デフォルト名:四条院 千紗季
第12帖
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いつもの生徒会室。
いつもと変わらないメンバー。
いつもと違うのは仕事内容だけ────のはずなのだが、いつものような調子が出ない者が一人。副会長用のデスクで何度目かわからない溜息を零した。
(パソコンと睨めっこ勝負しろなんて言われたら、絶対負けちゃうわねー……)
────などという訳の分からないことまで考え始め、お手上げ状態である。
千紗季は諦めたように液晶画面から視線を外し、うさぎを模したマウスのホイールを無意味に上下に動かした。
こんなにも集中力が欠けてしまった原因の心当たりは一つしかない。雷門サッカー部を嗅ぎ回る帝国学園の不審な行動だ。
(……気にしすぎっていうのは、わかってるんだけどね)
帝国との練習試合で繰り広げられた光景と、あのとき見失った鬼道の後ろ姿が、どうしても脳裏にチラついて仕方がないのだ。
そもそも豪炎寺が加入したとはいえ、雷門サッカー部はまだまだ弱小チーム。全国大会で負け無しの
であれば、帝国の狙いは何なのだろうか。
あれは本当に、ただの敵情視察なのだろうか。
あのとき心に宿った違和感がなかなか拭えず、時間だけが過ぎていく。何かを見落としているはずであるが、その答えがなかなか浮かび上がらなくて、堪らなくなった千紗季は席から立ち上がった。
「ねえ夏未、ちょっと良い……?」
「あら、具合でも悪いの?」
眉を寄せてこめかみを押さえる千紗季に、会長席で書類を確認していた夏未が首を捻る。
「そんなんじゃないわ。気になることがあってね……」
「……場所を変えましょうか」
千紗季の様子から込み入った話であると判断し、夏未も席を立つ。
役員達へ簡単に仕事の指示を出し、二人は理事長室へと移動した。
「それで、気になることって?」
「実は……────」
来たる清掃活動のルート確認中に鬼道を目撃したこと、その後サッカー部の様子を伺うために鉄塔広場へ赴いたことを、時系列順に、そして、当時の状況を事細かに説明する。
千紗季の報告を受けた夏未は、澄まし顔でこう言った。
「貴方も随分、サッカー部のことを気にするのね? 私のこと、言えないのではなくて?」
「だーかーらー、私は元々私的な理由で廃部反対派でした〜」
帝国について言及する内容ではなかったために、千紗季は思わずむくれて反論する。
「あの練習試合のせいで帝国への印象最悪だから、どうしても警戒しちゃうのよ」
「…………」
夏未は思案する。
率直な感想を言うならば、千紗季の不安は少々大袈裟なようにも感じられるのだ。
敵チームの情報収集は、対策を練るために必要な取るべき手段である。帝国に対する警戒心が強いあまり、千紗季が過剰に反応しているだけなのではないかと。
「参考までに聞きたいのだけど、貴女がそこまで警戒する理由は?」
しかし、夏未は知っている。
千紗季のカンが働く時は、彼女の中に必ず相応の違和感が宿っていることを────
「いくら豪炎寺くんがいるとはいえ、
「つまり、帝国学園には何か別の目的があるのではないか、ということ?」
千紗季の見解から言いたいことを察し、夏未がそれを言い当てる。
ご明察とでも言うように、千紗季は首を縦に振った。
「もちろん、目的が単なる情報収集だけって可能性の方が高いとは思うんだけどねー……でも、何かが妙というか……」
「何か、とは?」
「それがわからなくて困ってるの」
千紗季は決して思い込みが激しいわけではない。
自身の見解が、必ずしも的中するものでもないということは自覚している。それが、根拠の薄いカンによるものであれば、尚のこと。
ただ、警戒心が強く慎重であるが故、あらゆる可能性を想定し、備えることが癖になっているのだ。
実際にそのリスクヘッジが、彼女自身の身を守ってきたことに変わりは無い。
夏未は、しばし考え込む。
数秒経って、口元に笑みを湛えた。
それを目にした千紗季は身構える。
「そこまで気になるのであれば、間近で確かめれば良いのではないかしら」
「間近でって、どうやっ…………ねえ、もしかして」
今度は千紗季が夏未の意図することを察し、そして、盛大に顔を顰める。
そんな相棒の反応を愉快そうに眺めながら、夏未は提案した。
「サッカー部の臨時マネージャーとなって、しばらく帝国学園の動向を監視してはどう?」
その言葉に、千紗季は思わず頭を押さえた。
「生徒会の、それも副会長のあなたが派遣されれば、仮に何か裏があったとしても、そう簡単に下手な真似はできないはずよ」
「またとんでもないこと言い出しますねー」
「貴女、ここで私が大丈夫だと言っても納得しないでしょう?」
「仰る通りでございますー」
幼馴染の二人ほどでは無いが、それなりに時間を過ごしてきただけある。警戒心が強い千紗季の性質を、夏未はよく理解していた。
「……まあでも確かに。サッカー部の近くで
夏未の提案は、理に適っている。
そして、疑問が生まれたにも関わらずジッとしたままでいるのは、千紗季の性分ではない。差し出された提案を拒む理由はなかった。
「決まりね。では、さっそくサッカー部のところへ行きましょうか」
善は急げ、ということか。
千紗季を置いてけぼりにして、夏未はスタスタと理事長室から出て行ってしまう。
数秒経って溜息と共にようやく動き出した千紗季は、駆け足で夏未の後を追った。
しかし、サッカー部の部室へ向かったものの、どうやら不在のようだった。扉はしっかりと施錠されている。
グラウンドはいつもの如く他の部活が使っているため、彼らの居場所の候補は二つとなる。
「また河川敷か鉄塔広場かなあ」
「そう。では、場寅に車を手配するよう伝えるわ」
「え……別に今すぐ行く必要なんてないでしょ。距離もあるし、戻ってきてからでいいんじゃない?」
「こうしている間にも、帝国の人間が怪しい動きを見せているかもしれないのでしょう?」
そう言って、夏未はポケットから携帯を取り出す。
目的地は学校から徒歩三分、なんてほど距離が近いわけでもない。用が済めば夏未は一度学校へ戻るのだろうし、それならば彼らが部室に戻って来たタイミングに改めて出向けば良い話だ。
だというのに、わざわざ時間をかけて学外の練習場へ赴く理由はなんなのか。
千紗季は、片手でボタンをタップする相棒の横顔をじぃっと眺める。そして、真顔でボソリと零した。
「あぁ、つまり夏未は、サッカー部の様子が気になって仕方ないのね」
「そんなんじゃありません」
千紗季の呟きをしっかりと拾った夏未は、途端に顔を赤くして反論する。
「そーんな真っ赤な顔で言われても、説得力ないけど」
「理事長室の金庫に保管されているほどの重要書物を授けたのです。理事長代理として、彼らがきちんと成果を出しているのか把握する義務が────」
「だから気になってるんでしょ?」
何だかんだと理由を付けてはいるが、夏未個人としてサッカー部が気になっているのだろう。必死に取り繕う夏未だが、千紗季にはお見通しであった。
(いっそのこと、もうマネージャーになっちゃえば……────)
しかし、千紗季はそこで思考を止める。
代わりに脳裏を占めたのは、夏未による数々の世間知らずエピソードだ。
(や、無理ね。夏未にマネージャーは……)
家事の経験がないどころか嫌がる夏未に、マネージャーの雑務などこなせるわけがない。
そう結論付けて、さっきの提案は胸の内にしまっておくのだった。
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