July 7月中旬 夜空
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「名前さん、どうしますか?」
新八くんが手を差し出してくる。
「どうしよう…。」
浴衣姿の…というか浴衣姿じゃなくても腕力に自信のない私は自力で登れない。
持ってきた脚立も低くて全然届かない。
新八くんが、恐る恐る柵に乗った私を引き上げようとするけど、着物が屋根に擦れるだけなので、結局柵から降りた。
「これより高い脚立ある?」
「すみません、ウチにはないんです。困ったな…。」
「ちょ、銀さん!」
突然銀さんが脚立に乗ると、後ろから私のわきの下に手を入れ、腰のあたりを抱きかかえて持ち上げようとする。
「やめ、やめてよ!」
銀さんは私が暴れたので、すとんと落とした。
「テメーで登れねーなら仕方ねーだろーが。」
「でも…。」
今日はミニ丈の着物じゃないから、持ち上げられても下は見えない。
でも、このポジションは胸に銀さんの手が当たるのが恥ずかしいし、それも言いづらいので私は口ごもるしかなかった。
「ほら、こっち来い。もたもたしてると始まっちまうぞ。」
「…。」
「みんな何してるアルか?」
浴衣に着替えて髪の毛にリボンを結んだ神楽ちゃんがやってきた。
「名前ちゃんが俺のアシストを拒否すんだよ。」
脚立から降りた銀さんは不満げに腕組みをしている。
「だって…。」
私は神楽ちゃんに、銀さんに抱き上げられるのは恥ずかしいと耳打ちした。
「そんな事アルか。私に任せるネ。」
神楽ちゃんはニコッと笑ったけど、どうするんだろう?
「行くアル。」
私の腰に手をまわして抱えると、神楽ちゃんはひょいと屋根に飛び上がった。
「うわあああ!!」
「簡単アル。」
「す、すごいね…。」
驚きが収まらない私と対照的に神楽ちゃんは涼しい顔をしている。
最近全然意識していなかったけど、本当に神楽ちゃんは夜兎族なんだなぁ。
屋根に登ると、辺りはガヤガヤしていた。
四方八方の屋根で、大勢の住人が酒盛りをしながら花火が始まるのを待っている。
近所の見知った人は、こちらに手を振ってあいさつしてきた。
銀さんがよじ登って間もなく、カウントダウンのコールが始まった。
同時に江戸中のネオンとターミナルのイルミネーションが一気に消えて真っ暗になる。
ゼロになった瞬間、大きな花火が打ち上げられて周囲から歓声があがった。
ドーンという花火の大きな音は周囲のビル群に跳ね返り、残響と明かりがゆっくり闇に溶けていく。
銀さんが特等席と胸を張っていたのがわかった。ここはかぶき町の人たちにとって絶景のスポットなんだ。
「花火って本当に球体なんだね~。」
思わず口走ると、後ろに陣取った新八くんが話しかけてきた。
「名前さん、もしかして花火を見るのは初めてですか?」
「あっちにも花火大会はあるし、毎年見てるよ。でもこんなに近くで見るのは初めて。」
隣近所からは、花火が上がるたび、「た~まや~。」のかけ声や拍手が聞こえてくる。
去年の夏は、違う人たちと違う場所で花火を見ていた。
今年はかぶき町の屋根の上で、銀さんたちと花火を見ている。
こんな暮らしは、あの頃からは想像できなかったし、時々別世界にいるのが実感できない事もある。
どうしたら、いつになったら元の世界に戻れるのか、いまだわからずじまいだ。
でもそんなことはどうでもいい、今を楽しもう。
「食わねーの?」
我に返ると、隣の銀さんはビール片手につまみを食べていたので、私もつられるように串を手にした。
「なんか見とれちゃって。花火を見てると江戸って感じするなーって。」
「あったぼぅよ、花火を見ずして江戸っ子を名乗るなかれってんでェ。」
「銀さん…うさんくさい方言やめてもらえますか。」
ツッコミをいれた新八くんは、空になった容器をてきぱきとゴミ袋に詰めている。
「これで名前ちゃんも立派な江戸っ子アルな。」
大量の食べ物を平らげて満足した神楽ちゃんは食後の酢昆布をくわえた。
「甘ェーよ。江戸っ子気取るにゃまだ早ェ。」
「私、お妙ちゃんや九兵衛ちゃんとあちこち出歩いてるから結構自信あるんだけどな。銀さん、いつになったら江戸っ子なの?えーと、三代前から住む必要があるってのはナシで。」
「道案内できるようになったらな。」
銀さんからは割と納得のいく正論が返ってきた。
「確かに私、道聞かれたことないや。」
「そーだろ?」
私は一人歩きしていい範囲を銀さんから決められている。だから治安の悪い通りへ足を踏み入れたことはない。
観光名所やおしゃれなショップをいくら知っていても、江戸の暗部は何一つ知らない。
そういうのが顔に出ているのかなぁ。
「まだまだ私もおのぼりさんってことかな。あっ、そういえば、長谷川さんが紹介してくれた仕事って?」
「大江戸プールアル。」
大江戸プールといえば、江戸最大級を誇る有名な施設だ。
「子どもに泳ぎを教えるの?」
「長谷川さんと僕たちは監視員なんです。」
「ったく、近頃のガキは準備体操もロクにしねーで飛び込むから、足つるわ唇真っ青になるわ、俺からいわせりゃ…
新八くんが手を差し出してくる。
「どうしよう…。」
浴衣姿の…というか浴衣姿じゃなくても腕力に自信のない私は自力で登れない。
持ってきた脚立も低くて全然届かない。
新八くんが、恐る恐る柵に乗った私を引き上げようとするけど、着物が屋根に擦れるだけなので、結局柵から降りた。
「これより高い脚立ある?」
「すみません、ウチにはないんです。困ったな…。」
「ちょ、銀さん!」
突然銀さんが脚立に乗ると、後ろから私のわきの下に手を入れ、腰のあたりを抱きかかえて持ち上げようとする。
「やめ、やめてよ!」
銀さんは私が暴れたので、すとんと落とした。
「テメーで登れねーなら仕方ねーだろーが。」
「でも…。」
今日はミニ丈の着物じゃないから、持ち上げられても下は見えない。
でも、このポジションは胸に銀さんの手が当たるのが恥ずかしいし、それも言いづらいので私は口ごもるしかなかった。
「ほら、こっち来い。もたもたしてると始まっちまうぞ。」
「…。」
「みんな何してるアルか?」
浴衣に着替えて髪の毛にリボンを結んだ神楽ちゃんがやってきた。
「名前ちゃんが俺のアシストを拒否すんだよ。」
脚立から降りた銀さんは不満げに腕組みをしている。
「だって…。」
私は神楽ちゃんに、銀さんに抱き上げられるのは恥ずかしいと耳打ちした。
「そんな事アルか。私に任せるネ。」
神楽ちゃんはニコッと笑ったけど、どうするんだろう?
「行くアル。」
私の腰に手をまわして抱えると、神楽ちゃんはひょいと屋根に飛び上がった。
「うわあああ!!」
「簡単アル。」
「す、すごいね…。」
驚きが収まらない私と対照的に神楽ちゃんは涼しい顔をしている。
最近全然意識していなかったけど、本当に神楽ちゃんは夜兎族なんだなぁ。
屋根に登ると、辺りはガヤガヤしていた。
四方八方の屋根で、大勢の住人が酒盛りをしながら花火が始まるのを待っている。
近所の見知った人は、こちらに手を振ってあいさつしてきた。
銀さんがよじ登って間もなく、カウントダウンのコールが始まった。
同時に江戸中のネオンとターミナルのイルミネーションが一気に消えて真っ暗になる。
ゼロになった瞬間、大きな花火が打ち上げられて周囲から歓声があがった。
ドーンという花火の大きな音は周囲のビル群に跳ね返り、残響と明かりがゆっくり闇に溶けていく。
銀さんが特等席と胸を張っていたのがわかった。ここはかぶき町の人たちにとって絶景のスポットなんだ。
「花火って本当に球体なんだね~。」
思わず口走ると、後ろに陣取った新八くんが話しかけてきた。
「名前さん、もしかして花火を見るのは初めてですか?」
「あっちにも花火大会はあるし、毎年見てるよ。でもこんなに近くで見るのは初めて。」
隣近所からは、花火が上がるたび、「た~まや~。」のかけ声や拍手が聞こえてくる。
去年の夏は、違う人たちと違う場所で花火を見ていた。
今年はかぶき町の屋根の上で、銀さんたちと花火を見ている。
こんな暮らしは、あの頃からは想像できなかったし、時々別世界にいるのが実感できない事もある。
どうしたら、いつになったら元の世界に戻れるのか、いまだわからずじまいだ。
でもそんなことはどうでもいい、今を楽しもう。
「食わねーの?」
我に返ると、隣の銀さんはビール片手につまみを食べていたので、私もつられるように串を手にした。
「なんか見とれちゃって。花火を見てると江戸って感じするなーって。」
「あったぼぅよ、花火を見ずして江戸っ子を名乗るなかれってんでェ。」
「銀さん…うさんくさい方言やめてもらえますか。」
ツッコミをいれた新八くんは、空になった容器をてきぱきとゴミ袋に詰めている。
「これで名前ちゃんも立派な江戸っ子アルな。」
大量の食べ物を平らげて満足した神楽ちゃんは食後の酢昆布をくわえた。
「甘ェーよ。江戸っ子気取るにゃまだ早ェ。」
「私、お妙ちゃんや九兵衛ちゃんとあちこち出歩いてるから結構自信あるんだけどな。銀さん、いつになったら江戸っ子なの?えーと、三代前から住む必要があるってのはナシで。」
「道案内できるようになったらな。」
銀さんからは割と納得のいく正論が返ってきた。
「確かに私、道聞かれたことないや。」
「そーだろ?」
私は一人歩きしていい範囲を銀さんから決められている。だから治安の悪い通りへ足を踏み入れたことはない。
観光名所やおしゃれなショップをいくら知っていても、江戸の暗部は何一つ知らない。
そういうのが顔に出ているのかなぁ。
「まだまだ私もおのぼりさんってことかな。あっ、そういえば、長谷川さんが紹介してくれた仕事って?」
「大江戸プールアル。」
大江戸プールといえば、江戸最大級を誇る有名な施設だ。
「子どもに泳ぎを教えるの?」
「長谷川さんと僕たちは監視員なんです。」
「ったく、近頃のガキは準備体操もロクにしねーで飛び込むから、足つるわ唇真っ青になるわ、俺からいわせりゃ…