Day10 10月19日 夜 定食屋
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夕方、お妙さんに階段の下まで送ってもらい万事屋に戻ると、銀さんは買い物袋から食物を冷蔵庫に入れているところだった。
「新八くんはお通ちゃんのライブだっけ?神楽ちゃんは?」
「神楽ならメシ食って帰るってさっき電話があった。」
ということは、二人で夕食をとることになるのか…。
「夕飯どうしようか?あんまりバリエーションないけど。」
っていうか、今この部屋に私と銀さんしかいない。
定春くんはいるけどそういう問題じゃない。
「今日は俺が作るとするか。」
銀さんは閉めたばかりの冷蔵庫に手をかけたけど、少し考えて開けるのを止めた。
「いやいやいや、男女が二人きりで同じ部屋にいるっーのは教育上よろしくねーな。ちょっと早ェけど食いに行くぞ。」
よかった、気まずいのは私だけじゃなかったんだ。
銀さんは和室の押し入れから赤いマフラーを出すと投げてきた。
「夜冷えるって言ってたから巻いてけ。」
結野アナの予報通り、陽が沈むにつれ温かった空気が急に冷え込んできた。
「どこ行くの?ファミレス?」
「定食屋。俺のいきつけだから、味は保証するぜ。」
定食屋かぁ…。渋い中年の俳優さんが、見知らぬ街で一人立ち寄り食事をする深夜ドラマを思い出す。
使い込まれたのれんをくぐり半透明ガラスの引き戸を開けると、二十人も入れば満席になる空間の壁に手書きのメニューがずらーっと貼ってある。
長年連れ添った夫婦があうんの呼吸で熱々の料理を出してくれて店は近所の常連さんでいつもいっぱい。
あのドラマに登場するお店は大体そんな感じだった。
万事屋からさほど離れていない地区にあるその店は、まさしく思い描いた通りの定食屋だった。
銀さんは扉を開けて中をのぞくとダメだって風に首を振る。
「一旦引き返してまた来る?」
「ヤロー共はパパッと食っちまうから、じきに空くさ。寒くねェか?」
「風強くないし大丈夫だよ。」
カウンターの並び席が空くのを待って店に入ると、いらっしゃいと声をかけた厨房のおばさんは私がいるのに気づいて手を休めた。
「あらあら、今日はキレイなお嬢さん連れて来ちゃって。ウチみたいな庶民の飯屋をデート先に選ぶなんて野暮(やぼ)にも程があるよ。」
顔を覚えられてるって事は結構通い詰めてるんだ。
女性客が珍しいのか他のお客さんまで注目している。
銀さんは頭をかくと、私の分のイスを引いて座るよう促しつつ、おばさんに二人の関係を説明した。
「違ェよ。この娘(こ)は大事な依頼人。見ての通り、食が細くて風に吹き飛ばされちまいそうだから、がっつり食わせようと連れてきたんだ。いつもの二つ頼むわ。」
突如、おばさんが浮かない顔をした。
「おばちゃん?」
「エビをうっかり多く仕入れちゃったんだよ。おばちゃんを助けると思って、お嬢さんは天丼にしてもらえない?大きなエビをサービスするからさ。」
両手を合わせておがむようにしきりに頼んでくる。
「恩人の頼みとあっちゃ、俺も天丼にすっかなー。」
おばさんは微苦笑しながら、手を顔の前で振ると、
「いいんだよ、銀さんは『いつもの』食べないと体調崩しちゃうから『いつもの』ね。」
「天丼でいいか?」
銀さんはどことなく残念そうだ。
「それなら、天丼にする。」
「じゃあ、天丼と『宇治銀時丼』」
おばさんは注文が終わるのを待たずに後ろを向くと、冷蔵庫からトレーを取り出して調理の続きに入った。
「銀時丼?銀さん命名ってことは、専用の裏メニュー?」
「名前さんに食わせたかったんだけど、次来た時な。本当惜しい人を失くしたよ…。」
銀さんはため息をつくと急に天井を見上げた。
にじんだ涙をごまかしているようだ。
「お父さんに比べると味は落ちちゃうけど、勘弁してね。」
おばさんは材料を切りながら寂しそうにつぶやいた。
「イヤイヤイヤそういう意味じゃなくて、おばちゃんのもすげー旨ェよ。ただ、おやっさんとの夫婦漫才はもう二度と聞けねーんだなって…。」
何やら本格的にこみあげてきてるらしい。
店の奥には、真っ白な仕事着に包丁を握った男の人の写真が飾ってある。
ご主人に先立たれてからおばさんが一人で切りもりしているのだろう。
「いやだね銀さん、天ぷらはカラッと揚げるのが信条なのに、湿っぽい話はよしとくれよ。お嬢さん、野菜で苦手なものはない?」
「大丈夫です、基本何でも食べます!」
おばさんは、お父さんのことを忘れずにいてくれてありがとね、と笑顔で返すと、つき出しをサービスしてくれた。
「すごい楽しかった~!お妙さんにまた会いたいな~。」
「来月は暇になるらしいぜ。」
「来月…?そうだ、近いうちに遊びに来てねって誘ってもらった~、みんなで鍋を囲みましょうって。…銀さん??」
銀さんは、突然つき出しを喉につまらせて苦しんでいる。
自分のコップの水だけで足りなそうなので私のもあげた。
「…な…何でもねーよ。俺たちが作りゃいいだけの話だしな。」
まだ、声がかすれたままゼーゼーしてる。変なところに引っかかったらしい。
私は冷水機にお水のお代わりを取りに行った。
「新八くんはお通ちゃんのライブだっけ?神楽ちゃんは?」
「神楽ならメシ食って帰るってさっき電話があった。」
ということは、二人で夕食をとることになるのか…。
「夕飯どうしようか?あんまりバリエーションないけど。」
っていうか、今この部屋に私と銀さんしかいない。
定春くんはいるけどそういう問題じゃない。
「今日は俺が作るとするか。」
銀さんは閉めたばかりの冷蔵庫に手をかけたけど、少し考えて開けるのを止めた。
「いやいやいや、男女が二人きりで同じ部屋にいるっーのは教育上よろしくねーな。ちょっと早ェけど食いに行くぞ。」
よかった、気まずいのは私だけじゃなかったんだ。
銀さんは和室の押し入れから赤いマフラーを出すと投げてきた。
「夜冷えるって言ってたから巻いてけ。」
結野アナの予報通り、陽が沈むにつれ温かった空気が急に冷え込んできた。
「どこ行くの?ファミレス?」
「定食屋。俺のいきつけだから、味は保証するぜ。」
定食屋かぁ…。渋い中年の俳優さんが、見知らぬ街で一人立ち寄り食事をする深夜ドラマを思い出す。
使い込まれたのれんをくぐり半透明ガラスの引き戸を開けると、二十人も入れば満席になる空間の壁に手書きのメニューがずらーっと貼ってある。
長年連れ添った夫婦があうんの呼吸で熱々の料理を出してくれて店は近所の常連さんでいつもいっぱい。
あのドラマに登場するお店は大体そんな感じだった。
万事屋からさほど離れていない地区にあるその店は、まさしく思い描いた通りの定食屋だった。
銀さんは扉を開けて中をのぞくとダメだって風に首を振る。
「一旦引き返してまた来る?」
「ヤロー共はパパッと食っちまうから、じきに空くさ。寒くねェか?」
「風強くないし大丈夫だよ。」
カウンターの並び席が空くのを待って店に入ると、いらっしゃいと声をかけた厨房のおばさんは私がいるのに気づいて手を休めた。
「あらあら、今日はキレイなお嬢さん連れて来ちゃって。ウチみたいな庶民の飯屋をデート先に選ぶなんて野暮(やぼ)にも程があるよ。」
顔を覚えられてるって事は結構通い詰めてるんだ。
女性客が珍しいのか他のお客さんまで注目している。
銀さんは頭をかくと、私の分のイスを引いて座るよう促しつつ、おばさんに二人の関係を説明した。
「違ェよ。この娘(こ)は大事な依頼人。見ての通り、食が細くて風に吹き飛ばされちまいそうだから、がっつり食わせようと連れてきたんだ。いつもの二つ頼むわ。」
突如、おばさんが浮かない顔をした。
「おばちゃん?」
「エビをうっかり多く仕入れちゃったんだよ。おばちゃんを助けると思って、お嬢さんは天丼にしてもらえない?大きなエビをサービスするからさ。」
両手を合わせておがむようにしきりに頼んでくる。
「恩人の頼みとあっちゃ、俺も天丼にすっかなー。」
おばさんは微苦笑しながら、手を顔の前で振ると、
「いいんだよ、銀さんは『いつもの』食べないと体調崩しちゃうから『いつもの』ね。」
「天丼でいいか?」
銀さんはどことなく残念そうだ。
「それなら、天丼にする。」
「じゃあ、天丼と『宇治銀時丼』」
おばさんは注文が終わるのを待たずに後ろを向くと、冷蔵庫からトレーを取り出して調理の続きに入った。
「銀時丼?銀さん命名ってことは、専用の裏メニュー?」
「名前さんに食わせたかったんだけど、次来た時な。本当惜しい人を失くしたよ…。」
銀さんはため息をつくと急に天井を見上げた。
にじんだ涙をごまかしているようだ。
「お父さんに比べると味は落ちちゃうけど、勘弁してね。」
おばさんは材料を切りながら寂しそうにつぶやいた。
「イヤイヤイヤそういう意味じゃなくて、おばちゃんのもすげー旨ェよ。ただ、おやっさんとの夫婦漫才はもう二度と聞けねーんだなって…。」
何やら本格的にこみあげてきてるらしい。
店の奥には、真っ白な仕事着に包丁を握った男の人の写真が飾ってある。
ご主人に先立たれてからおばさんが一人で切りもりしているのだろう。
「いやだね銀さん、天ぷらはカラッと揚げるのが信条なのに、湿っぽい話はよしとくれよ。お嬢さん、野菜で苦手なものはない?」
「大丈夫です、基本何でも食べます!」
おばさんは、お父さんのことを忘れずにいてくれてありがとね、と笑顔で返すと、つき出しをサービスしてくれた。
「すごい楽しかった~!お妙さんにまた会いたいな~。」
「来月は暇になるらしいぜ。」
「来月…?そうだ、近いうちに遊びに来てねって誘ってもらった~、みんなで鍋を囲みましょうって。…銀さん??」
銀さんは、突然つき出しを喉につまらせて苦しんでいる。
自分のコップの水だけで足りなそうなので私のもあげた。
「…な…何でもねーよ。俺たちが作りゃいいだけの話だしな。」
まだ、声がかすれたままゼーゼーしてる。変なところに引っかかったらしい。
私は冷水機にお水のお代わりを取りに行った。