Day12 10月21日 夕方 神社前交差点
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「それじゃあ、神楽ちゃん明日一緒に『松尾と清』行こうよ。」
「結局一人歩きじゃなくないですか?」
「そういう問題じゃないよー。新八くん、気分的に自由って言えばわかるかな?」
頭の後ろで手を組んでだらーっと歩く俺の周りで、二人は楽しそうにスケジュールの相談をしている。
「あさってにするアル、ポイント10倍デーアル。姐御も誘うネ。」
「あさってにしよっか。あとSTARFRONT COFFEEにも寄っていい?」
ほがらかに笑う彼女は、元の世界でもこんな感じで明るく友だちや家族に接してるんだろう。
以前のように思いつめた顔をする事は減ってきた。作り笑いもしなくなった。
昨晩すべてを打ち明けてくれた名前さんと俺たちの間に、もう壁はない。
でも、どんなに仲良くなれても、この世界にいる限り彼女は寂しい思いをし続ける。
一日でも早く帰してやりたい俺たちは、明日阿音に相談する前に、自分たちでも実験をしてみようと話し合って、再びあの日の場所を訪れることにしたのだった。
事故現場の神社前交差点には予定より少し前に到着した。
「新八、よく事故った時間覚えてたな。」
「ほら、あの角の背の高いビル、屋上看板の下に、気温と時刻が交互に表示されるでしょ。転倒する直前にあれが記憶に残ってたんです。」
と新八はあるビルを指さした。
「そろそろアル。」
ビルの時計で時刻を確認して実験を始める。
信号が青になると、事故の日と同じ服装をした名前さんが横断歩道を渡り、俺と衝突した地点、つまり出現したポイントで止まって待機する。
そして青信号が点滅すると戻ってくる。
夕方、人の流れの早い交差点に立ち続ける傍目(はため)からは異様な行動を、彼女は元の世界に戻れる可能性に賭け、事故発生前後の時間にそれを10回繰り返した。
「…。」「…。」「…。」「…。」
実験を終了した名前さんがものすごく気まずそうに横断歩道から戻ってくる。
「みんな、ただいま…。」
通行の邪魔になるので、俺たちは交差点から少し離れたガードレールの横に移動して反省会を始めた。
「んなこったろーと思ったよ、だから新八の案に乗るのは嫌だったんだよ。」
「いい加減な事言わないでくださいよ、このアイデアは僕じゃなくて銀さんが考えたんじゃないですか。ことは簡単にいきませんね。」
「世の中うまい話は転がってないアル。所詮(しょせん)銀ちゃんの浅知恵だったアルな。」
神楽は定春に言い聞かせるようにモフモフしている。
「そんなことないよ、銀さんの話、私も理屈が通ると思ったんだけどな。一体どういう法則なんだろうね。一日一回こっちとあっちの世界がつながるってわけじゃないんだ。新八くんはどう思う?」
名前さんは疲れたようでガードレールに腰掛けた。
「暦(こよみ)とか気象条件とか月の満ち欠けとか、別の要因が作用して初めてあっちへの『門』が開くんじゃないでしょうか。」
「仮に一年に一回しか向こうに行けないとなると、私は来年までここに居ることになるんだね…。」
さっきまで冷静だった彼女は、神楽から渡された酢昆布を手にしたまま下を向いてボーっと考え込んでしまった。
「ずっとここにいていいアル。名前ちゃん、万事屋が嫌いアルか?」
「…。」
「そういう問題じゃねーよ。あっちに待ってる人たちがいるんだから恋しくなるのは当然だろ。」
「そうアルな…。」
「…。」
今の名前さんの目は、同年代の女子グループや親子連れとすれ違って、向こうの世界を思い出す時みてーに悲しげだ。
でも、定春が近寄って顔をすりよせると我に帰ったように顔を上げた。
「何とかなるさ、俺たちがついてる。」
「あきらめたらそこで終了アル。」
「……そうだよね、ここでへこんじゃだめだよね。さっき散々お別れのあいさつしちゃって気まずいけど、また万事屋にお世話になります…。」
「気にする事ないアル。サヨナラは延期ネ。」
自分を奮い立たせるように名前さんはようやく立ち上がり、協力してくれてありがとう、と俺たちに頭を下げた。
会話に加わらず黙っていた新八は、急に何かを思いついたらしく、突然話し始めた。
「僕、考えたんですけど、名前さんのご先祖様が元の世界に戻れたって何よりの証拠は、名前さんの御母上のお話にあると思うんです。だから絶対帰れます!!」