March 3月29日 昼下がり バイト先
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
間もなく事務所のある奥の方から、頭がドアにぶつかるくらい長身の男と天人の集団が現れた。
お客さん…?
じゃない…。アイツらの仲間だ。
「あっちは誰もいなかったぜ、コイツの言ってる事に間違いねェ。」
「おっ、追加の人質が来たか。姉ちゃんいらっしゃい~。」
「二人じゃ交渉でカードが二枚…、客が来るのを待つしかねーな。」
いらっしゃい~と声をかけてきた長身の男は短刀をちらつかせている。
「この女は使えそうだ。」
天人の男達は私をジロジロみてから顔を見合わせると下卑た笑みを浮かべた。
私は浪人風の男とともに客のふりをしてソファーに座らされた。
オーナーさんは、カウンターで背中に刃物を突き付けられて立たされている。
窓の外を見ると通りはクルマが連なっているだけで、歩行者は全くいない。
しばらくすると帯刀して黒い服を着た二人組が店に近づいたので自動ドアが開いた。
「すみませ~ん。真選組ですが。ちょっと店の中を検分させてくだ…
「チッ、手が回るのが早かったか。」
男は私を引っ張り上げると、入口へ引きずっていく。
そしてあっけにとられてる二人に見せつけるように抜刀して、私の首に刃(やいば)を当てた。
「刀置いて手上げろ!!コイツがどうなってもいいのか!!」
首には刃物のひんやりとした感触が伝わってくる、正反対に興奮した男の生温かい息がかかって怖気(おぞけ)が走った。
真選組の二人は言うなりに刀を床に置くと一歩下がった。
「シャッター降ろせ!!」
カウンターの方にいる男が怒鳴ると、オーナーさんがシャッターのボタンを押した。
少しずつ真選組の隊員達はシャッターの向こうに消えていく。
でも、彼らは「人質を解放しなさい!」「武器を捨てて出て来なさい!」「無駄な抵抗はするな!」などとシャッターを叩きながら大声で投降を呼びかけてきた。
次第にサイレンの音があちこちから響いてくる。
シャッターは閉じられたけど、店の外に多くのパトカーが止まっているのが容易に想像できる。
そして、解放を求める真選組の呼びかけは、メガホンを通した声に変わった。
脱獄犯達は、私とオーナーさんの手を梱包用のひもで縛り、互いが見えないように離れて座らせると、事務所から運んできた脚立を組み立て、粘着テープで空調の換気口やドアの隙間など、あらゆる侵入口をふさぎ始めた。
天人達は、テーブルをドアに寄せ、イスやソファーを乱暴に放り投げ、うず高く積み上げて、簡単に突入できないようバリケードを作っている。
奴らによって、さっきまで居心地のいい空間だったこの店がみるみる汚されていく。
私だって耐えられないのだから、店を作り上げてきたオーナーさんはもっとつらいはずだ。
でも、彼はカウンターの方に座らされている。どうなっているのか様子は全くわからない。
ハリウッド映画で、警察が内部の様子をうかがうために隙間からマイクやカメラを仕掛けてくるのはよくあるやり口だ。
アイツらは犯罪人だからそんなの想定内なのだろう。
こういう時、大人しくしていないといけない。抵抗しようとか考えちゃだめだ。
なんて落ち着いて考えられるのは「正常性バイアス」ってやつだ。
異常事態に心がバランスを取ろうと必死で働いてる現象だ。
でも、いつまで精神が持つかわからない。
私はエプロンの端をぎゅっとつかみたかったけど、両手を前に縛られているので手を強く握ることしかできなかった。
壁の時計で秒針を追うのが嫌になるくらい経ってから、店に電話がかかってきた。
カウンターにいた男が目配せすると、私に刀を突き付けた浪人風の男が受話器を取る。
ありったけの金塊、そしてチャーター機をターミナルに用意しろ、さもないと人質の命はないと一気にまくしたてて電話を切った。
間髪入れずに二度目の電話がかかってきた。
私は監視役の天人にカウンターへ連れていかれると、受話器に耳を押し当てられる。
「こちらは真選組です。あなたは人質の方ですよね。確認のため、氏名とご職業を言ってもらえますか?」
聞きなれた、あたたかくて頼りがいのある声が電話口から聞こえてきた。
「もしかして…近藤さん?近藤さんですよね!名前です。」
「その声は、名前ちゃん?名前ちゃんか!!俺達が必ず助けに行くから、信じて待っていてくれ、気を確か…
受話器は離されて近藤さんの声はそれっきり聞こえなくなった。
私たちは絶対助かる、大丈夫だ。
泣いちゃダメだ。
真選組が包囲しているんだから。
みんなついている。
近藤さんは「必ず助ける」って約束してくれた。
絶対助けに来てくれる。
銀さん、新八くん、神楽ちゃん…。
三人は今頃映画館で「エイリアン対やくざPart3」の呼び込みの真っ最中だろう。
だから、私が窮地にあることは、多分知らない。
今朝、笑顔で送り出してくれたみんなの姿が自然に思い浮かんでくる。
私は涙が出そうになるのを必死にこらえた。
帰りたい。
万事屋に帰りたい。
お客さん…?
じゃない…。アイツらの仲間だ。
「あっちは誰もいなかったぜ、コイツの言ってる事に間違いねェ。」
「おっ、追加の人質が来たか。姉ちゃんいらっしゃい~。」
「二人じゃ交渉でカードが二枚…、客が来るのを待つしかねーな。」
いらっしゃい~と声をかけてきた長身の男は短刀をちらつかせている。
「この女は使えそうだ。」
天人の男達は私をジロジロみてから顔を見合わせると下卑た笑みを浮かべた。
私は浪人風の男とともに客のふりをしてソファーに座らされた。
オーナーさんは、カウンターで背中に刃物を突き付けられて立たされている。
窓の外を見ると通りはクルマが連なっているだけで、歩行者は全くいない。
しばらくすると帯刀して黒い服を着た二人組が店に近づいたので自動ドアが開いた。
「すみませ~ん。真選組ですが。ちょっと店の中を検分させてくだ…
「チッ、手が回るのが早かったか。」
男は私を引っ張り上げると、入口へ引きずっていく。
そしてあっけにとられてる二人に見せつけるように抜刀して、私の首に刃(やいば)を当てた。
「刀置いて手上げろ!!コイツがどうなってもいいのか!!」
首には刃物のひんやりとした感触が伝わってくる、正反対に興奮した男の生温かい息がかかって怖気(おぞけ)が走った。
真選組の二人は言うなりに刀を床に置くと一歩下がった。
「シャッター降ろせ!!」
カウンターの方にいる男が怒鳴ると、オーナーさんがシャッターのボタンを押した。
少しずつ真選組の隊員達はシャッターの向こうに消えていく。
でも、彼らは「人質を解放しなさい!」「武器を捨てて出て来なさい!」「無駄な抵抗はするな!」などとシャッターを叩きながら大声で投降を呼びかけてきた。
次第にサイレンの音があちこちから響いてくる。
シャッターは閉じられたけど、店の外に多くのパトカーが止まっているのが容易に想像できる。
そして、解放を求める真選組の呼びかけは、メガホンを通した声に変わった。
脱獄犯達は、私とオーナーさんの手を梱包用のひもで縛り、互いが見えないように離れて座らせると、事務所から運んできた脚立を組み立て、粘着テープで空調の換気口やドアの隙間など、あらゆる侵入口をふさぎ始めた。
天人達は、テーブルをドアに寄せ、イスやソファーを乱暴に放り投げ、うず高く積み上げて、簡単に突入できないようバリケードを作っている。
奴らによって、さっきまで居心地のいい空間だったこの店がみるみる汚されていく。
私だって耐えられないのだから、店を作り上げてきたオーナーさんはもっとつらいはずだ。
でも、彼はカウンターの方に座らされている。どうなっているのか様子は全くわからない。
ハリウッド映画で、警察が内部の様子をうかがうために隙間からマイクやカメラを仕掛けてくるのはよくあるやり口だ。
アイツらは犯罪人だからそんなの想定内なのだろう。
こういう時、大人しくしていないといけない。抵抗しようとか考えちゃだめだ。
なんて落ち着いて考えられるのは「正常性バイアス」ってやつだ。
異常事態に心がバランスを取ろうと必死で働いてる現象だ。
でも、いつまで精神が持つかわからない。
私はエプロンの端をぎゅっとつかみたかったけど、両手を前に縛られているので手を強く握ることしかできなかった。
壁の時計で秒針を追うのが嫌になるくらい経ってから、店に電話がかかってきた。
カウンターにいた男が目配せすると、私に刀を突き付けた浪人風の男が受話器を取る。
ありったけの金塊、そしてチャーター機をターミナルに用意しろ、さもないと人質の命はないと一気にまくしたてて電話を切った。
間髪入れずに二度目の電話がかかってきた。
私は監視役の天人にカウンターへ連れていかれると、受話器に耳を押し当てられる。
「こちらは真選組です。あなたは人質の方ですよね。確認のため、氏名とご職業を言ってもらえますか?」
聞きなれた、あたたかくて頼りがいのある声が電話口から聞こえてきた。
「もしかして…近藤さん?近藤さんですよね!名前です。」
「その声は、名前ちゃん?名前ちゃんか!!俺達が必ず助けに行くから、信じて待っていてくれ、気を確か…
受話器は離されて近藤さんの声はそれっきり聞こえなくなった。
私たちは絶対助かる、大丈夫だ。
泣いちゃダメだ。
真選組が包囲しているんだから。
みんなついている。
近藤さんは「必ず助ける」って約束してくれた。
絶対助けに来てくれる。
銀さん、新八くん、神楽ちゃん…。
三人は今頃映画館で「エイリアン対やくざPart3」の呼び込みの真っ最中だろう。
だから、私が窮地にあることは、多分知らない。
今朝、笑顔で送り出してくれたみんなの姿が自然に思い浮かんでくる。
私は涙が出そうになるのを必死にこらえた。
帰りたい。
万事屋に帰りたい。