August Part4 8月中旬 夜 屋形船
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遠くから船のエンジン音が近づいて来ると高杉の表情が険しくなった。
「お客さんですか?」
彼は私の手首をつかむと座敷の奥の真っ暗な部屋に連れていく。
「あの…接待は?」
「物音一つ立てるんじゃねェ。」
そう言うなり、高杉はピシャッとふすまを閉めた。
お酌させられるとばかり思っていた私は胸をなでおろした。
招いた客もどうせ裏社会の人間だ、顔を合わせないに越したことはない。
とはいえ、話の内容には興味があったので、近くの柱にもたれかかり、袖で口を覆って、ひたすら耳を傾けた。
数分後、エンジンをふかす音が消え、船が左右に大きく揺れると若い男が座敷に入ってきた。
高杉より随分年下に聞こえるけど、なれなれしい話しぶりから察するに、かなり親しい間柄のようだ。
続けて足音がして、もう一人やってくる。
そして、あいさつもそこそこに全員が座った。
まもなく、食べ物をかきこみ大皿をガチャガチャ重ねる音がふすま越しに響いて来る。
あたかも、おひつから直接ご飯を食べているような雰囲気だ。
― まるで、神楽ちゃんみたいに。
一升瓶を数本空けて男が一息ついたのか、隣の部屋は一気に静まる。
「晋助、タバコの匂いに混じって、いい香りがするよ。向こうに誰か隠してるの?」
― !
私は香水をつけていない、それに息を潜めていたのに、どうして気づかれたのだろう。
「女だ…今は寝てる。」
少し間があってから高杉は答えた。
「ふぅん、アンタも隅におけないネ。屋形船でお楽しみ中割り込んだ俺は、お邪魔虫ってトコかな。」
若い男の問いかけに高杉は何も答えない。
「そんな怖い顔しないでよ~。だって俺は強い女以外興味はないからね。さて、おなかもふくれたし、話を始めようか。」
その一言をきっかけに取引の話が始まった。
時々、「ばんさい」と先方のツレが口をはさむけど、基本的に高杉と例の大食漢が主導権を握っている。
「やれやれ」と何度もつぶやくツレは若い主人のお守り役のようだ。
内容はちんぷんかんぷんで全く頭に入ってこない。
私は、ひたすら退屈な時間をやり過ごした。
一通りやり取りを終えたのか、全員が立ちあがる音がした。
「ところで、白髪のお侍さんは元気かい?」
若い男が口を開いた。
「…さァな。」
高杉は素っ気ない。
「あの男は誰にも渡さないヨ。もちろん晋助にも。」
男は短く別れを告げると、屋形船を去って行った。
ふすまが開けられると、空になった大皿が積み上げられ、一升瓶は畳にゴロゴロと転がっていた。
片付けようとすると窓辺に腰掛けた高杉が手招きしたので、私は隣に座りぼんやりと夜景を眺めることにした。
「キレイ…。」
「テメーにはもっとイイのを見せてやらァ。」
独り言に返事があったので私は振り向いた。
「この空が真っ赤に染まったらさぞかし美しかろうよ。」
高杉は愉快そうにターミナルの方角を眺めている。
「花火、お好きなんですね。」
「ククク…。」
適当に相づちを打っただけなのに、どこがおかしいのだろう?
「花火??俺がぶち上げるのは、とびきりでっけェ火の玉だ。江戸を火の海にするくらいのな。」
常軌を逸した発言に私は息を飲んだ。
「俺は全てをぶっ壊す。」
その言葉で今、はっきりとわかった。
高杉は、過激派攘夷集団を率いる男なのだと。
2017年3月1日UP
「お客さんですか?」
彼は私の手首をつかむと座敷の奥の真っ暗な部屋に連れていく。
「あの…接待は?」
「物音一つ立てるんじゃねェ。」
そう言うなり、高杉はピシャッとふすまを閉めた。
お酌させられるとばかり思っていた私は胸をなでおろした。
招いた客もどうせ裏社会の人間だ、顔を合わせないに越したことはない。
とはいえ、話の内容には興味があったので、近くの柱にもたれかかり、袖で口を覆って、ひたすら耳を傾けた。
数分後、エンジンをふかす音が消え、船が左右に大きく揺れると若い男が座敷に入ってきた。
高杉より随分年下に聞こえるけど、なれなれしい話しぶりから察するに、かなり親しい間柄のようだ。
続けて足音がして、もう一人やってくる。
そして、あいさつもそこそこに全員が座った。
まもなく、食べ物をかきこみ大皿をガチャガチャ重ねる音がふすま越しに響いて来る。
あたかも、おひつから直接ご飯を食べているような雰囲気だ。
― まるで、神楽ちゃんみたいに。
一升瓶を数本空けて男が一息ついたのか、隣の部屋は一気に静まる。
「晋助、タバコの匂いに混じって、いい香りがするよ。向こうに誰か隠してるの?」
― !
私は香水をつけていない、それに息を潜めていたのに、どうして気づかれたのだろう。
「女だ…今は寝てる。」
少し間があってから高杉は答えた。
「ふぅん、アンタも隅におけないネ。屋形船でお楽しみ中割り込んだ俺は、お邪魔虫ってトコかな。」
若い男の問いかけに高杉は何も答えない。
「そんな怖い顔しないでよ~。だって俺は強い女以外興味はないからね。さて、おなかもふくれたし、話を始めようか。」
その一言をきっかけに取引の話が始まった。
時々、「ばんさい」と先方のツレが口をはさむけど、基本的に高杉と例の大食漢が主導権を握っている。
「やれやれ」と何度もつぶやくツレは若い主人のお守り役のようだ。
内容はちんぷんかんぷんで全く頭に入ってこない。
私は、ひたすら退屈な時間をやり過ごした。
一通りやり取りを終えたのか、全員が立ちあがる音がした。
「ところで、白髪のお侍さんは元気かい?」
若い男が口を開いた。
「…さァな。」
高杉は素っ気ない。
「あの男は誰にも渡さないヨ。もちろん晋助にも。」
男は短く別れを告げると、屋形船を去って行った。
ふすまが開けられると、空になった大皿が積み上げられ、一升瓶は畳にゴロゴロと転がっていた。
片付けようとすると窓辺に腰掛けた高杉が手招きしたので、私は隣に座りぼんやりと夜景を眺めることにした。
「キレイ…。」
「テメーにはもっとイイのを見せてやらァ。」
独り言に返事があったので私は振り向いた。
「この空が真っ赤に染まったらさぞかし美しかろうよ。」
高杉は愉快そうにターミナルの方角を眺めている。
「花火、お好きなんですね。」
「ククク…。」
適当に相づちを打っただけなのに、どこがおかしいのだろう?
「花火??俺がぶち上げるのは、とびきりでっけェ火の玉だ。江戸を火の海にするくらいのな。」
常軌を逸した発言に私は息を飲んだ。
「俺は全てをぶっ壊す。」
その言葉で今、はっきりとわかった。
高杉は、過激派攘夷集団を率いる男なのだと。
2017年3月1日UP
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