April 4月中旬 夜 万事屋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
銀さんは、一度かかわった人は誰であろうと、スタンドだろうがテレビから出てきた翼がもげた天使だろうが、全力で助ける。
そのくせ相手の心理的な負担を感じさせないよう、さっと身を引いてしまう。
結野アナの時だって口説くカードに使えたはずなのに、傷が癒える前に結野家を出て行った。
いつも銀さんは、損な役回りを引き受ける。
今も、銀さんは名前さんの笑顔が見られるなら、自分の存在が消えてしまっても構わないのだろう。
「名前。」
「何?」
銀さんが、記憶を取り戻そうと考えこむ名前さんの顔をのぞきこんで話題をそらした。
「腹減ってねーか?」
「どうしたのいきなり?」
彼女はきょとんとしている。
「言われてみれば…。おなかすいた、かな?バトルロイヤルホストのいちごパフェが食べたい。」
そう言うと目に光の戻った名前さんは久しぶりに笑った。
「行くアル。」
食いに行くぞ、と立ち上がった銀さんの横顔がどこか寂しそうだったのは僕の思い違いだろうか。
でも、記憶と引き換えに、笑顔の絶えない本来の名前さんが帰って来た。
正義のヒーローの銀さんにはかわいそうだけど、これでよかったんだ。
それまでの道のりは、本当に辛いものだったからだ。
事件発生から数時間後に救出された彼女は、張りつめていた緊張の糸が切れてしまったのか、救急車の中で神楽ちゃんが話しかけてもぼう然としたままだった。
時々小さい声で何かをつぶやいていたけど、言葉の意味はわからなかった。
病院で診てもらったところ、犯人の供述を裏付けるように、彼女は手首の傷を負っただけだった。
問題は心の傷の方だった。
うつろな目のまま、誰の問いかけにも反応しない。
銀さんの木刀を見ると泣き出してしまったので、お見舞いに来た沖田さんには事情を話して病室の外で刀を預からせてもらった。彼の片手にさげられていたミスドの箱で、鈍い僕はあの夜の見舞客の正体をようやく理解した。
神楽ちゃんは病室で涙を流しながら、一晩中名前さんの手を握っていた。
それから彼女は、わずかな食事をとる以外一日のほとんどを眠って過ごしていたけど、出来るだけ早く日常を取り戻すため、数日後万事屋に連れて帰った。
気持ちを安らげようとオーナーさんや近藤さんがお花を贈ってくれたり、姉上と桂さんがそれぞれお見舞いにやってきたけど、名前さんは何を言っても機械的にうなずくだけだったし、桂さんのくだらないジョークはひたすら空滑りするだけだった。
僕たちは、彼女の受けた心労に思いをはせるしかなく毎日を過ごしていた。
桜の散る頃、次第に食欲が戻りつつあった名前さんをお花見に連れて行ったらかすかに微笑んでいたけど、かつての明るい笑顔はそこにはなかった。
そんな矢先の、ダークマターがおこした奇跡だった。
「もう行くね。」
名前さんは、ジャンプを寝そべって読んでる銀さんに声をかけた。
「アレ、もうこんな時間?俺も出ねーと。乗ってくか?」
「私は大丈夫だよ、電車と徒歩で行ける範囲だし。」
「銀さんは仕事のついでだし、送ってもらったらどうですか?」
僕はそう言って、玄関に向かう彼女を引き留め、ソファーから起き上がった銀さんにスクーターのキーを渡して二人を見送ることにした。
「俺の帰りは遅くなるから神楽とメシ食っとけ。で、場所どこだっけ?」
ブーツを履きつつ行き先を尋ねた銀さんは、住所を聞くなり渋い顔になった。
「よりによって何であんなトコに決めたんだよ。場所柄最悪じゃねーか。」
「幕府の施設が集積してるから、夜でも治安のいい地区だってお登勢さんから聞いたんだけど違うの?今更やめるわけにもいかないしどうしよう…。」
銀さんと相性の悪い人が近くで働いてるんだと僕が教えると名前さんは笑っている。
「もし土方さんに会ったら、銀さんがよろしく言ってたって伝えておくね。」
「オイ、俺の発言を捏造すんな、っーかアイツもそんなの信じねーよ。それよりもいいか、勘違いするヤローが出てくるから、お釣りを両手で包み込むように渡すんじゃねーぞ。」
「いくらなんでもネタでしょ?私『すまいる』でうまくかわしてるから平気。銀さん心配し過ぎだよ。」
「あのなぁ…。男はああいうのに弱いんだよ。」
ぼやく銀さんをスルーして、名前さんは玄関の戸を開けると振り返り僕の方を向いた。
「新八くん、行ってきます!」
「銀さん、名前さん、いってらっしゃい。」
5月に入り、名前さんは新しいバイトを始めた。
2016年3月28日UP
そのくせ相手の心理的な負担を感じさせないよう、さっと身を引いてしまう。
結野アナの時だって口説くカードに使えたはずなのに、傷が癒える前に結野家を出て行った。
いつも銀さんは、損な役回りを引き受ける。
今も、銀さんは名前さんの笑顔が見られるなら、自分の存在が消えてしまっても構わないのだろう。
「名前。」
「何?」
銀さんが、記憶を取り戻そうと考えこむ名前さんの顔をのぞきこんで話題をそらした。
「腹減ってねーか?」
「どうしたのいきなり?」
彼女はきょとんとしている。
「言われてみれば…。おなかすいた、かな?バトルロイヤルホストのいちごパフェが食べたい。」
そう言うと目に光の戻った名前さんは久しぶりに笑った。
「行くアル。」
食いに行くぞ、と立ち上がった銀さんの横顔がどこか寂しそうだったのは僕の思い違いだろうか。
でも、記憶と引き換えに、笑顔の絶えない本来の名前さんが帰って来た。
正義のヒーローの銀さんにはかわいそうだけど、これでよかったんだ。
それまでの道のりは、本当に辛いものだったからだ。
事件発生から数時間後に救出された彼女は、張りつめていた緊張の糸が切れてしまったのか、救急車の中で神楽ちゃんが話しかけてもぼう然としたままだった。
時々小さい声で何かをつぶやいていたけど、言葉の意味はわからなかった。
病院で診てもらったところ、犯人の供述を裏付けるように、彼女は手首の傷を負っただけだった。
問題は心の傷の方だった。
うつろな目のまま、誰の問いかけにも反応しない。
銀さんの木刀を見ると泣き出してしまったので、お見舞いに来た沖田さんには事情を話して病室の外で刀を預からせてもらった。彼の片手にさげられていたミスドの箱で、鈍い僕はあの夜の見舞客の正体をようやく理解した。
神楽ちゃんは病室で涙を流しながら、一晩中名前さんの手を握っていた。
それから彼女は、わずかな食事をとる以外一日のほとんどを眠って過ごしていたけど、出来るだけ早く日常を取り戻すため、数日後万事屋に連れて帰った。
気持ちを安らげようとオーナーさんや近藤さんがお花を贈ってくれたり、姉上と桂さんがそれぞれお見舞いにやってきたけど、名前さんは何を言っても機械的にうなずくだけだったし、桂さんのくだらないジョークはひたすら空滑りするだけだった。
僕たちは、彼女の受けた心労に思いをはせるしかなく毎日を過ごしていた。
桜の散る頃、次第に食欲が戻りつつあった名前さんをお花見に連れて行ったらかすかに微笑んでいたけど、かつての明るい笑顔はそこにはなかった。
そんな矢先の、ダークマターがおこした奇跡だった。
「もう行くね。」
名前さんは、ジャンプを寝そべって読んでる銀さんに声をかけた。
「アレ、もうこんな時間?俺も出ねーと。乗ってくか?」
「私は大丈夫だよ、電車と徒歩で行ける範囲だし。」
「銀さんは仕事のついでだし、送ってもらったらどうですか?」
僕はそう言って、玄関に向かう彼女を引き留め、ソファーから起き上がった銀さんにスクーターのキーを渡して二人を見送ることにした。
「俺の帰りは遅くなるから神楽とメシ食っとけ。で、場所どこだっけ?」
ブーツを履きつつ行き先を尋ねた銀さんは、住所を聞くなり渋い顔になった。
「よりによって何であんなトコに決めたんだよ。場所柄最悪じゃねーか。」
「幕府の施設が集積してるから、夜でも治安のいい地区だってお登勢さんから聞いたんだけど違うの?今更やめるわけにもいかないしどうしよう…。」
銀さんと相性の悪い人が近くで働いてるんだと僕が教えると名前さんは笑っている。
「もし土方さんに会ったら、銀さんがよろしく言ってたって伝えておくね。」
「オイ、俺の発言を捏造すんな、っーかアイツもそんなの信じねーよ。それよりもいいか、勘違いするヤローが出てくるから、お釣りを両手で包み込むように渡すんじゃねーぞ。」
「いくらなんでもネタでしょ?私『すまいる』でうまくかわしてるから平気。銀さん心配し過ぎだよ。」
「あのなぁ…。男はああいうのに弱いんだよ。」
ぼやく銀さんをスルーして、名前さんは玄関の戸を開けると振り返り僕の方を向いた。
「新八くん、行ってきます!」
「銀さん、名前さん、いってらっしゃい。」
5月に入り、名前さんは新しいバイトを始めた。
2016年3月28日UP