Day21 10月30日 万事屋
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あれから僕たちは、名前さんをやみくもに必死に探した。
もはや彼女がこの世界に存在しないという事を、みんな頭ではわかっていた。
でも気持ちの踏ん切りがつかなかったのだ。
結局僕たちは、通報で駆けつけた夜間パトロールの与力に解散しなさいと警告を受けるまで探し続け、重い足取りで神社を後にした。
万事屋には、彼女のバッグと片方の靴とわずかな私物が残された。
バッグは銀さんが預かり、机の引き出しの奥にしまわれた。
お登勢さんが家賃の繰り延べの条件につけた追加の仕事はかなりきつくて毎日クタクタになってしまったけど、おかげで名前さんの事を考えずに済んだ。
報酬でひと月分の家賃と源外さんへのツケを払い、万事屋の家計はいつもの延滞状態に戻った。
彼女が去り、半月にも満たない日々がなかったかのように、いつも通りの万事屋に戻ろうとしていた。
でも、神楽ちゃんは、名前さんの分の茶碗とお箸をうっかり机に並べて気づくとサッと引っ込めたことが一度や二度じゃなかったし、僕だって「行ってきます。」と誰もいない部屋にむかってあいさつしてしまったことがある。
銀さんは最初の頃は、部屋からいい香りが消えて泥臭くなったとか、からかう相手がいなくなってつまらないとかぼやいていた。
そして僕と神楽ちゃんが寂しそうにしていると、「あっちでうまくやってるだろ、そもそもあっちが故郷(ふるさと)なんだよ。」となだめたり、「これでよかったんだ。」などと独り言をつぶやいていたが、次第に彼女の事を口にしなくなった。
そして、完全に死んだ魚の目に戻り、人前で鼻毛を抜くようになった。
ある日、とうとう神楽ちゃんは玄関に名前さんの片方の靴を並べるのを、やめた。
でも姉上が貸していた着物は、気持ちの整理がつくまで置いておこうということになり、まだ万事屋にある。
銀さんは自粛していた期間を取り戻すように、しょっちゅう「パチンコ行ってくる。」と、長時間家を空けることが多くなった。
神楽ちゃんによると、翌朝玄関に寝そべってる酒癖も復活したらしい。
ある日はパチンコで大勝ちしたといって、僕たちに好きなだけお菓子を買ってくれた。
繁華街で、長谷川さんとつるんで歩いているのを再びみかけるようにもなった。
そんな様子をみるにつけ、何かと彼女を思い出してしまう僕らとは対照的に、銀さんは名前さんの消滅とうまく折り合いをつけているな、やっぱり大人は違うな、と思い込んでいた。
だけど、姉上からは、「すまいる」に銀さんが阿音さんと二人きり、小声で長時間話をしていたと聞いた。
もう名前さんは帰ってしまった、今さら阿音さんと会っても意味のないことだ。
源外さんからは、泥酔した銀さんが真夜中にシャッターを開けさせた上、「どこでもドア」を作ってくれと呻く(うめく)なり夕方まで寝込んでいったと聞かされた。
女湯をのぞくためだと源外さんは推測してたけど、ジャンプ歴の長い銀さんなら、湯桶と悲鳴が飛んでくる先人の轍(てつ)を踏まずに透明人間スーツの開発を依頼するはずだ。
それに、寝言では僕と神楽ちゃんも連れてどこかに遊びに行くともつぶやいていたらしい。
それらの行動は妙に引っかかるものではあったけど、日々の忙しさに紛れて次第に心の奥底に沈んでいった。
ある日、銀さんが財布とポケットからレシートをごっそり捨てていた。
お客さんに請求する経費以外のレシートを、もらわず捨ててしまうことが多い銀さんにしては、ためこむのは珍しい。
僕はどこか気になり、ゴミ箱をあさった。
レシートに印字してある店の住所は、どれも名前さんが消えた神社の近くだった。
コンビニも、ガソリンスタンドも、スーパーも、団子屋も。
一番あきらめの悪いのは銀さんなんだと、僕はやっと気づいた。
2015年5月26日UP
もはや彼女がこの世界に存在しないという事を、みんな頭ではわかっていた。
でも気持ちの踏ん切りがつかなかったのだ。
結局僕たちは、通報で駆けつけた夜間パトロールの与力に解散しなさいと警告を受けるまで探し続け、重い足取りで神社を後にした。
万事屋には、彼女のバッグと片方の靴とわずかな私物が残された。
バッグは銀さんが預かり、机の引き出しの奥にしまわれた。
お登勢さんが家賃の繰り延べの条件につけた追加の仕事はかなりきつくて毎日クタクタになってしまったけど、おかげで名前さんの事を考えずに済んだ。
報酬でひと月分の家賃と源外さんへのツケを払い、万事屋の家計はいつもの延滞状態に戻った。
彼女が去り、半月にも満たない日々がなかったかのように、いつも通りの万事屋に戻ろうとしていた。
でも、神楽ちゃんは、名前さんの分の茶碗とお箸をうっかり机に並べて気づくとサッと引っ込めたことが一度や二度じゃなかったし、僕だって「行ってきます。」と誰もいない部屋にむかってあいさつしてしまったことがある。
銀さんは最初の頃は、部屋からいい香りが消えて泥臭くなったとか、からかう相手がいなくなってつまらないとかぼやいていた。
そして僕と神楽ちゃんが寂しそうにしていると、「あっちでうまくやってるだろ、そもそもあっちが故郷(ふるさと)なんだよ。」となだめたり、「これでよかったんだ。」などと独り言をつぶやいていたが、次第に彼女の事を口にしなくなった。
そして、完全に死んだ魚の目に戻り、人前で鼻毛を抜くようになった。
ある日、とうとう神楽ちゃんは玄関に名前さんの片方の靴を並べるのを、やめた。
でも姉上が貸していた着物は、気持ちの整理がつくまで置いておこうということになり、まだ万事屋にある。
銀さんは自粛していた期間を取り戻すように、しょっちゅう「パチンコ行ってくる。」と、長時間家を空けることが多くなった。
神楽ちゃんによると、翌朝玄関に寝そべってる酒癖も復活したらしい。
ある日はパチンコで大勝ちしたといって、僕たちに好きなだけお菓子を買ってくれた。
繁華街で、長谷川さんとつるんで歩いているのを再びみかけるようにもなった。
そんな様子をみるにつけ、何かと彼女を思い出してしまう僕らとは対照的に、銀さんは名前さんの消滅とうまく折り合いをつけているな、やっぱり大人は違うな、と思い込んでいた。
だけど、姉上からは、「すまいる」に銀さんが阿音さんと二人きり、小声で長時間話をしていたと聞いた。
もう名前さんは帰ってしまった、今さら阿音さんと会っても意味のないことだ。
源外さんからは、泥酔した銀さんが真夜中にシャッターを開けさせた上、「どこでもドア」を作ってくれと呻く(うめく)なり夕方まで寝込んでいったと聞かされた。
女湯をのぞくためだと源外さんは推測してたけど、ジャンプ歴の長い銀さんなら、湯桶と悲鳴が飛んでくる先人の轍(てつ)を踏まずに透明人間スーツの開発を依頼するはずだ。
それに、寝言では僕と神楽ちゃんも連れてどこかに遊びに行くともつぶやいていたらしい。
それらの行動は妙に引っかかるものではあったけど、日々の忙しさに紛れて次第に心の奥底に沈んでいった。
ある日、銀さんが財布とポケットからレシートをごっそり捨てていた。
お客さんに請求する経費以外のレシートを、もらわず捨ててしまうことが多い銀さんにしては、ためこむのは珍しい。
僕はどこか気になり、ゴミ箱をあさった。
レシートに印字してある店の住所は、どれも名前さんが消えた神社の近くだった。
コンビニも、ガソリンスタンドも、スーパーも、団子屋も。
一番あきらめの悪いのは銀さんなんだと、僕はやっと気づいた。
2015年5月26日UP