Day22 10月31日 夜 北斗心軒
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……。
……。
「久しぶりだな、銀時。」
……。
「銀時、ぼーっとしていたら麺が伸びてしまうぞ。」
……。
「オイ、銀時?」
肩を軽く叩かれるまで、ぼんやりとラーメンを食ってた俺は、誰かが隣に来たのに全く気づかずにいた。
「何だよ、びっくりさせんなって、ヅラか。」
「ヅラじゃない桂だ。」
「久しぶり、でもねーか。あの時以来だな。」
ヅラは席につくなり、当たり前のように蕎麦を注文したが、幾松にウチはラーメン屋なんだけどね、たまにはラーメン頼んでもバチは当たんないと思うよ、と押されて消極的にラーメンを、それと俺に同意を求めるよう視線を向けてから、つまみと酒を二人前注文した。
「この雨じゃ、今日は客も来やしないね。」
注文を受けた幾松は、そうつぶやくと、すぐにカウンターを出て入口に向かい、のれんを取り入れ<閉店>にした。
「雨?何言ってンの??今日は一日中晴れだぞ、俺が天気予報忘れるワケねーし。大体、コイツ傘持ってねーだろ。」
「そっちこそ何言ってンだィ?たった今しがた降ってきたじゃないか。」
俺は<閉店>にした理由がとっさに飲み込めなかったが、ヅラが礼を述べたので理解できた。
彼女は、約二週間前かぶき町にTV中継が入るぐらい騒がせた指名手配中のコイツに配慮したという訳だ。
厳戒な捜査態勢は解除されたものの、まだ付近では型通りの検問をやっている。
今夜は長雨になりそうだね、と言うと幾松は支度(したく)を始めた。
湯が煮立つ音と調理の音だけが辺りに響く。
不思議とヤローは一言も話しかけてこねェ。
ラーメンが出てくるまでの間、ヅラはやや下を向き、腕を組んで考え事をしていた。
ヅラは、ラーメンに半チャーハンをぼんやり食ってる俺のスピードを考慮しても、やたら早食いでほぼ同時に食い終わった。
そして、ようやく口を開いた。
「銀時。ボディーガードはお払い箱か?」
「…。何でわかったんだ?」
「いつもなら万事屋で夕食を囲む時間に、一人でラーメンを食していたら誰でも気づくさ。」
労をねぎらうように、ヅラは俺のぐい飲みに酒を注いだ。
「名前さんが帰っちまったからな…。とにかく、すべて片付いた。」
「よかったな、と言いたいところだが、不景気なツラをしおって。名前殿の帰還を、もろ手を挙げて歓迎しておらぬようだな。」
ヤローは痛い所を突いてくる。
「イヤイヤイヤ大切に預かってた名前さんがようやく親元に戻れたから、すげーうれしくてお祝いにパフェ三つ食ったし。」
「見栄を張るな、背負った荷を降ろしたくなかったと顔に書いてあるぞ。」
「んなワケあるかよ。」
なぜか俺は言い訳してから、注がれた酒を飲み干した。
「名前殿を手放すのが惜しくなった、とでも言えばいいか?」
「…。」
付き合いの長いコイツに嘘は通じねェ。
「その様子だと、図星だな。」
「…否定はしねェよ。」
お互いの長い沈黙を破るように、幾松が有り合わせだよ、と前置きしてからつまみを出してきた。
俺がぐい飲みに酒を注いでやると、ヅラは口をつけ、一息ついてから箸を取る。
「名前殿はいつ帰られたのだ?」
「十日ほど前のことだ。神社のお参りの帰り道、足をケガした名前さんを背負おうとしたら、神様が肩代わりしてあっという間に消えた。」
「そうか…俺が会った数日後か。」
「最初の頃は、この世界を夢だと思い込んで一晩中泣いたり、万事屋出ていくって言い張ったり、いろいろあった。テメーが蕎麦持ってきた頃には大分吹っ切れてたけどな。元気になった矢先に、パッと消えちまった。」
「俺はいい時に会ったのだな。」
「テメーの事も知ってたぞ。まぁ、あれだけTVで宣伝されちゃ鈍いヤツでもわかるだろーけど。警察に追われてる身なのにお見舞いに来てくれてありがとう。蕎麦、ごちそうさまでした。あと、変装、似合ってないです、って伝えてほしいって。俺たちに頭下げてた。」
名前さんの伝言を聞いてヤローはほっとしたようだが、箸を置いて再び腕組みを始めた。
「俺も一度ゆっくり会って話をしたかった。名前殿の住む国の有り様を尋ねてみたかったが残念だ。」
「ヅラが聞きてェのは、あっちの幕府や開国後の体制の方か。」
「まあそんなところだ。それと俺はヅラじゃない、桂だ。」
攘夷の先を見据えて行動してるコイツにとって、彼女の住む「微妙に同じだけど微妙に違う」世界の政治は気になって仕方ないはずだ。
エリザベスと共に名前さんの免許証や紙幣を調べていた頃から、ヤローには会って尋ねたい事が沢山あったんだろう。