August Part2 8月中旬 場所不明
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後ずさりするごとに、唯一の出口が遠くなるのはわかっている。
一言、「人違いです!帰ります!」と言えばいい。
それなのに、コイツの存在感に圧倒されて言葉が出てこない。
「こんなに身をやつしてよ…。」
男は全身を見回すと、安物を着ているといわんばかりのようにあわれんでいる。
確かに今日の服装はバーゲン品だけど、これは合コンに着て行くくらいお気に入りのものだ。
「見ねェうちに随分と雰囲気が変わったな。」
柄にもなくミニ丈の着物と長足袋とは気でも違ったか?太もも出したら風邪ひくぞ、体をいたわれなどと、と男は親しげに冗談を飛ばしてくる。
私とそっくりの女の人は上品な身なりをしているみたいだけど、ミニの着物はお通ちゃんや同年代の女子の間では普通だし、コイツにどうこう言われる筋合いはない。
っていうかそんなのはどうでもいい、私は拉致られて迷惑しているのだ。
向こうが間違えて誘拐するぐらいなのだから、彼女に余程似ているのだろう。
でも、私はコイツの望んでいる誰かさんじゃない。全くの別人だ。
丁寧に説明をすればきっとわかってくれる。
私は両手をぎゅっと握りしめ、勇気を振り絞って話しかけた。
「失礼ですが私は元々こんな感じです。キャバ嬢の時はもっと派手ですけど。」
「名前…?」
「ええ、確かに私は名前といいますけど人違いです。あなたとお会いしたことはありません。」
「今さら姿を消した理由を聞く気はねェ。」
「あの、だからですね…。」
私を誰かと信じ込んでいる男とは、全然会話がかみ合わない。
「名前、テメーは俺のそばにいりゃァいい。もう二度と辛い目にはあわせねェ。」
「とにかくあなたと会った事はありません。お知り合いとよほど似ているようですが、まったくの誤解です。っていうか自分が何をしてるのかわかってるんですか?立派な犯罪ですよ。今すぐ出口まで案内してください。」
自分の主張を通そうと、私は次第に語気を強めていった。
「さっきから他人のフリして随分とつれねェ態度だな。手荒な真似してかっさらったせいでおかんむりか?クク…白馬に乗ってお出迎えすりゃよかったな。」
ヤツは私の言い分を冗談と受け取ったのか全く気に留めない。
出口に案内してくれるどころか、一歩ずつ距離を詰めてくる。
もはや後ろには壁と窓しか残されていなかった。
「名前、いい加減機嫌を直さねェか?」
背中が壁についた瞬間、男が手を伸ばしてくる。
「やめてくださ…!
顔に触れようとする手をはたき落そうと腕を振り回したら、敵の手は一瞬見えなくなった。
「甘ェ。」
素早い動きで私の手首をつかむと、勝ち誇ったようにほほえんでいる。
この手を引っ張られたらヤツの腕の中だ。何をされるのかわからない。
私は全力で男をにらみつけた。
― !!
一瞬、足元が突き上げるように揺れ、床がゴゴゴゴゴ…と振動を始めた。
背中をつけてる壁もドドドドド…と規則的に震えている。
私は必死に体当たりして男を押しのけると、後ろを向き窓に顔を押し付けた。
「そんな…。」
コンテナ群が豆粒のように小さくなったと思ったのもつかの間、外は灰色の雲に包まれた。
船は急速に地球を離れて宇宙へ向かっているんだ…。
「テメーをどこへも行かせねェ。」
タバコの香りが強くなったと思った瞬間、私は後ろから男に抱きしめられていた。
「往生際が悪ィのは変わってねェな。」
男はそう言ってから耳元で「名前。」とささやき、ほおに口づけてくる。
銀さん…、新八くん…、神楽ちゃん…。
私を、助けて…。
2016年9月4日UP
一言、「人違いです!帰ります!」と言えばいい。
それなのに、コイツの存在感に圧倒されて言葉が出てこない。
「こんなに身をやつしてよ…。」
男は全身を見回すと、安物を着ているといわんばかりのようにあわれんでいる。
確かに今日の服装はバーゲン品だけど、これは合コンに着て行くくらいお気に入りのものだ。
「見ねェうちに随分と雰囲気が変わったな。」
柄にもなくミニ丈の着物と長足袋とは気でも違ったか?太もも出したら風邪ひくぞ、体をいたわれなどと、と男は親しげに冗談を飛ばしてくる。
私とそっくりの女の人は上品な身なりをしているみたいだけど、ミニの着物はお通ちゃんや同年代の女子の間では普通だし、コイツにどうこう言われる筋合いはない。
っていうかそんなのはどうでもいい、私は拉致られて迷惑しているのだ。
向こうが間違えて誘拐するぐらいなのだから、彼女に余程似ているのだろう。
でも、私はコイツの望んでいる誰かさんじゃない。全くの別人だ。
丁寧に説明をすればきっとわかってくれる。
私は両手をぎゅっと握りしめ、勇気を振り絞って話しかけた。
「失礼ですが私は元々こんな感じです。キャバ嬢の時はもっと派手ですけど。」
「名前…?」
「ええ、確かに私は名前といいますけど人違いです。あなたとお会いしたことはありません。」
「今さら姿を消した理由を聞く気はねェ。」
「あの、だからですね…。」
私を誰かと信じ込んでいる男とは、全然会話がかみ合わない。
「名前、テメーは俺のそばにいりゃァいい。もう二度と辛い目にはあわせねェ。」
「とにかくあなたと会った事はありません。お知り合いとよほど似ているようですが、まったくの誤解です。っていうか自分が何をしてるのかわかってるんですか?立派な犯罪ですよ。今すぐ出口まで案内してください。」
自分の主張を通そうと、私は次第に語気を強めていった。
「さっきから他人のフリして随分とつれねェ態度だな。手荒な真似してかっさらったせいでおかんむりか?クク…白馬に乗ってお出迎えすりゃよかったな。」
ヤツは私の言い分を冗談と受け取ったのか全く気に留めない。
出口に案内してくれるどころか、一歩ずつ距離を詰めてくる。
もはや後ろには壁と窓しか残されていなかった。
「名前、いい加減機嫌を直さねェか?」
背中が壁についた瞬間、男が手を伸ばしてくる。
「やめてくださ…!
顔に触れようとする手をはたき落そうと腕を振り回したら、敵の手は一瞬見えなくなった。
「甘ェ。」
素早い動きで私の手首をつかむと、勝ち誇ったようにほほえんでいる。
この手を引っ張られたらヤツの腕の中だ。何をされるのかわからない。
私は全力で男をにらみつけた。
― !!
一瞬、足元が突き上げるように揺れ、床がゴゴゴゴゴ…と振動を始めた。
背中をつけてる壁もドドドドド…と規則的に震えている。
私は必死に体当たりして男を押しのけると、後ろを向き窓に顔を押し付けた。
「そんな…。」
コンテナ群が豆粒のように小さくなったと思ったのもつかの間、外は灰色の雲に包まれた。
船は急速に地球を離れて宇宙へ向かっているんだ…。
「テメーをどこへも行かせねェ。」
タバコの香りが強くなったと思った瞬間、私は後ろから男に抱きしめられていた。
「往生際が悪ィのは変わってねェな。」
男はそう言ってから耳元で「名前。」とささやき、ほおに口づけてくる。
銀さん…、新八くん…、神楽ちゃん…。
私を、助けて…。
2016年9月4日UP