Day30+1 11月9日 夕方 源外庵

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― ボン!



源外さんの方から黒くて油くさい煙がぼわーんとわいてきた。


「じーさん!今度はどうした?」


煙を吸い込んだのか、ゴホゴホする声が響いている。


「何でもねェ。そこらでテキトーに茶でも飲んでてくれ。」

「イヤイヤイヤどう考えても何かあったろ?」

「よくあることだ~、心配すんな。」


神楽ちゃんが様子を見に行ったけど、すぐに戻ってきた。
スマホと機械の接続に手こずってるらしい。

言われるままにスマホ預けちゃったけど、本当に大丈夫なのかな…。
みんなは全面的に信頼しているけど、まさか壊しちゃったりしてないよね。


それからも、しばらく桂さんの話をしていると源外さんに呼ばれた。




「出来たアルか?」


源外さんは神楽ちゃんの問いかけに即答せず、すすで黒くなった顔をタオルで拭いてから口を開いた。


「嬢ちゃん、残酷だけど本当のことを言わしてもらうぜ。」

ああ、これは悪い方の宣告だ。

「時間をもらえねーか。」

遠回しな表現だけど、現状は厳しいって言いたいんだ。

「俺は嘘をつくのが上手くねェ。それに、コイツは人生にかかわる重大な問題だ。だから、ヘタに気ィ持たせて適当な返事して、ぬか喜びさせたくねーんだ。」

「…。」

名前ちゃん…。」

神楽ちゃんが手を握ってくれる。

「大丈夫。話を聞こう。」

普通に言えたつもりでも私は震え声だった。




「まずは、携帯電話の仕組みから簡単に説明するぞ。」

源外さんは機械につないだスマホを指さした。

「携帯電話で音声やメッセージを送る時、自分の端末から一番近い基地局にデータを送信してるのはわかるか?」

「僕も姉上も持っていないのでピンときませんが、うまい具合に出来てるもんですね。」

「かぶき町でコイツは圏外だが、出力を大きく増幅させれば、嬢ちゃんの故郷(ふるさと)の基地局にデータを送ることができる。」

「『私は元気です。』とかメール送るアルか?名前ちゃんのメッセージだけ届いても、パピィやマミィは苦しむアル。」

手を握ってる神楽ちゃんの力が痛いぐらい強くなった。

「待て、最後まで話を聞け。人間もデータの集合体と考えりゃ、送信は理論上可能だ。」

「私がデータ?!」

「ターミナルから船ごと遠い宇宙へワープする技術と同じと考えときゃいい。」


源外さんは当たり前のように言うけど、ワープってSF小説みたいだ。
でも、私がここに居ること自体現実味がないし、とりあえず信じるしかない。


「あとはバッテリーだな。」

「こっちのコンビニでは規格が違って充電できませんでした。コンセントアダプター的な変換器具を作るんですか?」

「問題はそこじゃねーんだ。」

ケーブルでつながれたスマホのバッテリーランプは赤く点灯している。

「こう言っちゃ悪ィが、嬢ちゃんの世界の電化製品は省エネ仕様に出来ちゃいねェ。」

源外さんは、ため息をつくとあごひげをなでた。

「私の携帯電話はここのよりバッテリーの持ちが悪いってことですか?大体どれくらいの差があるんですか?」

「差っーレベルじゃねェ。コイツは半端じゃなく電気を食う。」

「なーんだ、フル充電待つだけかよ。だったら俺たち帰らせてもらうぜ。」

「じーさん、明日の朝来ればいいアルか?」


源外さんは首を振って私たちを引き留める。


「いいか、コイツを1秒稼働させるのに、ターミナルが使用する電力まるまる一日分使う。」

「…。」

「っーワケだから、時間をくれと言った。」

「そんな…。」

「まずは、効率の良いバッテリーを開発しねーとな。とはいえ、ウチの発電機だけじゃ足りねーから、ターミナルから電気を拝借していくぞ。なーに、起動できりゃ解明はケタ違いに進むだろーよ。」

「タイムマシンみたいに簡単に作れないアルか?」

「簡単?何言ってるんだ。アレは俺が五…


銀さんがとっさに源外さんの口をふさいだけど聞こえてしまった。

「五年」だ。

超天才でも、タイムマシンの発明には五年かかってるんだ。

五年、か。


急に視界がゆがんで足元が揺れる。
どうしよう…。でも、ここでしっかりしないと。


「源外さん、よろしくお…願…い…

私はその先を発音することができなかった。


「もういいアル、我慢することないネ。名前ちゃん、みんなずっとそばにいるヨ。」


神楽ちゃんに抱きしめられた体から出てきたのは言葉じゃなくて、沢山の涙だった。
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