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「家に寄っていってくれ」
帰り際のシノの言葉に従い、昨日と同じ部屋に居る。
そろそろ暮れそうな陽が入る部屋では、鈴虫の美声が響いていた。
ほっと安堵する。
好奇の目に晒されはしたものの、特に何事も無く帰路につけた。
唇を引き結び、表情には出さないが、シノは繋がった手を強く握っていた。
私はただ、その手をしっかり握り返して、大丈夫だと笑うしか出来なかったけれど。
シノの平穏が乱れる様な事態が起きなくて良かった。
「もう、隠すのは止めにした」
シノは、呟く様に決意を語った。
「俺は、普通の人間だ。普通の男で、それは、そう振舞うのは、おかしい事ではない筈だ」
「うん」
確かにその通りだ。
彼がそう望むのなら、繕う必要は、どこにもない。
ただ、急にどうして。
疑問を読み取ったのか、彼は続きを口にする。
「努力を、しようと思った。普通に戻る努力を。何故なら、お前の傍に、恋人として堂々と立ちたいからだ」
私が最近シノの為に努力し始めた事を受け、シノ自身も変わると決めたのだという。
「お前の恋人は、普通の男だ。今後、そう胸を張って言える様に、俺は変わりたい」
「……ん」
なんと、言えばいいんだろうか。
ただ、ありがとうと、応援すると。
それだけでは違う気がした。
「……ありがと。シノがそう思えたのはさ、いい事だと思う。私、応援するよ」
でも、これだけは知っておいて欲しい。
彼の琥珀をまっすぐに見る。
「たださ、私、シノが好きだから。例え目が琥珀でもグラサンでも、性格面倒臭くても。シノが好きだから。それだけ覚えといて」
「……」
別段表情が変わった訳でもないのに、彼の目が泣きそうになった様に見えた。
するりと手が背に伸びてきて、そのまま抱き寄せられる。
ぎゅうと密着すると、低い声が耳に震えた。
「何故なんだ。お前は、俺が欲しい言葉をくれる。……清香、」
体が少し離れたと思うと、唇が重なった。
熱っぽい視線が、私の瞳を撫でる。
「好きだ」
「……私も」
唇に返すと、嬉しげに目が細められて、再び体が密着した。
柔らかく窓から入る陽の色は、彼の目と同じ優しい琥珀の色だった。
おしまい。