August~another day~ 8月中旬 海水浴場
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肩にかけたタオルで汗をぬぐった源外さんは、スマホを構成するOSをコピーして解析したいと説明してから、スマホをつないでいる機械の方に私を連れて行った。
パスワードを入力するということは、わずかだけどスマホが起動できるくらいのバッテリーがたまったということだ。
っていうことは…。
「源外さん、お願いがあります。」
「何だ、嬢ちゃん?」
「私、この中に入ってる写真をみんなに見せたい!」
その場にいた全員が驚いて大きな声をあげた。
「オイ…。せっかく貯めたバッテリーを使う意味をわかってんのか?」
「僕らのことは気にしないでください。また一分一秒をためるのにどれだけ日数がいるかわからないんですよ。名前さん、こういう重大な決断には、ゆっくり時間をかけてもいいんじゃないですか?」
「名前ちゃん…。」
銀さんたちが考え直すよう説得してくるけど私の決意は変わらなかった。
「みんなに見せたい、っていうか私が見たいんだ。源外さん、大体どれくらい稼働できますか?」
「せいぜい一分ってところだな。」
そう言うと源外さんはあごひげをなでた。
「本当にいいアルか?パピーやマミーに会う日が遅くなってもいいアルか?」
「私、うちの冷蔵庫を新しくしたら電気代が安くなってお母さんが喜んでたの思い出した。それとお父さんが携帯電話も昔はアンテナがあったけどいつの間にか無くなったって言ってた。今だって、一秒動かすのにターミナル一日分の電力を必要とするって言われてたスマホが、源外さんの工夫で起動できるようになったんだよ。うまく言えないけど、科学技術は日進月歩で進化するから、転送装置もそう遠くない日に完成するかもしれない。だから、バッテリーは使ってしまって大丈夫。」
つたない考えを一気に吐露すると、源外さんは大声で笑い始めた。
「嬢ちゃんなかなかいい事言うなァ。老いぼれの腕見込んでくれるのは嬉しいが、俺がボケる保証が無いとも言えねェ。それでもいいのか?」
「はい、お願いします。」
「一分だぞ。」
私は源外さんからスマホを受け取ると、久しぶりに電源ボタンを押して起動させた。
懐かしいオープニングの画面がよみがえってくる。
なかなか待ち受けにならないのがもどかしくて仕方ない。
三人と源外さんは取り囲むように画面をのぞき込んでいる。
私がパスワードを入力してロックを解除し素早く写真のフォルダに指を滑らせると、おおっと声が上がった。
「見て見て!これが私のお父さんとお母さん。」
「名前ちゃんはパピー似アルな。」
「最近太り気味なの気にしてるんだよね~。これは飛行機から私の生まれた東京という町を写した景色。この空港からは宇宙行けないけどね。これは、観光地で有名なスカイツリー、東京タワー。」
「名前さんのふるさとは、とうきょう…っていうんですね。」
「キレイアルな。」
神楽ちゃんは私の肩にあごを乗せて画面をのぞきこんでいる。
「これは寺子屋の友だち、この写真は友だちとディズニー…ええと、テーマパークに行った時の。あと、これは地元の友だち。」
「おぉ~。かわいい娘(こ)多いじゃねーか。こん中じゃ、左から二番目の娘が一番モテるだろ?」
銀さんが新八くんを押しのけるように乗り出してきた。
「よくわかるね~。」
「確かにキレイどころ多いんだけど…いや、ヤロー共も多いな。名前ちゃん、この飲み屋の写真って…
「ああ、これは…。」
話がややこしくなってきたので、私は無難な集合写真を見せていくことにした。
「っーか、さっきからヤローと映ってる写真多くね?そればっかじゃね?」
「そんなことないよ気にし過ぎじゃない?確かにあっちでは男友達多かったけど。」
「で、どいつと付き合ってたの?っーか付き合ってたヤツいたの?」
「ちょっと銀さん、近い、近いって。」
頭にふわふわな髪の毛があたったので私は軽く頭を振った。
「この背の高い人、いつも名前さんの近くにいませんか?」
「コイツアルか?このイケメンがカレシアルか?」
「それとも左隣の小栗旬之助的なヤツ?イヤイヤイヤうちの名前ちゃんはこの程度の雑魚キャラ相手にするはずねーし…。あの…名前ちゃん?もしこん中に付き合ってるヤツいたら、お…お父さんに紹介してもらえるかな~?っーかいねーよな?お付き合いとかしてねーよな??」
やけに動揺している銀さんに、私は昨日の仕返しをすることにした。
「銀さんには絶対教えない。」
オィィィィ!と銀さんが叫んだのとほぼ同時に、スマホのバイブレーターが作動し画面は暗くなっていった。
「ありがとうございました。」
スマホを源外さんに渡すと、静かになった屋内と反比例するように、外のセミの声が一気にうるさく聞こえるようになった。
それにしても我ながら思い切ったことをしたな。
将来の計画を立てずにバッテリーの“貯金”を使い切っちゃうなんて、私は銀さんに似てきたのかもしれない。
「どうしたアルか?」
「ううん、何でもないよ。神楽ちゃん行こう。」
「あの…名前ちゃん?こういう重要なことは保護者の銀さんが知っとく義務があるっーか…
「秘密。」
妙に清々しい気分になった私は苦笑いをしながら工房を後にした。
2016年7月14日UP
パスワードを入力するということは、わずかだけどスマホが起動できるくらいのバッテリーがたまったということだ。
っていうことは…。
「源外さん、お願いがあります。」
「何だ、嬢ちゃん?」
「私、この中に入ってる写真をみんなに見せたい!」
その場にいた全員が驚いて大きな声をあげた。
「オイ…。せっかく貯めたバッテリーを使う意味をわかってんのか?」
「僕らのことは気にしないでください。また一分一秒をためるのにどれだけ日数がいるかわからないんですよ。名前さん、こういう重大な決断には、ゆっくり時間をかけてもいいんじゃないですか?」
「名前ちゃん…。」
銀さんたちが考え直すよう説得してくるけど私の決意は変わらなかった。
「みんなに見せたい、っていうか私が見たいんだ。源外さん、大体どれくらい稼働できますか?」
「せいぜい一分ってところだな。」
そう言うと源外さんはあごひげをなでた。
「本当にいいアルか?パピーやマミーに会う日が遅くなってもいいアルか?」
「私、うちの冷蔵庫を新しくしたら電気代が安くなってお母さんが喜んでたの思い出した。それとお父さんが携帯電話も昔はアンテナがあったけどいつの間にか無くなったって言ってた。今だって、一秒動かすのにターミナル一日分の電力を必要とするって言われてたスマホが、源外さんの工夫で起動できるようになったんだよ。うまく言えないけど、科学技術は日進月歩で進化するから、転送装置もそう遠くない日に完成するかもしれない。だから、バッテリーは使ってしまって大丈夫。」
つたない考えを一気に吐露すると、源外さんは大声で笑い始めた。
「嬢ちゃんなかなかいい事言うなァ。老いぼれの腕見込んでくれるのは嬉しいが、俺がボケる保証が無いとも言えねェ。それでもいいのか?」
「はい、お願いします。」
「一分だぞ。」
私は源外さんからスマホを受け取ると、久しぶりに電源ボタンを押して起動させた。
懐かしいオープニングの画面がよみがえってくる。
なかなか待ち受けにならないのがもどかしくて仕方ない。
三人と源外さんは取り囲むように画面をのぞき込んでいる。
私がパスワードを入力してロックを解除し素早く写真のフォルダに指を滑らせると、おおっと声が上がった。
「見て見て!これが私のお父さんとお母さん。」
「名前ちゃんはパピー似アルな。」
「最近太り気味なの気にしてるんだよね~。これは飛行機から私の生まれた東京という町を写した景色。この空港からは宇宙行けないけどね。これは、観光地で有名なスカイツリー、東京タワー。」
「名前さんのふるさとは、とうきょう…っていうんですね。」
「キレイアルな。」
神楽ちゃんは私の肩にあごを乗せて画面をのぞきこんでいる。
「これは寺子屋の友だち、この写真は友だちとディズニー…ええと、テーマパークに行った時の。あと、これは地元の友だち。」
「おぉ~。かわいい娘(こ)多いじゃねーか。こん中じゃ、左から二番目の娘が一番モテるだろ?」
銀さんが新八くんを押しのけるように乗り出してきた。
「よくわかるね~。」
「確かにキレイどころ多いんだけど…いや、ヤロー共も多いな。名前ちゃん、この飲み屋の写真って…
「ああ、これは…。」
話がややこしくなってきたので、私は無難な集合写真を見せていくことにした。
「っーか、さっきからヤローと映ってる写真多くね?そればっかじゃね?」
「そんなことないよ気にし過ぎじゃない?確かにあっちでは男友達多かったけど。」
「で、どいつと付き合ってたの?っーか付き合ってたヤツいたの?」
「ちょっと銀さん、近い、近いって。」
頭にふわふわな髪の毛があたったので私は軽く頭を振った。
「この背の高い人、いつも名前さんの近くにいませんか?」
「コイツアルか?このイケメンがカレシアルか?」
「それとも左隣の小栗旬之助的なヤツ?イヤイヤイヤうちの名前ちゃんはこの程度の雑魚キャラ相手にするはずねーし…。あの…名前ちゃん?もしこん中に付き合ってるヤツいたら、お…お父さんに紹介してもらえるかな~?っーかいねーよな?お付き合いとかしてねーよな??」
やけに動揺している銀さんに、私は昨日の仕返しをすることにした。
「銀さんには絶対教えない。」
オィィィィ!と銀さんが叫んだのとほぼ同時に、スマホのバイブレーターが作動し画面は暗くなっていった。
「ありがとうございました。」
スマホを源外さんに渡すと、静かになった屋内と反比例するように、外のセミの声が一気にうるさく聞こえるようになった。
それにしても我ながら思い切ったことをしたな。
将来の計画を立てずにバッテリーの“貯金”を使い切っちゃうなんて、私は銀さんに似てきたのかもしれない。
「どうしたアルか?」
「ううん、何でもないよ。神楽ちゃん行こう。」
「あの…名前ちゃん?こういう重要なことは保護者の銀さんが知っとく義務があるっーか…
「秘密。」
妙に清々しい気分になった私は苦笑いをしながら工房を後にした。
2016年7月14日UP