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「落ち着いた?」
「ああ、すまない」
シノはしばらくすると、ゆっくりと体を離した。
そして、罰が悪そうに目をそむける。
「どうしたの」
「その、悪かった。何故なら、お前の気持ちを知ろうともせず、ただ闇雲に離れたくないと、お前に対して乱暴だったからだ」
「いいって。お互い様だし。私も、アンタの気持ち知るのが怖くて、勝手に決めつけてた。ごめん」
そう、お互いに怖がりだったから。
友達という距離を壊したくなくて、でももう一歩進みたくて。
中途半端で、こじれてしまっていたのだ。
「だからさー、シノ。これであいこって事で!」
「だが……」
明るめに振舞ってみても、シノは納得出来ない様子で眉根を寄せている。
相変わらず根暗だ。
息を吐いてから、それなら、と口を開く。
「罰として、シノに尋問をしようか」
「尋問?」
「そーそ。カツ丼食うかって奴。ていうか、最近私もシノの事で色々悩んでたからさ、もう直接解決させてー」
「……サングラスの、事か」
「あ、それは――ごめん。悪いとは思ったけど、今日2人から聞いたから、その、大体知ってる」
「そうか……」
複雑そうな表情でシノは僅かに頷いた。
私も、思い出すと胸が重たくなる。
シノ本人からもこの話は聞くべきだろう、多分。
だけど、今は、やめた方が良さそうだ。
シノも私も浮上出来なくなる。
だから、また話せる時に話して欲しいと頼むと、シノは了承してくれた。
「で。えっと、私が疑問に思ってたのはここ最近の事。――ぶっちゃけさ、なんで昨日はデートしたの?」
不意を突かれた様に目を見開いて、また気不味そうに視線が落ちた。
別にあのキスをしたかった訳じゃないのは分かってる。
シノがキレたら何するか分からない奴ってのは、この2日で思い知った。
でも、普段のコイツはそんなに手の早い奴じゃない。
シノは少しの間、言葉を探して口内を動かしていたが、やがて躊躇いがちに沈黙を裂いた。
「この前の、皆で遊びに行った日があっただろう」
「えっ。ああ、新しい店巡りの日?」
「そうだ。……あの日、お前はその、洒落込んでいた、だろう」
「あー、えっと、うん。そうね」
「あの日、俺はお前に、その、可愛いと言えなかった。何故なら、他の奴らに先を越された上、お前が、誰の為にそんな格好をしていたか分からなかったからだ」
俺の為、でいいんだろう? と訊かれ、頷く。
「お前は、普段俺と遊ぶ時にはそんな格好はしない。だから、あの日よく話していたキバかと思った」
「ああ、それで」
「この際だから、正直に言おう。……お前を好きだと自覚したのは、その時だ」
「え、そんな最近だったの!?」
「ああ。だから、お前ともう一度デートをしたかった。きちんと服をほめたかったし、お前の気持ちを、確かめたかった」
だけど、彼は私が私服でデートしない事を忘れていた。
その上、私と話す内に、彼だけを特別に見ている訳じゃないと感じ、絶望したらしい。
それで、プッツンした、と。
「そっ、か。ん、ありがと。お陰で疑問解決ー」
「俺も、一つ訊いていいか」
「えっ。うん」
「デートをやめると言った後、俺の家に来るのを避けていただろう。何故だ」
今度は私が戸惑う番だった。
やっぱり気付かれてたみたいだ。
頭を整理する様に、横に流れてた髪を耳に掛ける。
「んー。私さ、その頃より前から、もうシノの事好きだったんだ」
シノが驚いて声を漏らす。
「だから私、シノに近づくのが怖かった。シノが、周りの女子の事見るみたいに私の事見たらって思って」
それでも、シノに好きになって欲しくて、おしゃれしたり。
でも、望み無しの反応を見てから、理解ある友達として振る舞ったり。
「近くに居たら、いつか絶対、ぽろっと気持ちが出るし。まぁ、正直言えば、どう接したらいいか分からなかっただけかも」
「そう、なのか。全く気付かなかった」
「まぁ、こんな感じ。お互い面倒臭い奴だけどさ、今後ともよろしくお願いします」
「ああ、そうだな。よろしく」
顔を見合わせて、笑い合う。
また、こうやって笑い合える時が来て良かった。
確かに、シノとは恋人らしい事をしたいと思う。
でも、多分一番したい事は、こうして傍で笑う事だ。
嬉しくて、重なったシノの手をぎゅっと握った。
じゅうきゅうっ。