Day8 10月17日 昼 万事屋 留守番
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今、万事屋には私しかいない。
お昼までの短い間だけど初めて留守番を任されたのだ。
銀さんはひとりにするのが心配だったらしく、
「誰が来ても戸を絶対開けるんじゃねーぞ。フラグはへし折るためにある。」などと過保護なお母さんみたいに私に言い聞かせてから出て行った。
空になった食器を洗って窓を開け放し、掃除機をかけて、お布団を干す。
今日は10月にしては蒸し暑い位の青天だ。
なんだかんだで万事屋に居つくと腹をくくったものの、どうにも落ち着かない。みんなは我が家だと思えって気づかうけど、寝巻き姿でフラフラできない以上、ここは他人の家だ。
今頃、元いた世界はどうなってるんだろうか。
失踪したって友だちや学校に連絡行ってるのかな。
泣き虫のお父さんはめちゃめちゃ泣いてるだろうな。
報道の顔写真にはどれが使われるんだろう…。
でも、グダグダ考えても何も変わらない、変えられない。
とにかく集中しよう。家事をしている間は余計なことを考えずにすむ。
掃除を終えてからお米を研いでタイマーをつける。
おかずを作ろうと冷蔵庫を開けるけど大した食材はそろってない。
そのくせお菓子類は有り余るほど常備されてる。
万事屋はお菓子をやめたら家計に余裕がでると思うけど、三人に甘い物断ちをさせるなんて、どだい無理な話だ。
やることが終わってしまったのでソファーに座ってテレビをつける。
こっちの世界には「みのさん」も「タモさん」もいるし、微妙に違うけど「渡る世間は~」が人気番組だ。
情報番組が終わって散歩のミニコーナーが始まったところだった。
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
開けないって約束したので私は居留守を使う。
しかし向こうの主は「ドンドン」と叩いてくる。
「こんにちはー、お届け物です。」
不在票置いていけばいいのに。
「お届け物でーす。」
しつこいなー、さっさと帰ってよ。
「こんにちはー、クール便でーす。」
クール便?今日は9月の上旬並みの暑さだから待たせると中身が劣化してしまうし、再配達をお願いしたら指定した2時間は外出できない。
一瞬、出てもいいかなと思ったけど、アルバイトができる年齢なのに、「開けるな」の約束を破ったら銀さんにバカにされると思い直して、私は応対するのをやめることにした。
しかし嫌な予感がしないわけでもない。
物語だと「○○するな」は、ほぼ100%破られてきた。
のぞき見したら鶴がはた織ってた、とか
秘密の部屋を開けたら死体がゴロゴロしてた、とか
継母の言うなりにドアを開けて毒りんごを口にした、アホの子白雪姫とか。
思いつく範囲で回避に成功した強者(つわもの)は、トンネルを抜けるまで振り返らなかった「千と千尋の神隠し」の千尋ちゃんくらいだ。
ドンドンドン。
延々とお兄さんは戸を叩いてくる。
「名字さん、クール便でーす。ハンコお願いします。」
???
何でここに居るって知ってるの?
私が居候している事は、万事屋と「お登勢」の人たちと真選組の数人しか知らない。
街ゆく知り合いには、「ウチの依頼人」と紹介されるだけで詳細は教えてない。
一体誰?もしかして、山崎さんからの荷物?
「ハンコないなら、サインでも構いません。」
お兄さんの今日の配達業務は万事屋で終わりなのかな…。
そーっと玄関に近寄って様子を確認する。
戸の向こうの影に立ち去る気配はない、ひたすら返事を待っている。
業者さんがかわいそうだから応対して帰ってもらおう。
「あの、私、この家の留守を預かってる者です。勝手に開けるなって言われてるんで、そこに荷物置いていってもらえますか?」
お兄さんは黙った。
「脇の段ボールの上に置いておくんで、できるだけ早く取り入れてください。すぐ溶けちゃうんで、お願いします。」
「ご苦労様でした。」
影は消え、足音が遠ざかっていく。
溶けるってことは多分アイスクリームだ、すぐに冷蔵庫に入れなくては。
数分経った。
鍵を外して引き戸を開けて、右を見る。
重ねた段ボールの上には、ビニール袋に入った包みが置いてあった。
「これか…。」
クール便のくせに発泡スチロールの保冷箱に入ってないし、手にとってもひんやりしない。
それと宅配便にしてはどこか違和感がある。
早く冷蔵庫に入れなきゃ、万事屋に戻ろう。
ふと、人の気配がした。
壁に映る影が、どう考えても私の作る影より大きい。
明らかに誰かが後ろにいる。
ようやく違和感の原因がわかった。
この荷物には宛名や住所電話番号が書いてあるラベルが貼ってない。
あの人は宅配業者じゃない。クール便は戸を開けさせるための口実だったんだ。
白雪姫さん、ちょろいアホの子呼ばわりして本当にすみませんでした。
背後から足音がすると人物の影が大きくなった。
影の持ち主は、手を上に上げた。