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6時間目終了のチャイムが鳴る5分前。
私はバレないよう注意しながらも、既に荷物をまとめていた。
放課後になったら、すぐにあの男の所へ押しかけてやる。
午前中と同じに、頭に授業は入って来ない。
だが、午前中とは打って変わって、私は殺気染みた空気で滾っていた。
放課後のチャイムが鳴り、皆それぞれに席を立つ。
急いで出口に向かおうとして、ふと、足を止めた。
それから、大股でそちらへ足を伸ばす。
「あ、清香ー。帰るの?」
「うん。あのさ、ちょっと伝える事があってさ」
ん? なになに、と身を乗り出す友人に、一度呼吸を整える。
そして、はっきりと言った。
「私の好きな人、シノだから」
「へ?」
「今から告ってくる」
「はぁっ!?」
「じゃ、それだけ」
当然の如く混乱している彼女に背を向け、また出口に向かう。
正直、八つ当たりや意趣返しも少しある。
でも、はっきりと告げておかないと。
特に、友人であり、『琥珀の人』に相当な熱を上げていた彼女には。
例えこの先どうなろうと、彼女とは対等でいたいし、彼とは本気で向かい合いたいから。
――決意が鈍らない内に、急がないと。
「あ、ええと、頑張れ! 清香!」
背中に投げられた応援に、少し振り返って手を振った。
シノの家に着くと、やはり2人の話通り、両親共留守の様で人の気配はしなかった。
きっ、と上を見上げる。
シノの部屋も、カーテンが閉め切り、揺れる様子もなかった。
それでもあそこに居るんだろう。
2人の言う通り、項垂れて、膝を抱えて、独りで。
きゅ、と唇を噛む。
言いたい事が山程ある。
でも、伝えるべき事は1つだ。
覚悟を決め、インターホンを鳴らした。
小さなカメラの先にいる彼を見る様に、しっかりと視線を向ける。
2回目のインターホンを鳴らした時、漸くスピーカーから低い声が絞り出された。
「清香……」
「シノ、こんにちは。ちょっと話があるの。入れてくれない?」
「すまないが、無理だ。今日は……」
「ごめんけど、私帰る気ないから。シノと話すまで」
「頼む、帰ってくれ」
「あんたが頑固なのは知ってるけど、今回ばっかりは私も譲らないよ。ちゃんと話しよう」
「清香、」
「帰らない、から。あんたが開けるまで、明日の朝までだってここに居るから」
もう、私は逃げない。
今逃げたら、2人の思いも、私の思いも、全て水の泡になってしまう。
それだけは、絶対に駄目だ。
ぎゅっと拳を握り、カメラを見つめる。
やがて少し待つと、カチャリ、と控えめに扉が開かれた。
「シノ」
「入ってくれ」
促され、玄関に足を踏み入れる。
部屋でいいかと問われ、頷く。
靴を脱いで上がると、先導するシノに付いて歩き出した。
フローリングの床が冷たくて心地良い。
入れて貰えて良かった。
正直、言った通りに待たされてたら、朝までに干物になっていたかも知れない。
そういえば、以前の訪問理由は避暑のためだったな、と思い出す。
そう長い時間が経った訳でもないのに、私達は随分と変わったものだ。
目の前の広い背中を見て、じっと思いを馳せた。
じゅうしち。