Day30+10 11月下旬 昼 万事屋
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「名前さん…、これから好きになる的な表現やめてください。」
メガネをクイッと上げた新八くんの目がまた厳しくなった。
「あ、そう聞こえたかな?」
「名前ちゃん、よ~く聞くアル。」
ソファーから神楽ちゃんが身を乗り出してきたので私は身構えた。
「うん。」
「銀ちゃんお給料払ってくれないアル。」
「エエエエエ!」
それって、ブラック企業って言うんじゃ…。
「パチンコで一発逆転狙って、お財布の中身空にする日だってあるんです。あの人は人間として終わってますよ。」
ああ…思い当たるふしがある。
「確かに、銀さんって思い切りよすぎるかも。私が戻って来た日に、神社でおさい銭に全額使ってお願いごとしてたんだよ~。子どもみたいだよね。」
途端に二人の顔色が青ざめたので、私はまずい事を言ってしまったと後悔した。
「神楽ちゃん、もしかして名前さんが…
すぐに新八くんと神楽ちゃんは内緒話を始めた。
― つじつまが合うアル。銀ちゃん罪深い男アル。
― 一番わかってるの銀さんだから、いまさら責めても仕方ないよ。
とぎれとぎれに漏れてくるけど、何?
お金を使い切った事を非難してるようには聞こえなかった。
「銀さんが何か悪いことしたの?」
「それは言えません。」
「名前ちゃん…ごめんアル。」
「えっ、どういうこと?」
と、言ったのと同時に玄関の戸が開く音がして、すぐに銀さんがリビングに顔をだした。
「ババアが用があるってよ。」
私は二人の話の中身が気になったけど、お登勢さんを待たせるのは失礼なので、すぐ降りることにした。
「失礼します。」
引き戸を開けると<準備中>の「お登勢」はカウンター側だけ照明がついていた。
「私の若い頃の帯、似合ってるじゃないか。ところで面接はどうだったかィ?その様子じゃ聞くまでもなさそうだね。」
私は頂いた帯のお礼を言ってからカウンターのイスに腰掛けた。
いつものようにお登勢さんはウーロン茶をグラスに注いで出してくれる。
「オーナーさんに履歴書を提出して、いくつか質問に答えたら『お登勢さんの紹介なら安心だよ。明日から来れる?』で済んじゃいました。あっけなくてびっくりっていうか、お登勢さんの人脈ってすごいですね。」
「私は何もしちゃいないよ。二つ返事で決まったのはアンタの実力さ。」
「ステキなお店を紹介して頂きありがとうございました。」
再び江戸に来てから十日ほど経つけど、私は元の世界に戻れていない。
阿音さんや源外さんから吉報も舞い込んでこない。
銀さんのスクーターに乗せてもらって、毎日神社にお参りするけど、何の変化もない。
みんなは家事だけでいいよと言ってくれたけど、神社と万事屋の往復以外することのない私は、お登勢さんに相談してバイトを始めることにしたのだった。
「アンタに渡す物があるんだ。ちょいと待ってな。」
そのままお登勢さんは奥の方に行ってしまった。
すぐに戻ってきて、封筒をカウンターの上に置くと、私に開けるように促す。
「就職祝いだよ。」
お登勢さんは、私名義の預金通帳と印鑑を用意してくれていたのだった。
「お登勢さん…。本当にありがとうございます!」
「自分の財産を管理できてこそ一人前ってモンだ。しっかりやんな。」
「はい!」
たかが通帳と印鑑なんだけど、かぶき町の「お客様」から「住人」に昇格した気分だ。
「バイト代が入ったら、食費とかその他の居候代は万事屋に入れようと思ってるんですけど。」
「カネは新八に渡すんだね。」
お登勢さんはピシャッと言い放った。
「一番年長の銀さんじゃないんですか?」
「何言ってンだィ?アイツに渡したらその日の内に全部使っちまうよ。」
「新八くんと神楽ちゃんも同じこと言ってたんですけど、そんなにお金にだらしない人なんですか?」
「一緒にいりゃァ、嫌という程わかるさ。」
タバコをくゆらせながら、お登勢さんは顔をしかめた。
天井の方からゴトゴト音がしてくる。
「ネズミ?」
「どうせまた、ケンカでもしてるんだろうよ。」
お登勢さんにとって二階の騒音は日常茶飯事のようだ。
「…そうなんですか。」
「家賃滞納するのがまともな大人のやることかィ?パチンコ行く暇あるなら一稼ぎしてもらいたいモンだよ全く。」
給料未払いに家賃滞納?!
「いいかい、絶対に銀時を甘やかすんじゃないよ。アイツに頼っていいのは腕っぷしだけさ。」
「はぁ…。」
それから私は、お登勢さんから銀さんのダークサイドをさんざん吹き込まれて万事屋への階段をあがった。
― 銀時にカネ貸すんじゃないよ。
お登勢さん、耳が痛くなるくらい繰り返し言ってたな。
あっ、そういえば…。ジャンプ代を貸したままだった