August Part4 8月中旬 夜 屋形船
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「テメェ…何者だ。」
検査結果に目を通した高杉は、そう言ったきり口をつぐんでしまった。
「ごめんなさい…。」
ごめんなさい、なんて言う筋合いはない。
でも、思わず口から出てしまったのは、高杉が怖かったからじゃない。
残酷な事実をつきつけられ落胆を隠せないこの人が、ひどくかわいそうだったからだ。
DNA鑑定にかけても判別できない、私が私である証明に決着をつけたのは、
― 指紋だった。
夜も更けた頃に宇宙船は下降し、港に着いた。
車に乗せられた時、私は直ちに解放されると早合点した。
だけど今、涼しい顔をした高杉たちと屋形船で過ごしている。
宴会用の長い机の上には、さっき夕食をとったのに、山盛りの大皿と一升瓶がずらっと並べられている。
私はキャバ嬢なので、接待要員としてお座敷に呼ばれたのかもしれない。
「何だ?構ってほしそうなツラしてるじゃねーか。」
「誰があなたなんかに…、そんな顔してないです。」
高杉は障子を開け放した屋形船の窓辺に腰掛け、私を隣に座らせると、一杯やりながらキセルを気持ちよさそうにふかしていた。
「ばんさい」と呼ばれる男は我関せずと言った風に、ずっと三味線を奏でている。
しばらく動揺を隠せなかった高杉は酒のせいか、余裕たっぷりの調子に戻っていた。
「ククク…俺と話す気はねェって言ったクセによ。」
高杉が再び、私の盃(さかずき)にお銚子を傾ける。
船に乗ってから何杯空けたのだろう。
お酌していたのに、いつの間にか飲まされている。
「…、外の空気吸いたいって言ったのはテメーだろーが。」
「それは、速やかに解放してくださいって意味です。さっきわかりましたよね?私はあなたの待ち人じゃありません全くの別人です。だからもう関係ないでしょ。」
別人だ、と言う度に彼の顔が一瞬ゆがむ。
御機嫌取りの相手を傷つけてもいい事ないのに。
でも、酒の勢いで自暴自棄になりかけてる私は、ありのままの感情をぶつけていた。
「もういい加減にしてください、とにかく帰らせてもらいます。宴会が終わったら港で降ろしてくだ…!ちょっと!何するんですか!!」
高杉はキセルを置くと、私を横抱きにして座敷の外に連れ出す。
船頭が止めるのも聞かず、水上へ投げ込もうとしたので私は青ざめた。
「帰りてーんだろ?」
「…。」
要は自力で泳いで港にたどり着けと言いたいらしい。
夏だから水温は高い、でも、ここから何キロあるのだろう。
とはいえ、この機会を逃したらいつ解放されるかわからない。
「あの…船頭さん、浮輪貸してください。」
「ククク…。」
仕掛けたいたずらが成功したとばかりに、小気味よく笑っている。
「…最低。」
憤慨した私は、座敷へ戻ると高杉から離れて座り、手酌をしながら午後の決定的な出来事を思い出していた。
健康診断をした医師は高杉の機嫌を損ねたくないのか、私が赤の他人だと主張しても聞き入れず、病気は奇跡的に完治したと結論づけたけど、不審を抱いてるのは明らかだった。
診断書に書いてある、彼女さんの病名。
まだ、特効薬は発明されていない。
罹患(りかん)した人の運命は、この世界に来て一年未満の私ですら知っている。
多分、高杉の彼女さんは、この世にいない。
検査結果に目を通した高杉は、そう言ったきり口をつぐんでしまった。
「ごめんなさい…。」
ごめんなさい、なんて言う筋合いはない。
でも、思わず口から出てしまったのは、高杉が怖かったからじゃない。
残酷な事実をつきつけられ落胆を隠せないこの人が、ひどくかわいそうだったからだ。
DNA鑑定にかけても判別できない、私が私である証明に決着をつけたのは、
― 指紋だった。
夜も更けた頃に宇宙船は下降し、港に着いた。
車に乗せられた時、私は直ちに解放されると早合点した。
だけど今、涼しい顔をした高杉たちと屋形船で過ごしている。
宴会用の長い机の上には、さっき夕食をとったのに、山盛りの大皿と一升瓶がずらっと並べられている。
私はキャバ嬢なので、接待要員としてお座敷に呼ばれたのかもしれない。
「何だ?構ってほしそうなツラしてるじゃねーか。」
「誰があなたなんかに…、そんな顔してないです。」
高杉は障子を開け放した屋形船の窓辺に腰掛け、私を隣に座らせると、一杯やりながらキセルを気持ちよさそうにふかしていた。
「ばんさい」と呼ばれる男は我関せずと言った風に、ずっと三味線を奏でている。
しばらく動揺を隠せなかった高杉は酒のせいか、余裕たっぷりの調子に戻っていた。
「ククク…俺と話す気はねェって言ったクセによ。」
高杉が再び、私の盃(さかずき)にお銚子を傾ける。
船に乗ってから何杯空けたのだろう。
お酌していたのに、いつの間にか飲まされている。
「…、外の空気吸いたいって言ったのはテメーだろーが。」
「それは、速やかに解放してくださいって意味です。さっきわかりましたよね?私はあなたの待ち人じゃありません全くの別人です。だからもう関係ないでしょ。」
別人だ、と言う度に彼の顔が一瞬ゆがむ。
御機嫌取りの相手を傷つけてもいい事ないのに。
でも、酒の勢いで自暴自棄になりかけてる私は、ありのままの感情をぶつけていた。
「もういい加減にしてください、とにかく帰らせてもらいます。宴会が終わったら港で降ろしてくだ…!ちょっと!何するんですか!!」
高杉はキセルを置くと、私を横抱きにして座敷の外に連れ出す。
船頭が止めるのも聞かず、水上へ投げ込もうとしたので私は青ざめた。
「帰りてーんだろ?」
「…。」
要は自力で泳いで港にたどり着けと言いたいらしい。
夏だから水温は高い、でも、ここから何キロあるのだろう。
とはいえ、この機会を逃したらいつ解放されるかわからない。
「あの…船頭さん、浮輪貸してください。」
「ククク…。」
仕掛けたいたずらが成功したとばかりに、小気味よく笑っている。
「…最低。」
憤慨した私は、座敷へ戻ると高杉から離れて座り、手酌をしながら午後の決定的な出来事を思い出していた。
健康診断をした医師は高杉の機嫌を損ねたくないのか、私が赤の他人だと主張しても聞き入れず、病気は奇跡的に完治したと結論づけたけど、不審を抱いてるのは明らかだった。
診断書に書いてある、彼女さんの病名。
まだ、特効薬は発明されていない。
罹患(りかん)した人の運命は、この世界に来て一年未満の私ですら知っている。
多分、高杉の彼女さんは、この世にいない。