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あれ以来、シノは家で遊ぶ時は素顔になった。
目が見えるだけで、こんなに人の表情というのは変わるのか。
シノは思ったより表情豊かだった。
特にその琥珀色の目は独特の雰囲気があり、騒がれるのも頷けた。
一体、何が気に入らないんだか。
まあ、気にしないと決めたので。
今日も今日とて、私は無遠慮にシノの家に上がり込んでいた。
差し入れた菓子を2人でつまみながら、ごろごろと床に転がる。
「この子綺麗な羽だねー。メス見つかったの?」
「いや、まだだ。明日、仕掛けた罠を見に行く」
「そっかぁー」
シノ程オタクではないが、私は虫が好きだ。
それが、シノと仲良くなった理由であり、この家によく転がり込む理由。
ま、この子達のおかげで家が年中適温だからっていうのもあるけどね。
そんな事を考えながら豪華な虫カゴを眺めていると、シノがふと顔を上げた。
「そうだ、忘れる所だった。――親父が新しい虫を飼育し始めたんだが、見るか?」
魅力的な言葉に、すぐさま振り向く。
そんなの、答えは決まってる。
付き合いもそれなりなシノは、私の虫の好みをよく知っている。
だから、声を掛けてくる時は、大概当たりだ。
薄暗い部屋の中を水槽の明かりを頼りに進む。
棚という棚全てに、虫の入った水槽が並ぶ。
そう言うと少し気持ち悪いが、実際は、綺麗に鳴く虫も居て案外悪くない空間だ。
「こっちだ」
「おー」
うきうきと、先導するシノについて行く。
そしてシノが立ち止まった所に、いた。
水槽の中、綺麗な羽を光に透かす、細工物の様な姿。
「外国から届けられた奴だ。非情に珍しい種で、寿命は長いが繁殖力は弱い」
シノの親父さんは、今度はその貴重な虫の繁殖について研究するらしい。
絶滅が危惧されていて、保護の必要があるから、と。
それは是非とも応援したい研究だ。
こんなに綺麗な生き物が絶滅するなんて、世界全体の損失だ。
「それ、めっちゃ支持する」
頑張ってって伝えてと頼むと、シノは緩く目を細めて頷いた。
「気に入ったようで何よりだ」
「シノのおすすめに外れは無いしね」
ひたすら色んな角度から眺め回す。
再々来る訳にもいかないし、目に焼き付けておかねば。
すっかり虫に魅入っていると、シノが口を開いた。
「清香。俺からも1つ頼みがある。いいか?」
「んー? いいよ」
特に気にも止めず、水槽を見たまま答える。
だが次の言葉に、私は余裕など微塵も無くし、固まった。
「俺と、恋人になってくれないか」
し。