どす黒い物に変わる。
その言葉を言う男は俺の筈だ。
何故なら、俺が一番清香の近くに居て、清香は……
――愕然とした。
何故、今なんだ。
今、気付いた気持ち。
今、彼女がいつもと違う格好をしている事。
それらが指し示す事実に、心臓が射し貫かれた様に苦しかった。
そこからは、地獄の始まりだった。
彼女に寄る男も女も全てが煩わしく、彼女自身がそれらを快く思っているのが気に食わなかった。
結局、彼女に問われた時もまともな返事一つ出て来さえせず。
以降は必死に、彼女はただ場に合った服装を普通にして来ただけだという希望にしがみついていた。
けれど、それも翌日耳にした言葉で大きく揺れる。
「清香さぁ、好きな人いるっぽいんだよねぇ」
「え、清香が? マジで?」
「うん。なんか水臭く隠してるけどさぁ、最近ちょっと違うくない?」
「あー、確かに。ちょっとなんか気を付けてるよね」
「そぉ。絶っ対好きな人いるよ」
「誰かね? 油女とか」
「油女は今までもよく一緒にいたじゃん。多分、キバだと思うな」
「へぇー、キバなの」
「こないだ遊び誘われた時に服とか気にしてたし。多分間違いないんじゃないかなぁ」
嗚呼、だから。
だから、あの日は、あんなに。
キバと清香が並んでいた姿を思い出し、何かが頭の中でひび割れた。
身を翻し、追い立てられる様に歩を進めた。
行き着く先は、彼女の机。
どうか、どうかこれがまだ確かな事実でないのなら。
俺にもチャンスを――。
「清香……。本当にすまないが、もう一度だけ恋人役をしてもらえないだろうか」
めざめた!