Day7 10月16日 午後 万事屋 来客
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万事屋へ続く階段を上がると、玄関の外で待ちかまえていた新八くんから、名前ちゃんは家に帰れない不安で精神的に浮き沈みの激しい状態が続いていると説明を受けた。
おととい訪れた俺は、彼女が寝込んでいたので面会謝絶をくらっている。
昨日は万事屋を出ていくと言い張ったらしい。
三人の説得で納得したものの、一時は屯所を保護施設だと思い込みウチに来ようとしていたそうだ。
もし、再び屯所に行きたいなどと言い始めたら断ってくれと頼まれた。
昨日、電話で旦那が唐突に留置所のスペックを聞いてきたのは、彼女を思いとどまらせようとしていたのか。
俺は会うのを延期しようかと新八くんに持ちかけたが、気分転換になるから是非会ってほしいとお願いされた。
そして、あらかた話を聞かされてから中に入るのをやっと許されたのだった。
実をいうと、万事屋に足を踏み入れるのは初めてだ。
玄関を上がって短い廊下を通れば、すぐに応接スペースで、一組の長いソファーがセットのテーブルを挟んで対になっている。
奥の真正面には窓を背にして、この部屋の調度品ではおそらく一番高価な社長机(多分、旦那専用)が配置されていた。
部屋に入ると、着物姿の名前ちゃんがソファーから立ち上がり、
「この前助けていただいた名字名前です。山崎さん、先日はパトカーで案内してくださりありがとうございました。」
と、笑ってあいさつをしてくれた。
少しやせてしまった彼女からこぼれる笑顔は、社交辞令じゃなくて本心からにみえる。
パトカーの道案内で親切に対応したのが評価されたのだろうか。
警戒されていないなら、こっちにとって好都合だ。
一方、旦那とチャイナさんから発せられる「気」は穏やかじゃない。
図らずも事件で協働することはあるが、旦那と副長は相も変わらず犬猿の仲だ。
局長のストーカー行為はこれからも志村姉弟の悩みの種であり続ける。
真選組が万事屋から好かれる要素は皆無だと言ってもいい。
しかし、今日は普段の敵意とはどこか異なっている。
何というか、偵察の目的を既に見透かされて逆に監視されてる気がしてならない。
とにかく値踏みされている居心地の悪さだ。
だがこの程度で物怖じする俺じゃない。頭の中でイメージした通り任務にあたることにしよう。
「お茶を入れてきました、そろそろ座りませんか?」
人数分の茶碗を乗せたお盆を持った新八くんが座るようにすすめてきたので、みんなで席につくことにした。
名前ちゃんを真ん中にして旦那とチャイナさんが座ったので、反対側のソファーに陣取る。
お盆を片付けてきた新八くんは俺の横に腰掛けた。
「改めましてこんにちは。早速のところなんだけど、指名手配写真を持ってきたので見てもらえるかな?」
そう言って、俺が封筒から写真の束を取り出そうとすると場の空気が一段と険悪になった。
「何がしたいアル?名前ちゃんは記憶を失った善良な市民アル。」
しょっぱなから、チャイナさんが語気を強める。
「まさか攘夷志士の仲間だって疑っているんですか?いくら山崎さんでも聞き捨てならない発言ですね。」
温厚な新八くんまでこちらを警戒している。
ソファーにふんぞり返って足を組んでいる旦那の口からも嫌味が飛び出した。
「オイ、ジミーくん。名前さんが、きったねーテロリストのツラで記憶が呼び覚まされるとでも思ってんの?っーか、他人様の家にあがるのに手ぶらってどういうこと?茶菓子の一つでも持ってけって母ちゃんに教わんなかった?」
こんなのは想定内だ。
お土産に用意した和菓子の箱を新八くんに預け配るよう伝えると、途端にチャイナさんの機嫌が良くなった。
話を続けよう。
「指名手配犯の面通しは、事故・事件に関わった全員に協力してもらう決まりなんだ。どうにもウチはお役所だから融通がきかなくてね、杓子定規なマニュアルに縛られて隊員の俺ですらうんざりだよ。あらかじめ断っておくけど、この調査は、あくまでも任意だから応じるのも拒否するのも君の自由だ。ただ、ほんの数分で終わる簡単なものだから俺としては君が協力してくれるとありがたいんだけど、どうかな?」
名前ちゃんは迷うことなく
「本当に何も覚えてないけど、それでもいいですか?」
と、目をそらさずに答えた。
任意といっても真選組の要請をつっぱねられる市民はまずいない。
だから彼女が申し出を受け入れるのは完全に織り込み済みだった。
ここまではシナリオ通りに事は運んでいる。
「全然OKだよ、それじゃあ始めるね。」
そう流すと、俺は三人の厳しい視線を浴びながら指名手配中の攘夷浪士の写真を一枚ずつみせていく。