Day9-1 10月18日 午後 遠出
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午後、約束の時間ぴったりに山崎さんが迎えに来た。
出がけに銀さんは私たちを引きとめて、「ウチの所属タレント名字名前にメガネを買う契約以上のことをさせたら容赦なく消す。」などと山崎さんを冗談交じりに脅してから送り出した。
万事屋のみんなや、たまさん以外の人と遠出するのは初めてだ。
銀さんは、近所の大江戸マートやキャサリンさんのタバコを買いに直線数百メートル先に外出するだけでも必ず誰かを護衛につける。
地理に不案内な上に慣れない着物姿の名前さんは悪いヤローの格好の餌食だ、絶対一人で外に出るんじゃねェ、と目と眉の間を近づけて毎朝私に約束させるのだ。
昨日、執事に変装した桂容疑者と遭遇してから、銀さんの過保護っぷりは親レベルに進化して少しうっとおしい。
今日の山崎さんは、こざっぱりとした袴を身に着けている。
この人もオフの日はやっぱり着物がデフォルトなんだ…って洋装を懐かしく思うってことは、私がまだまだこの世界に溶け込めてない証拠なのだろう。
これから江戸でも最先端のスポットに案内してくれるということなのでとても楽しみだ。
「アレ?このバッグ、もしかして?」
二人で歩き始めてすぐ、山崎さんが私の持ち物に気づいた。
「そうなんです!奇跡的に戻ってきたんですよ~。」
彼は再びバッグに目をやると、悲しいのかうれしいのか判別できない複雑な表情をしてから、一呼吸おいて
「コレ、誰がいつ届けてくれたのかな?」
と、質問してきた。
質問といっても、質問の前に「職務」の頭文字が付随するようでかなり語気が強い。ニコニコしてるけど、目は笑ってない。
どうやら、手元に届いたのを屯所に連絡しなかったのが機嫌を損ねたのだろう。
「バッグ、山崎さんも探してくれてたんですよね…すみません。」
「いいんだ、名字さんが気にする事じゃないよ。ただ、拾得物は屯所に届けてくれたらいいのにな、と思ってさ。俺らの組織は暴力的だから、一部の市民から反感を買っていてね、協力を拒まれる場合も少なくないんだ。だから、拾ってくれた人もウチと関わりたくなかったのかなーなんて。」
よかった、そういう事だったのか。
彼は残念そうに遠くを眺めていた。
「親切な匿名の人が病院に届けてくれたらしいです。それから手違いで万事屋に届くまでに数日かかったって、銀さんが教えてくれました。」
「そっか…、『旦那が』ねぇ…。」
そうつぶやくと、彼は首をかしげて歩みを止めた。
「あの…、何か?」
「ゴメンゴメン、どの店にしようかなーって考えてたら、適当に相づちしてた。じゃあ行こうか。歩く速さ、これくらいで平気?」
質問してきた時の厳しい目が、やっと優しくなって、迎えに来た時のテンションに戻ったみたいだ。
バッグが見つかったって、電話入れとけばよかったな…。
たわいもない話をしながら私たちはのんびりとしたペースで歩く。
曇り空の色が濃くなり、雨がぽつぽつ降ってくる。結野アナの天気予報を見ていたのに、傘を持ってくるのをすっかり忘れていた。
でも、すぐにオープンしたばかりだというショッピングモールに入ることができた。
生活圏外の街歩きが殆どない私にとっては見るものすべてが新鮮で、自然と店の前で足が止まってしまう。
多分何時間いてもたりないというか、一日中ここにいたいぐらいだ。
ショーウインドーに見入ってた私にほったらかしにされてた山崎さんは嫌な顔一つせずに、芸能人やモデルさん御用達だというセレクトショップに案内してくれた。
「名字さん、何かと物入りでしょ?ほしいものがあったら買ってあげるよ。」
ヤバい、心を読まれてる。
こっちの世界は和服が基本だから小物や雑貨も和服に合うようデザインされたのが多い。
特に髪飾りは珍しいものばかりだ。どれもかわいい…いくつか買いたいな。
でも、山崎さんの財布を当てにするのはずうずうしいし、お登勢さんやくわえタバコの上司さんがくれたお金はこういう事に使っちゃいけない気がする。
今の私は一人歩きできないし、自由になるお金もない。一気に子ども時代に逆戻りだ。
「大丈夫です、お妙さんに借りたりもらったりしてるので…。」
「本当にいいの?時間は十分あるし奥の方にもいろいろ揃ってるから。ここでゆっくりしてって平気だよ。」
そう言う山崎さんは、意外と熱心に髪飾りや小物を手に取ったり、値段を確かめたりしている。
まるで自分が着るかのように、コーディネートを想像してるように見える。
どうやら山崎さんもこのショップで時間を取りたいようだ。
ああ、そういうことか!彼女さんへのプレゼントを考えてるんだ…。
どっちにしようか悩む山崎さんをじっと見ていたら気づかれてしまった。
「なんだか、俺の方が真剣にチェックしてたみたいだね…。」
片時も彼女さんを忘れないなんて、とても大切にされてるんだろうな。