Day1-1 10月10日 日の傾き始めた午後
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「このままでいけば、渋滞に巻き込まれずに帰れそうだな。」
「そうですね、『お登勢』で、神楽ちゃんたちが首を長くして待ち構えてますよ。」
「さすがにローソクはついてこなかったから、どっか寄って買ってくか?」
「お登勢さんがお客さん用に常備してるのを分けてくれるそうですよ。さっき電話でお願いしておきました。」
「あのババァ、仏壇のローソク放り投げて、『今のアンタにはコレがお似合いだよ』とか言い出しかねネェ。」
「まさか…、なんだかんだ小言を言いながらも、僕たちを心配してくれるじゃないですか、こうして家賃も渡せることだし…。」
スナックお登勢では、姉上と、神楽ちゃん、長谷川さん、お登勢さんたちが、誕生日会の準備をしてくれている。
あとは本日の主役、銀さんと、ケーキとローストビーフ(と僕)の到着を待つのみ。
10月10日、今年の銀さんの誕生日は、万事順調だ。
― 前言撤回
銀さんの口論の好敵手が、パトカーの音をこれ見よがしに鳴らして、隣の車線にスーっと並んできたのだった。
「旦那~、29キロオーバーですぜィ、おまわりさんの前で交通ルールは守ってもらわないといけねーや。仕事の帰りですかィ?」
沖田さんがいつもの調子で銀さんに話しかけてくる。
当の本人は、窓から上半身を乗り出していて、そっちの方がよっぽど道路交通法違反じゃないか。
でも、沖田さんはこれでも一応警察だし、こういったやりとりは日常茶飯事だ。
「おっかしーなー、総悟くん?俺、29キロオーバーじゃないから、時速29キロで走ってるから、ねぇ聞こえてる?」
「旦那~、さて、クイズです、何曜日に事故が一番多いか当てっこしましょうや。」
「何曜日って、そりゃ、休み明けで気が緩む月曜日だろ、っーかおたくが答え知ってるのに、当てっこっておかしくね?」
「ざーんねん、旦那も案外ちょろいや。正解は火曜日、気を引き締めた翌日がヤバいんでさァ。くれぐれも安全第一でお願いしやす。」
「総一郎くん、取り締まりなら他あたってくれる?」
後部座席の土方さんは、余計なもめ事を起こしたくないのか、こちらと反対側の後部座席に座り、そっぽを向いてタバコをくゆらせていた。
僕の位置から隠れてるけど、運転手は山崎さんだ。
運転席の方角から、そこはかとなく地味なオーラがただよっている。間違いない。
土方さんにどやされたのか、沖田さんはあっさりと体をひっこめた。
でも、カーウインドーは開け放したまま、チラチラとこちらの様子をうかがっている。
銀さんが、沖田さんに聞こえるように、わざと大きな声でつぶやきはじめた。
「あ~あ、よりによって楽しい一日の夕暮れに税金泥棒御一行様に出くわすとはなあ。チッ、結野アナのブラック星座占いで予言してた『運命の出会い』ってこいつらの事だったのかよ!」
「銀さん、黄色信号ですよ、神社前です。」
「わーかってるよ、お前も…」
― キィイイイイイイ…!
― ガッ!!
けたたましいブレーキ音とともに、銀さんの腰に回していた腕はあっさりと外れ、僕の体とローストビーフとケーキが放物線を描くようにスローモーションで宙に舞ったのが束の間の白昼夢かと疑う程今度は超高速のスピードで全身が地面に叩きつけられた。
とっさに受け身をとったおかげで、頭を打たずにすんだ。
でも、メガネが吹っ飛ばされた。
腕がヒリヒリする。あちこち血がにじんでいるようだ。
手の届く範囲に落ちていたメガネをかけ直して、銀さんを探す。
「ちょっと銀さん!!さっき安全運転って注意されたばかり…」
「なぁ、ぱっつあん…。」
「…。」
倒れていたのは僕だけではなかった。
銀さんのスクーターのかたわらには、ロングスカートのメイド服を着た女の子が、あお向けのまま静かに横たわっていた。
これが僕たちと名字名前さんの『運命の出会い』だった。
2014年9月13日UP