May 5月上旬 覆面パトカー
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「山崎、例の娘はどうしてる?」
江戸城へ向かう車の中で、唐突に副長が質問してきた。
「例の娘?先週の合コンで一番人気だった娘さんですか?」
運転席の俺は、前を向いたまま副長に答える。
「バーカちげーよ、ほら、万事屋ンとこに居候してる娘だ。」
「ああ、名前ちゃんですか。何でもしばらくは食事ものどを通らず魂が抜けた人みたいになってたそうですが、今月からコンビニで働きはじめたって…
「からくりが言ってたんだろ。」
「よくご存じですね。」
「テメーのソースはそれ以外ねーだろーが。」
背後でライターの音がする。副長は新しいタバコに火をつけたようだ。
「大体、万事屋を定期的に監視しろって命じたのは副長じゃないですか?」
「俺はからくりと仲良くしろとは言ってねェ。」
いつもなら、たまさんの話をするとドヤされるのに今日の副長はなんだか大人しい。
「あの娘、無事救出できたものの随分荒っぽい真似をしちまったな。」
副長は煙と一緒に、ため息を吐き出したように見える。
俺たちは名前ちゃんに幾分負い目がある。副長はもっと早く突入できたのではないかと自問自答していたし、局長は姐さん経由で手紙と見舞いの品を贈ったと聞いている。
たまさんによると、沖田隊長ですらミスド持参で病室に現れたそうだ。
そして、当時の俺は潜入捜査中だったので、救出任務に携わることができなかった。
「親御さん、結局名乗り出ませんでしたね。」
「我が子の一大事なら血相変えて飛んでくるのが人の道理ってモンだ。おそらくこの星にいねェんだろう。」
江戸中を騒がせた立てこもり事件はテレビや新聞で広く報道され、名前ちゃんの氏名も地球中に配信されている。それなのにウチには問い合わせの一つも来ない。
皮肉にも彼女の家族がニュースの届く範囲にいない事が裏打ちされた。
「やはり彼女、辺境の星から出奔してきたんですかね。あるいは、公に名乗り出られない事情がある、ですか。」
「っーワケであの娘を監視しろ。」
そう来たか。
「以前のレポートで、彼女は攘夷勢力と無関係だと報告したはずです。さては、心配だから俺に様子を見に行けってことですか?」
「…。」
副長は女性に優しい、っていうか基本甘い。
「自分で行けばいいじゃないですか。先月オープンした大江戸マートで彼女働いてます。屯所から少し離れてますが、充分歩いていける距離ですよ。」
「ゴタゴタうるせェ。」
そして俺は、名前ちゃんの見守りを命じられたのだった。
【監察報告書】始 5月○日
対 象 者:名字名前(女)
主たる目的:上記人物の状況確認ならびに交友関係(攘夷浪士及び反社会的人物)の把握
監察期間 :対象者の勤務時間内、十日程度
特記事項等:原則対象者及び関係者との接触不可、現場権限で捕縛可、副長判断で期間延長の可能性有
5月○日(火曜日) 見守り任務 初日
路上の駐車スペースに停めた覆面パトカーから、コンビニのレジに立つ名前ちゃんを望遠鏡ごしに見守る。
彼女は先日「すまいる」への復帰も果たしたと聞いている。
こうして元気に働く姿を見ることができて俺も嬉しい。
今回の張り込みは建前上仕事だけど、実質休暇のようなものだ。
任務の内容は「状況確認」であって「常時監視」ではない。
だから俺は、張り込みを五分で終えて屯所に帰ってもいいし、車中で居眠りをしてもいい。
でも、ミントン以外することのない俺は、あんぱんを食べながら彼女を見張ることにした。
5月○日(水曜日) 見守り任務 二日目
万事屋の旦那が、名前ちゃんをスクーターに乗せてコンビニに乗りつけた。
彼女は昨日も今日も店の前で送り迎えはいらない、私は電車で通うと言い張ってるけど、旦那は一切聞く耳を持たない。っていうかスクーターの後ろに乗っけるのがうれしくてしょうがない様子だ。
旦那にとっての名前ちゃんは、自分の手で助け出すために真選組に頭を下げたくらい特別な存在だが、現在二人に付き合っている雰囲気はない。
彼女にとって旦那はいい兄貴分、といったところだろう。
5月○日(木曜日) 見守り任務 三日目
副長がマヨネーズとマヨボロとマガジンを買いにやってきた。
会計をすませた副長は店長に声をかける。ほどなくして名前ちゃんは休憩を命じられ、二人はビルの隙間にある裏口付近で話し始めた。
ズームを拡大して読唇術で解読すると、副長は先日の事件で怖い思いをさせたことを詫びている。彼女は恐縮気味に何度もお辞儀をしていた。
初めて会った日、彼女は真選組一のモテ男の外見に目を奪われていたが、今では普通に接している。