August Part2 8月中旬 場所不明
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もう一度頭を整理しよう。
さらわれた経緯はこの際無視して…現在、囚われの身にあるのは間違いない。
常時金欠の万事屋からは身代金が取れない。
怨恨の可能性も低い。
となると…、どこかへ売りとばされる可能性が高い。
私の心臓や肝臓は出荷前の状態なのだろうか。
それとも、どこかの星の遊郭に閉じ込められ客を取らされるのだろうか。
何度頭をひねっても最悪の事態しか予想できない。
たもとからハンカチを出し、私はおでこに滲んだ冷や汗を拭いた。
ハンカチをしまうと、私はパイプのイスを持ってきて上に乗り、天井の四隅とはめ込み式の長い照明を観察した。
この部屋に監視カメラのようなものは設置されていない。
さっきドアを叩いても誰も来なかったし、常時監視されているわけではないようだ。
扉を開く瞬間をひたすら待ち、スキを見て逃げ出そう。
それが私に残された最初で最後のチャンスだ。
船が接岸している間に脱出しないと江戸には戻れない。
アクション映画なら、主人公はドアが開いた瞬間に見張り役を殴り、気絶させたりする。
その他には、消火器を噴射して敵の驚いたスキを見つけて逃亡する。
でも、部屋には武器も消火器もないし、私の腕力はたかが知れている。
動かせるものは例の簡素なイスしかない。
折りたたんだイスを横にたてかけて侵入者を転ばせようか。
それじゃドアの幅に足りない。
うーん、どうしよう。
イスを眺めながら逃亡策を考えていると、突然自動ドアが開き、誰かが部屋に入ってきた。
「よォ。」
頭に包帯を巻き片目を隠した男が、なれなれしく挨拶してくる。
「まさか江戸にいるとはな。体の方は…いいのか?」
ドアが閉まると、男が近づいて来たので私は身構えた。
― 誰?この人??
向こうは親しい風だけど、こんな人、知らない。絶対会ってない。
でもコイツは私を知っている。
私は男の機嫌を損ねないよう、慎重に言葉を選び返答することにした。
「もしかして、うちのお客様…ですか?お顔を覚えておらず大変申し訳ございません。」
「客…?」
「すまいる」に出入りしてるか一応聞いてみたけど、目の前の男は怪訝な顔をしただけだった。
「クク…まさか長い間会わねぇうちに俺のツラァ忘れちまったとでも?」
「あの、私、昼はコンビニで夜はキャバクラ、パチンコ屋のティッシュ配りとか不定期のバイトもしてますけど、もしかしてそこでお会いしたりしてますか?」
「その体で働けるのか…?」
男は驚いたように目を見開いた。
私は頭の中の名刺管理アプリを再起動させたけど、どう考えてもヤツは「すまいる」の客でもないしコンビニにも来ていない。
私は「すまいる」で、富裕層の人々や幕府で高い地位にある方々へ接客させて頂いている。
仕事を続けるうち、私は初対面のお客様でも一~二分話せば、その人物が素性を語らずとも、一代で財を築いた剛腕の創業者か、お忍びでいらした幕府の高官か、あぶく銭をつかんだ庶民か、彼らの身なりやふるまいを通して判別できるようになっていた。
目の前の男は、カタギなら敬遠する派手な蝶柄の着物の胸元を大きく開け、おまけに丈を短く着崩している。でも高級な生地はチンピラ風情が簡単に買える値段じゃない。
漂ってくるタバコの匂いは、長谷川さんや土方さんが買っている市販の紙タバコで出せない香りだ。おそらく厳選された葉をキセルかパイプで吸っているのだろう。
そして下品な言い方だけど、莫大な資金ときな臭いオーラが伝わってくる。
間違いなくヤツはこの船のオーナーだ。
有無を言わせぬ威圧的なたたずまい…相当な武道の鍛錬を積んでいるのだろう。
腰に差した短刀は決して飾りじゃない。私は窓際へ一歩後退した。
男は私の動揺なんてどうでもいいのか矢継ぎ早に話しかけてくる。
「あくせく働いてるのは薬代のせいか?今どこに住んでる?テメーには長い間苦労をかけた。名前…もう辛い思いはさせねェ。」
名前??
今、コイツは名前って呼んだ!
コンビニの客でも「すまいる」の客でもないのに名前を知っている!
名前が同じなのは単なる偶然だ…。こんなのありえない。
単なる人違いだ。聞き間違いだ。
だってこんな人知らない!!
私を誰かと間違えているコイツは一体誰!!
さらわれた経緯はこの際無視して…現在、囚われの身にあるのは間違いない。
常時金欠の万事屋からは身代金が取れない。
怨恨の可能性も低い。
となると…、どこかへ売りとばされる可能性が高い。
私の心臓や肝臓は出荷前の状態なのだろうか。
それとも、どこかの星の遊郭に閉じ込められ客を取らされるのだろうか。
何度頭をひねっても最悪の事態しか予想できない。
たもとからハンカチを出し、私はおでこに滲んだ冷や汗を拭いた。
ハンカチをしまうと、私はパイプのイスを持ってきて上に乗り、天井の四隅とはめ込み式の長い照明を観察した。
この部屋に監視カメラのようなものは設置されていない。
さっきドアを叩いても誰も来なかったし、常時監視されているわけではないようだ。
扉を開く瞬間をひたすら待ち、スキを見て逃げ出そう。
それが私に残された最初で最後のチャンスだ。
船が接岸している間に脱出しないと江戸には戻れない。
アクション映画なら、主人公はドアが開いた瞬間に見張り役を殴り、気絶させたりする。
その他には、消火器を噴射して敵の驚いたスキを見つけて逃亡する。
でも、部屋には武器も消火器もないし、私の腕力はたかが知れている。
動かせるものは例の簡素なイスしかない。
折りたたんだイスを横にたてかけて侵入者を転ばせようか。
それじゃドアの幅に足りない。
うーん、どうしよう。
イスを眺めながら逃亡策を考えていると、突然自動ドアが開き、誰かが部屋に入ってきた。
「よォ。」
頭に包帯を巻き片目を隠した男が、なれなれしく挨拶してくる。
「まさか江戸にいるとはな。体の方は…いいのか?」
ドアが閉まると、男が近づいて来たので私は身構えた。
― 誰?この人??
向こうは親しい風だけど、こんな人、知らない。絶対会ってない。
でもコイツは私を知っている。
私は男の機嫌を損ねないよう、慎重に言葉を選び返答することにした。
「もしかして、うちのお客様…ですか?お顔を覚えておらず大変申し訳ございません。」
「客…?」
「すまいる」に出入りしてるか一応聞いてみたけど、目の前の男は怪訝な顔をしただけだった。
「クク…まさか長い間会わねぇうちに俺のツラァ忘れちまったとでも?」
「あの、私、昼はコンビニで夜はキャバクラ、パチンコ屋のティッシュ配りとか不定期のバイトもしてますけど、もしかしてそこでお会いしたりしてますか?」
「その体で働けるのか…?」
男は驚いたように目を見開いた。
私は頭の中の名刺管理アプリを再起動させたけど、どう考えてもヤツは「すまいる」の客でもないしコンビニにも来ていない。
私は「すまいる」で、富裕層の人々や幕府で高い地位にある方々へ接客させて頂いている。
仕事を続けるうち、私は初対面のお客様でも一~二分話せば、その人物が素性を語らずとも、一代で財を築いた剛腕の創業者か、お忍びでいらした幕府の高官か、あぶく銭をつかんだ庶民か、彼らの身なりやふるまいを通して判別できるようになっていた。
目の前の男は、カタギなら敬遠する派手な蝶柄の着物の胸元を大きく開け、おまけに丈を短く着崩している。でも高級な生地はチンピラ風情が簡単に買える値段じゃない。
漂ってくるタバコの匂いは、長谷川さんや土方さんが買っている市販の紙タバコで出せない香りだ。おそらく厳選された葉をキセルかパイプで吸っているのだろう。
そして下品な言い方だけど、莫大な資金ときな臭いオーラが伝わってくる。
間違いなくヤツはこの船のオーナーだ。
有無を言わせぬ威圧的なたたずまい…相当な武道の鍛錬を積んでいるのだろう。
腰に差した短刀は決して飾りじゃない。私は窓際へ一歩後退した。
男は私の動揺なんてどうでもいいのか矢継ぎ早に話しかけてくる。
「あくせく働いてるのは薬代のせいか?今どこに住んでる?テメーには長い間苦労をかけた。名前…もう辛い思いはさせねェ。」
名前??
今、コイツは名前って呼んだ!
コンビニの客でも「すまいる」の客でもないのに名前を知っている!
名前が同じなのは単なる偶然だ…。こんなのありえない。
単なる人違いだ。聞き間違いだ。
だってこんな人知らない!!
私を誰かと間違えているコイツは一体誰!!