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屋上に出ると、抜ける様な青空が広がっていて、少し悲しくなった。
電気設備なのか何なのかよく知らないけど、屋上の床からにょっきり生えてるみたいな部屋。
そこの日陰に入り込んで、ざらざら冷たいコンクリートの壁に背を凭れた。
……暑い。
居るだけでじわりと汗ばむ気温と湿気。
考える余裕無くてほいほい頷いたけど、ここで長話は少しキツいんじゃないだろか。
溜め息が口から漏れる。
暑さのせいか、自分への呆れか、シノのせいか。
考える前に、屋上の扉が開いた。
「よー、悪ぃ、待たせた」
「ごめんね、暑いのに……」
「大丈夫、私も今来た所」
2人が落ち着くまで、暑いね、等適当な言葉をちょっと交わす。
やがてキバが顔を向け、話が始まる、と口を閉じた。
「……昨日の夜、な。シノから連絡があった」
ぽつぽつと、キバは話し始めた。
「最初、俺とヒナタと3人のグループラインでさ。混乱してたんだろうな、訳分かんねぇ事ばっか書いてた」
「それで、会った方が早いってなって、私とキバ君でシノ君の家に行ったの」
2人は幼なじみで、昔からよくシノの家に行っている、というのは、シノから聞いた事がある。
親同士で話もしてあったのだろう、両親が留守中、夕飯をお裾分けに来てくれたりもしたという。
親には適当に訳言って出た、とキバは続けた。
「案の定、シノん家両親留守でさ。あいつ鍵もしねぇで、真っ暗な中部屋で蹲ってた」
「それで、明るくして、シノ君から話を聞いたの」
ちら、とヒナタがこちらを見る。
「えっと、その、清香ちゃんとの話」
どういう反応をすれば良いか分からない、という様子ながらも、少しはにかむ彼女。
つられて、こちらも少し耳が熱くなった。
「なんか、大分振り回しちまったみたいだな。悪ぃ」
キバは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いや、なんか、私もどこか悪かったぽいしさ。むしろ、謝ってもらってごめん」
しどろもどろにぺこと頭を下げる。
我ながら意味が分からないなと考えていると、キバは迷う様に視線を下げた。
それを見て、ヒナタの方が口を開く。
「清香ちゃん。勘違いだったらごめんね? 清香ちゃん、シノ君の事、好き?」
「ッ、へっ!!?」
飛び上がらんばかりの反応は、そのまま本心を表していた。
ヒナタに微笑まれてしまい、顔を真っ赤にしながらおずおずと頷く。
「ね?」とヒナタは今度、キバに首を傾げてみせる。
キバは溜め息を一つ吐くと、胡座をかき直してから口を開いた。
「あの、な。俺らが話していいのか分かんねぇけど、あいつ自分じゃ言えねぇと思うから、話すわ」
シノが目の事気にしてんの、知ってるよな、と言われ、頷く。
私達の事の発端はそれだ。
「シノの奴、割と顔がいい上にあの目だろ。昔それで周りと馴染めなくってな」
「幼稚園の頃はまだ良かったの。でも、小学校に上がってから、段々、周りの目が変わってきて……」
女子からは好奇の目で見られ、やがて遠巻きに付き纏われ。
男子からは面白くないとのけ者にされ、昔の様に虫を共通の話題にと持ち出せば踏み潰され。
ならば勉強でと頑張れば、かえって目立ってしまい、孤独を深める結果になった。
「そんな事が続いて……、シノ君、小学2年生の時に、一時期学校に来なくなっちゃったの」
「俺達で毎日シノん家寄って、何とか学校に連れ出せる様になったんだけど、その時には、シノはグラサンが手放せなくなってた」
それで、あんなにも卑屈になってたのか。
あんなにも、必死に。
大体、あの噂が流れ出したのも最近だ。
それまで、シノはサングラスを外して外には出られてなかった事になる。
久々に裸眼で外に出た時、怖かっただろう。
あの噂が流れ始めた時、とても落胆したに違いない。
今も、きっと、怖いんだ。
「そう、だったんだ」
「だから、それ以来、俺達と親以外には家でもグラサン付けっ放しでやってたんだ」
「でも、シノ君、今年の誕生日から、たまに外して外に出てたみたい」
「変わりてぇんだと」
ずっと同じ姿勢が窮屈になったのか、キバが腕を伸ばす。
「この先、今のままじゃいられねぇから、って」
確かに、私達はもう高校2年生だ。
次の進路が差し迫っているし、もう親の影から出ないといけない。
ふと、キバが真面目な顔になって言った。
「なぁ、清香。今日、帰りにシノん家寄ってくれ。あいつにはお前が必要だし、俺たちが何言った所で、あいつの誤解は解けねぇから」
「誤解?」
「うん。シノ君、どうしてかは分からないけど、清香ちゃんはキバ君が好きだと思い込んでるの」
「……」
心当たりは、ある。
多分、私の友達だ。
彼女達がまた噂でもしてたんだろう。
いや、紛らわしいばかりではっきりしなかった私が一番原因か。
「うん。学校終わったら、すぐ行くよ」
頷くと、2人は安心した様に顔を見合わせて、笑った。
じゅうろく。