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「そういやもうすぐ夏休みだけど。家族とかとどっか行くの?」
「特に予定はない。何故なら両親には仕事があり、そんな暇がないからだ」
「そか。学者さんも大変だねー」
適当な世間話をしながら、街を練り歩く。
勿論、手は繋いだまま。
たまに腕を組んだり、指を絡めた恋人繋ぎをして、道行く人に見せつける。
演技だから出来る芸当だが、素顔の時は絶対したくない行動だ。
隣の男は居るだけで注目の的なのに、更に強調するバカップル行為。
状況は公開処刑以外の何物でもない。
こいつだって恥ずかしくない訳ないだろうに、コレをする事で普段の生活が格段に楽になるってんだから。
ホント、しんどい日常なんだろうな。
「ねね、昼ごはんも食べたし、通り回るのはこれ位でよくない? そろそろ遊び行こうぞ」
「そうだな。行くか」
「よっし、やった!」
少し大袈裟に喜んで見せると、琥珀の目尻が柔らかくゆるむ。
今日は、うん、友達兼恋人役として。
彼の気分を和ませてやろうじゃないか。
僅かに高鳴った鼓動に合わせ、軽やかに靴音を響かせた。
「うわぁ、噂には聞いてたけど、本当スゴい……」
「ああ。これだけのアトラクションが室内にあるとはな」
キバ達とこの前来た通りの近く。
近頃この辺りは若者が集う街としてデザインされ始めている。
だから正直このデートで行く場所には事欠かなかった。
何せ次々新しい施設が出来てくるから、そこを覗きに行くだけで楽しめる上に目立てるのだ。
一石二鳥とは正にこの事。
で、今回の遊び場は、ここ。
屋内型遊園地。
ジェットコースターからお化け屋敷、コーヒーカップ等までずらり。
全てのアトラクションが室内で楽しめるのだ。
見た所どれも手を抜いてる様子も無し。
これは、当たりだ。
「……嬉しそうだな」
「ったり前でしょー! こんないっぱいアトラクションあるし、めっちゃ楽しそうじゃん!」
「そうか。なら、良かった」
あー。
ちょっと今の笑顔は反則かも知れないね。
アトラクションに目をやる振りをして、眩しい琥珀の色から目をそらす。
ここでぎくしゃくしたら駄目だ。
「えと、よーし! それじゃ、まずジェットコースターから攻めてくよ」
「いきなり飛ばしてきたな」
「景気付け、景気付け! 面白そうなのは制覇するかんね、ちゃんとついて来てよ!」
「おい、俺の希望は……」
「後で聞いたげる。まずはジェットへGOー!」
「……」
「あのー? シ、っとと。琥珀さんやー? 息してんの?」
「死んでいる」
「おー、生きてた」
「誰が琥珀さんだ」
「え、今さら?」
墓場のゾンビの如く恨めしい目をこっちに向ける男をどうどうと宥める。
まぁ、悪いのは私だよ。ごめんなさい。
興が乗り過ぎて近未来型コーヒーカップっぽい物を回し過ぎた。
結果、約一名がグロッキーだ。
くるりと辺りを見回すと、丁度カフェテリアが近くにある。
「あー、歩ける? あそこ行ってちょっと休も」
指し示すと、力なく頷いて歩き出す。
よろよろの足取りは何だか本当にゾンビの様で、思わず忍び笑う。
途端、ぐるんと振り向かれ、驚きに肩が跳ねた。
こいつ、何かセンサーでもついてるんじゃないの。
少し休憩すると、気分も落ち着いた様で、シノはやっと顔を上げた。
「あ、目覚めた。って、ごめんごめん。そんな睨まないでよ」
お詫びに買った飲み物を差し出すと、少し恨めしげな目が和らぐ。
渋々といった様子で引き取ったそれを一口飲み、はあ、とシノから息がこぼれた。
「お前は、いつもダルそうにしている癖に、テンションが上がると俺を振り回す癖があるな」
「あはー、ごめん。以後気をつけます。疲れさせたし、そろそろ他行こうか」
「何を言っている。まだ行っていない場所があるだろう」
ぎくりと背筋が凍る。
まさか、気付かれたのか。
いや、そんな訳はない。
今日はいつも以上に平静を保って、話題にも出さない様に気を遣ったのだ。
おもむろに広げられた案内図をヤツの指が滑る。
そして、1つの箇所で停止した。
絶望に汗が湧く。
だが、彼は淡々と行き先をそこに定めた。
「お前はここに行くのを避けていただろう。なぜなら、お前はジャパニーズホラーだけは苦手だからだ」
「分かってるならやめない!?」
「却下だ。これは園の出口付近にあり、ここからは遠くない。俺は気分転換に散歩がしたい。なぜなら、お前に振り回されて気分不良だからだ」
「仕返しか! ちょっ、ま……オニーっ!」
言うが早いか手を引いてずんずん歩き出す。
シノはこういう時ムキになって陰湿に容赦なく仕返してくる。
ガキ臭い……のは、お互い様か。
僅かに抵抗を試みながらも、項垂れて連行される。
15分後、完全にゾンビの立場は入れ替わっていた。
ああ、なんかデジャブだ。
じぇいそん。