Day8 10月17日 昼 万事屋 留守番
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「ぎゃああぁぁ……む…んんんんぅんぅ
勇気を振り絞って叫んだ途端、不審人物は後ろから抱きついて口をふさいだ。
手の大きさからして男だ。
「んぅ…、んんん。」
手をはがすために力を振り絞っても、男に強く締め付けられて腕が全く動かせない。
これでも必死でもがいてるつもりなのに…。
助けを求めるために、何とか体の向きを変え、階段の方へ足を動かそうとしたところで体が軽く持ち上げられた。
もはや、足はつま先がかろうじて地面につくだけで全く役に立たない。
私はされるがままに、ずるずると引きずられていった。
この時間、たまさんは買い出しでお登勢さんはまだ眠っている。
近所の人は仕事や寺子屋に行ってて人通りは少ない。
今、目の前には壁がある。柵側に男が立って私に覆いかぶさっている状態だ。
だから通行人が二階を見上げても背の高い男の背中しか見えないし、声すら出せない私の危機に気づくことはない。
どこに連れていかれるんだろう…。
やだ…嫌だよ…。
ごめん…、銀さん。
ふと、抱き付いている男が耳元でささやいた。
「しっ、女子(おなご)がはしたない声を出すものではない。おとなしくするなら、これ以上乱暴はしない。声を出さぬと約束するなら『はい』と言うのだ。」
「ん、んん…、んんん…ん。」
私が「はい」と「いいえ」が言えないのは口をふさいでいるあなたのせいなんですけど。
「約束する、貴殿に乱暴はしない。この通りだ、信じてくれ。」
「ん。ん。」
何がこの通りだよ!!
信用できるか!!
耳元でしゃべんな!気持ち悪いんだよ!
その後も、私は抵抗を続けたけど全然かなわなかったので最終的に従うことにした。
やっと拘束が解かれたので振り向くと、宅配業者の制服を着た細見の男が立っていた。
男は距離を取るため後ずさりすると、通路の植木鉢につまづき派手に転倒した。
お互い気まずい雰囲気が流れた後、よろよろと起き上がって姿勢を正すと、高校野球の選手のように脱帽し、折り目正しく一礼した。
帽子から、黒い長髪がさらりとこぼれ落ちる。
「先程は驚かせて済まぬ、貴殿を傷つけるつもりは毛頭なかった。数々の非礼をわびさせてくれ。それと名誉の為言っておくが俺は痴漢ではない。い…、いかがわしい場所には決して触ったりなどしておらぬ…、からな。何というか…アレは不可抗力というヤツだ、断じて俺は変質者ではない!」
いや、いきなり抱き付いておいてそれはないよね!!変質者だよ!
ひとまず危機が去りほっとした私は壁にもたれかかる。
恐怖で膝はガクガク笑ってるし、引きつり笑いが止まらないし、動悸がするし、呼吸が乱れまくっている。
「こういう時は深呼吸をすると良いのだ。」
変装用のヒゲメガネで素顔を隠してるくせにいい人ぶるな!
「な、何者ですか、あなた…。」
「見ての通り怪しい者ではない。」
だから怪しいってば!!
どこから見ても業者を装った賊にしか見えないよ!
変態!変質者だよ!
「これで手出しはできまい。」
男はポケットから手錠を取り出すと柵に自分の片手をつないだ。
危害を加えない事を強調したいのだろう。
でも普通、警察以外の人は手錠を持ち歩かないよね…。
やっぱり怪しい。
変質者は落ち着いた口調で話しかけてきた。
「乱暴狼藉を重ねて謝罪する。ただ、俺の主人が名前殿は元気にしてるか様子をみてこいと申しておってな。姑息な手を使って本当に申し訳ない。この通りだ許してくれ。」
再び謝ろうとして、手錠をかけた方の手を上げようとガチャガチャやったり、植木鉢につまづいたり、さっきからこの人はどこか憎めない…けど、安易に許すわけにはいかない。
誠意を見せたいなら、まずヒゲメガネを取れよって思ったけど、話を早く切り上げたいので私は黙っていた。
「ところで依頼人、って誰ですか??あなた何者ですか??」
「キャプテンカツーラ様だ、じゃなくてヅラだ。じゃなくて桂だ。俺は…いわば執事と思ってくれてよい。」
「本当に知り合いなんですか??一体どういう関係なんですか?」
「幼少のみぎりより苦楽を共にした親友だ。名前殿が事故に遭われたと聞き、カツーラ様はひどく心を傷めておられてな。見舞いの品をお贈りするよう仰せつかったのだ。」
どこまで事実かわからないけど、銀さんと同世代と思われる自称執事の言葉づかいは丁寧だ。
どことなく品がよくてチンピラ風情には見えない。
それに、転倒してメガネが外れた時垣間見えた素顔は割と整っていた。