August Part3 8月中旬 とある部屋
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「お待たせ、神楽ちゃん。」
僕は土手に座り込む神楽ちゃんに、自販機で買ったペットボトルを差し出した。
目の前の大きな川からは、生ぬるい風が吹いてくる。
雲一つない夏の太陽はじりじりと照りつけ、肌を刺すようだ。
苦手な日差しのもとで傘を差す神楽ちゃんは、ひどく疲れたようにみえる。
昨夜、しびれをきらした銀さんは駅へ名前さんを迎えにいったけど、二人はなかなか戻らない。
そして終電近くになって、友だちに連絡をとってくれと電話を寄こしてきたのだった。
あわてて電話をかけると彼女は既に帰宅していた。名前さんとは二次会の途中で別れたという。
名前さんは、何らかの事件に巻き込まれている。
そう確信した僕たちは、僕と神楽ちゃんと定春、銀さんの二手に分かれて捜索を開始した。
でも、夜を徹して定春にたどらせた匂いは、かぶき町から数十キロ離れた橋の下で行き止まりになってしまったのだ。
河川敷には、ナンバーを取り外されたクルマが、ドアを開けっ放しで乗り捨てられてる。
定春は「ワン」と吠えたきり下流の方角を見つめるばかりだ。
彼女は何者かに拉致され、ここから船で連れていかれたのだろう。
「よし、行くか。」
ペットボトルを空けた神楽ちゃんは、そう言って立ち上がり土手を駆け下りて行った。
神楽ちゃんは岸で靴を脱ぐと、ざぶざぶと川に入っていく。
もしかして、港まで泳いでいくつもりなのか!
僕は、暑さで正気を失うほど無理をさせてしまった事を後悔した。
「神楽ちゃん、無茶なことはやめるんだ!」
走って追いついた僕も川に入り、後ろから両肩をつかんで強くゆさぶった。
「新八、離すアル!」
肩越しに振り向いた神楽ちゃんは今にも泣きだしそうな顔をしている。
「嫌だ!」
「泳ぐぐらいなんてことないネ。新八、もう弱音吐くアルか?諦めるアルか?」
「そんなコト僕は言ってない!」
「離せヨ!名前ちゃんは私が助けるネ!」
「神楽ちゃん!!」
「ワン。」
定春がすり寄ってきたので僕たちは我に返った。
「新八…。」
「僕こそ、ごめん。」
港を調べるのは銀さんと情報交換してからにしよう、それが服を乾かしながら二人で出した結論だ。
僕たちは休憩をとってから聞き込みにまわり、今は現場付近の防犯カメラをしらみつぶしに確認している。
名前さんのために、それぞれが出来ることを着実に進めていくしかない。
姉上は、朝一番で近藤さんに会いに行った。
銀さんは繁華街で聞き込みを続けるかたわら、裏社会の動向に詳しい桂さんを探している。
名前さん、無事でいてください…。
今はそう祈るばかりだ。
―
覆いかぶさっていた男は私の体をくるっと前に向け、両手首を揃えてから着物を裂いたような布製のひもで、ゆるめに縛った。
「クク…、おしおきだ。」
男はやさしく微笑むと、ひもを引っ張り部屋の外へ歩いていく。
私は警察に連行される犯人か、従順な家畜のように後をついていくしかなかった。
通路の乗組員は私たちが視界に入ると歩みを止め、背筋を正してお辞儀や敬礼をしてくる。年配の人も男を「様」付けで呼び敬意を払っている。
推測通り、コイツは船で一番偉い地位にあるとみて間違いない。
そして、「名前」がわかった。
― 高杉。
通路ですれ違う度、配下の者たちは手首のひもをジロジロ見てくる。
「もう逃げたりしません、お願いです。」
とうとう、恥ずかしさに耐えられなくなって申し出ると、ひもはあっさりと解かれた。
ようやく監禁部屋を出られたけど、事態は全く良くならない。
さっきから、通路を何度も曲がり階段を上り下りしている。
一体どこへ連れていかれるのだろう…。
高杉は、私を行方不明の恋人だと思い込んでいる。
となるとこの先、ほおへキスされる程度じゃすまない…。
私は恐ろしい瞬間がくるのを先延ばししたくて、わざとのろのろ歩いた。
銀さん、助けに来てくれる…わけないか。
定春くんが宇宙のはてまで匂いをたどって…、そんなはずないよね。
護身術、習っておけばよかったな。
頭をフル回転させてるけど身を守る方法がどうしても思いつかない。
私の人生、もう終わりなのかな…。
― あきらめたらそこで試合終了アル。
突然、頭の中に神楽ちゃんの言葉が響いた。
そうだ、あきらめちゃだめだ。
私がコイツの彼女さんじゃないと証明できさえすればいい。
なんだ、それだけの話じゃないか。
― あきらめたらそこで人生終了だ。
僕は土手に座り込む神楽ちゃんに、自販機で買ったペットボトルを差し出した。
目の前の大きな川からは、生ぬるい風が吹いてくる。
雲一つない夏の太陽はじりじりと照りつけ、肌を刺すようだ。
苦手な日差しのもとで傘を差す神楽ちゃんは、ひどく疲れたようにみえる。
昨夜、しびれをきらした銀さんは駅へ名前さんを迎えにいったけど、二人はなかなか戻らない。
そして終電近くになって、友だちに連絡をとってくれと電話を寄こしてきたのだった。
あわてて電話をかけると彼女は既に帰宅していた。名前さんとは二次会の途中で別れたという。
名前さんは、何らかの事件に巻き込まれている。
そう確信した僕たちは、僕と神楽ちゃんと定春、銀さんの二手に分かれて捜索を開始した。
でも、夜を徹して定春にたどらせた匂いは、かぶき町から数十キロ離れた橋の下で行き止まりになってしまったのだ。
河川敷には、ナンバーを取り外されたクルマが、ドアを開けっ放しで乗り捨てられてる。
定春は「ワン」と吠えたきり下流の方角を見つめるばかりだ。
彼女は何者かに拉致され、ここから船で連れていかれたのだろう。
「よし、行くか。」
ペットボトルを空けた神楽ちゃんは、そう言って立ち上がり土手を駆け下りて行った。
神楽ちゃんは岸で靴を脱ぐと、ざぶざぶと川に入っていく。
もしかして、港まで泳いでいくつもりなのか!
僕は、暑さで正気を失うほど無理をさせてしまった事を後悔した。
「神楽ちゃん、無茶なことはやめるんだ!」
走って追いついた僕も川に入り、後ろから両肩をつかんで強くゆさぶった。
「新八、離すアル!」
肩越しに振り向いた神楽ちゃんは今にも泣きだしそうな顔をしている。
「嫌だ!」
「泳ぐぐらいなんてことないネ。新八、もう弱音吐くアルか?諦めるアルか?」
「そんなコト僕は言ってない!」
「離せヨ!名前ちゃんは私が助けるネ!」
「神楽ちゃん!!」
「ワン。」
定春がすり寄ってきたので僕たちは我に返った。
「新八…。」
「僕こそ、ごめん。」
港を調べるのは銀さんと情報交換してからにしよう、それが服を乾かしながら二人で出した結論だ。
僕たちは休憩をとってから聞き込みにまわり、今は現場付近の防犯カメラをしらみつぶしに確認している。
名前さんのために、それぞれが出来ることを着実に進めていくしかない。
姉上は、朝一番で近藤さんに会いに行った。
銀さんは繁華街で聞き込みを続けるかたわら、裏社会の動向に詳しい桂さんを探している。
名前さん、無事でいてください…。
今はそう祈るばかりだ。
―
覆いかぶさっていた男は私の体をくるっと前に向け、両手首を揃えてから着物を裂いたような布製のひもで、ゆるめに縛った。
「クク…、おしおきだ。」
男はやさしく微笑むと、ひもを引っ張り部屋の外へ歩いていく。
私は警察に連行される犯人か、従順な家畜のように後をついていくしかなかった。
通路の乗組員は私たちが視界に入ると歩みを止め、背筋を正してお辞儀や敬礼をしてくる。年配の人も男を「様」付けで呼び敬意を払っている。
推測通り、コイツは船で一番偉い地位にあるとみて間違いない。
そして、「名前」がわかった。
― 高杉。
通路ですれ違う度、配下の者たちは手首のひもをジロジロ見てくる。
「もう逃げたりしません、お願いです。」
とうとう、恥ずかしさに耐えられなくなって申し出ると、ひもはあっさりと解かれた。
ようやく監禁部屋を出られたけど、事態は全く良くならない。
さっきから、通路を何度も曲がり階段を上り下りしている。
一体どこへ連れていかれるのだろう…。
高杉は、私を行方不明の恋人だと思い込んでいる。
となるとこの先、ほおへキスされる程度じゃすまない…。
私は恐ろしい瞬間がくるのを先延ばししたくて、わざとのろのろ歩いた。
銀さん、助けに来てくれる…わけないか。
定春くんが宇宙のはてまで匂いをたどって…、そんなはずないよね。
護身術、習っておけばよかったな。
頭をフル回転させてるけど身を守る方法がどうしても思いつかない。
私の人生、もう終わりなのかな…。
― あきらめたらそこで試合終了アル。
突然、頭の中に神楽ちゃんの言葉が響いた。
そうだ、あきらめちゃだめだ。
私がコイツの彼女さんじゃないと証明できさえすればいい。
なんだ、それだけの話じゃないか。
― あきらめたらそこで人生終了だ。