デフォルト名:四条院 千紗季
第6帖
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
路地の入口で、カツンとヒールの音が止む。
ホテルから全力疾走してきた千紗季は、ドレスの上から膝に手をついて、乱れた呼吸を整えた。
体の奥からバクバクと脈打つ心音を感じながら、ゆっくりと顔を上げる。
たくさんの車が、人が、煌々としたネオンの中を行き交っている。道路から鳴り響くエンジン音とあちこちから聞こえる喋り声が、千紗季の不安を和らげてくれた。
ふぅ……と、一つ深呼吸をする。
握り締めていた通話状態の携帯を耳に当てた。
「……もしもし?」
五数秒ほど経った頃だった。
『──っ、お嬢様!?』
穂波の泣きそうな声が響いた。
『ご無事ですか!?』
「うん、大丈夫。いま駅前通りに出たとこ」
『そう、ですか。申し訳ございません。お嬢様をお一人にさせてしまって……怖かったでしょう?』
「へーき。穂波たちも大変だったでしょ? ありがとね」
穂波が応答しているということは、あの男の従者から解放されたようだ。
警備員に追われたあの男はどうなったのか。
それについては後で考えるとして、まずは穂波たちと合流することが先決である。
「近くのベンチにでも座って待ってるから、迎えに来てね」
『はい。ですがお嬢様、人通りが多いからといって、油断してはなりませんよ? ナンパや勧誘などには注意してくださいね……』
「はーい、わかってまーす」
そう、ひとまず男から逃れられることはできたが、まだ油断はできない。
ナンパやアイドル事務所の人間に、しつこく付き纏われることだってあるかもしれないのだ。
(まあ、仮に声をかけられたとしても、しつこかったら周りに助けを求めるなり、近くの店に入り込むなりすればいいか)
さっきの状況と比べれば、ナンパや勧誘をあしらうことなど容易いものだ。
千紗季は通話を切って携帯をバッグに仕舞うと、再びドレスを鷲掴んだ。
「さて、と……」
路地から一歩踏み出して、大通りの歩道へと進む。
「おわっ……!?」
「ッ!」
建物の影から飛び出して、人とぶつかりそうになる。
少し気が抜けたせいか、曲がり角の確認を怠ってしまった。
「すみませっ…………あれ?」
謝罪の言葉と共に顔を上げた千紗季の視界に、見慣れた顔が映る。
「……一郎太?」
「えっと…………千紗季、だよな……?」
ばったりと遭遇したのは風丸であった。
私服姿で買い物袋を下げていることから、おつかいで駅前のスーパーにでも訪れていたのだろう。
「てか、その格好……」
「さっきまで夜会だったのよ」
「あー……なるほど、な……」
ポカンと突っ立って微動だにしない風丸を不思議に思った千紗季は、距離を詰めて顔を覗き込んだ。
「ちょっと、一郎太?」
「…………え?」
「どうしたのよ。ぼーっとしちゃって」
千紗季が呼びかけると、意識を引き戻したらしい風丸は、突然、驚いた表情でズズズッと後ずさる。
「〜〜〜っ!!」
「なによう、そんなに驚くことないでしょー?」
「あ、いや。その……えっと、ドレスが、さ……」
「なあに?」
「………………………………すげぇ、似合ってる」
今度は千紗季がポカンとする番だった。きょとん顔で、頬を真っ赤にした幼馴染を眺める。
「一郎太ってばほーんと初心なんだから」
「……今それを言うのかよ」
「別に私のドレス姿なんて、小さい頃に何回か見てるでしょ?」
「それは、そうだけどさ……」
そう、これが初めてではない。
小学生の頃も正装する機会は数え切れないほどにあり、屋敷の前で風丸や円堂と遭遇した時なんかに見られたことは何度もあるのだ。
「……中学に入ってからは、初めてだろ?」
「そうだっけ?」
記憶を遡ってみる。
言われてみれば、中学生になってからは、ドレス姿を一度も目撃されたことがない。生活リズムが変化した影響だろう。
とはいえ、だ。今日の反応は、これまでの中でも一番大きなものだったように思う。そこまで照れる理由がわからず、千紗季の頭にはてなマークが浮かぶ。
────が、それはすぐに弾けて消えた。
「まあ、一郎太が初心なのは昔からのことだしねぇ?」
「……うるさい」
風丸の照れ屋は今に始まったことではない。昔からドレスや着物で着飾った千紗季の姿を見る度、林檎のように顔を真っ赤にさせていたのだ。
風丸は、未だにほんのり頬を染めまま、千紗季を見ようとしない。
いつまでも変わらない幼馴染の反応に、揶揄いモードに入った千紗季はクスクスと笑って、そして、穏やかな眼差しを宿す。
「……ありがとね」
「なにが?」
「ドレス、褒めてくれたこと」
夜会で嫌というほど浴びせられた数々の褒め言葉を思い浮かべる。
”なんて可憐で美しい”
”まるで月の女神のようだ”
他にも挙げるとキリがないのだが、どんなに上手い褒め言葉も、千紗季には何一つ響かなかった。
反対に、風丸の言葉は素直に嬉しいものだった。彼の言動には醜い野心がない。
照れながらも純粋な気持ちを伝えてくれたことが、千紗季にとっては暖かいものに感じられたのだ。
「お、おう……」
風丸は真っ赤な顔のまま、ふいっと視線を逸らす。
遭遇してから何故だかやけに挙動不審な幼馴染が、不思議でならない。
1/6ページ
