Day5-4 10月14日 夜 スナック すまいる
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「悪ィ、ちょっとヤボ用。」
風呂用具を新八に預けた俺は、そう言い残して銭湯を後にした。
長風呂でのぼせちまった名前さんは、神楽が面倒みてるから問題ねェだろう。
アイツらに正確な場所を告げなかったのには訳がある。
新八は嘘をつくのが上手くねーし、神楽が「みんなで行くアル。」とか空気を読まずについてくるのが目に見えてたからだ。
来たくはなかったんだがな。
だが、切羽詰まっちゃ背に腹は代えられねェ。
意を決して「すまいる」の黒服に声をかけた。
階段を降りていくと、かき入れ時には幾分早い時間帯のせいか客はフロアにまばらだった。
すぐに「すまいる0円」で済まされねェ不吉な笑みをたたえてお妙がやってくる。
「こんばんは銀さん。一人でやってくるなんてどういう風の吹き回し?」
単刀直入に告げる。
「おたくのあばずれ巫女頼むわ。」
どーせ、私のライバルを指名するなんて何考えてるの、そんなおカネがあるなら新ちゃんに給料払え、などと説教されるだろう。
ヘタしたらぶん殴られそーだな。
だから、阿音を呼び出す理由について洗いざらい話す覚悟は決めていた。
しかし、全く予想外の答えが返ってきた。
「あら、残念。阿音ちゃんなら、おとといから十日間のお休みよ。商店街の福引で宇宙旅行が当たったんですって。銀さん、運が悪かったわね。」
完全にあてが外れたァァァ!!
「それで、阿音ちゃんに何の用事なの?」
特段責めるわけでもなく、お妙は単純に興味を抱いた様で尋ねてきた。
「ちょっとヤボ用っーか、そのうち話すわ。」
ぼったくりキャバ嬢の阿音は、定春の元飼い主であり、江戸の龍脈を守護する巫女だった。
ターミナル建設で住処(すみか)の神社が強制立ち退きに遭い、失業した彼女と双子の妹の百音(もね)は、大食漢の定春を飼う余裕がなくなり、うちの前に捨てたのを俺たちが拾ったのが縁の始まりだ。
現在は、定春と対になる小型の守り狗の駒子とアパート暮らしだが、百音の方は依然引きこもり中らしい。
彼女は、中止になった試合の違約金とぶっ壊した球場の賠償金を背負って働いているが、悲壮感はみじんもみせないし、キャバクラ勤めはそこそこ性に合ってるようだ。
おととい、定春が名前さんの体を押して、衝突現場に程近い神社へ連れて行ったのは、絶対訳がある。
俺は昨日の朝、三人と定春がターミナルに出かけるのを見送ってから、神社の謎を聞くため家を出た。
初老の宮司は、当初、そんな話は知らないとしらばっくれたので、愛人の存在が奥方にバレねーように熱燗三本でアリバイ工作を引き受けた貸しをにおわせたが、景気のいい温和な顔が急に厳しくなり、ばらすならばらせ、とっとと帰れ、と怒鳴ると堅く口をつぐんでしまい、どうしても首を縦に振らない。
俺は話を聞くまで帰らないと頭を下げたが、「すまぬ。」の一言を残して宮司は広間を出ていった。
窓から差し込む影の方角が変わり時間の感覚が麻痺した頃に、宮司は戻ってくると、土下座をしたままの俺の肩に手を置いた。
宮司は、よほどの事情があるようだが、歴代当主が密かに受け継いできた伝説であるゆえ、他言は一切無用と誓わせてから、淡々と語り始めた。
曰く、数百年前に異世界の人間が往来した現象が存在し、事のくだりは絵巻に描かれていたが、江戸を襲った先(さき)の大火で神社の社と共に焼失したという。
※「先(さき) 現在からそう遠くない過去、以前。(デジタル大辞泉)」
絵巻によると、ある日変わった身なりをした男が突然現れ、宮司の娘と恋に落ちた。
あたかも別の世の住人のごとき摩訶不思議な話をする男との結婚には、誰もが異論を唱えたが、二人は周囲の反対を押し切って家庭を築き子宝にも恵まれた。
しかし数年後、男は、子供一人と共に、一族の目の前で跡形もなく突然消えてしまったという。
娘には他の子達と思い出だけが残された。
その後、幾代にも渡って一連の事象は研究されたが、往来のメカニズムが解明できなかったため、当時の人々は男の特異体質がもたらした悲劇と結論を出し、絵巻に記した。
そして、今に伝わる、と言いたいところだが火事で失ってしまった、と宮司は申し訳なさそうに繰り返した。
俺は名前さんの存在を一切しゃべらなかったが、事情を察した宮司は「当家は男系で承継しており、件(くだん)の男の血は自分に流れておらぬ。もし彼の子孫ならば、貴殿を助ける能力が備わっていたやも知れぬな。」と寂しげに笑うと、「何分(なにぶん)、人智の預かり知れぬことゆえ力になれず、すまぬ。」と口にして長い話を終えた。
望みを絶たれた俺は、餅は餅屋っーことで、同業者の手を借りるべく「すまいる」を訪れたのだった。
風呂用具を新八に預けた俺は、そう言い残して銭湯を後にした。
長風呂でのぼせちまった名前さんは、神楽が面倒みてるから問題ねェだろう。
アイツらに正確な場所を告げなかったのには訳がある。
新八は嘘をつくのが上手くねーし、神楽が「みんなで行くアル。」とか空気を読まずについてくるのが目に見えてたからだ。
来たくはなかったんだがな。
だが、切羽詰まっちゃ背に腹は代えられねェ。
意を決して「すまいる」の黒服に声をかけた。
階段を降りていくと、かき入れ時には幾分早い時間帯のせいか客はフロアにまばらだった。
すぐに「すまいる0円」で済まされねェ不吉な笑みをたたえてお妙がやってくる。
「こんばんは銀さん。一人でやってくるなんてどういう風の吹き回し?」
単刀直入に告げる。
「おたくのあばずれ巫女頼むわ。」
どーせ、私のライバルを指名するなんて何考えてるの、そんなおカネがあるなら新ちゃんに給料払え、などと説教されるだろう。
ヘタしたらぶん殴られそーだな。
だから、阿音を呼び出す理由について洗いざらい話す覚悟は決めていた。
しかし、全く予想外の答えが返ってきた。
「あら、残念。阿音ちゃんなら、おとといから十日間のお休みよ。商店街の福引で宇宙旅行が当たったんですって。銀さん、運が悪かったわね。」
完全にあてが外れたァァァ!!
「それで、阿音ちゃんに何の用事なの?」
特段責めるわけでもなく、お妙は単純に興味を抱いた様で尋ねてきた。
「ちょっとヤボ用っーか、そのうち話すわ。」
ぼったくりキャバ嬢の阿音は、定春の元飼い主であり、江戸の龍脈を守護する巫女だった。
ターミナル建設で住処(すみか)の神社が強制立ち退きに遭い、失業した彼女と双子の妹の百音(もね)は、大食漢の定春を飼う余裕がなくなり、うちの前に捨てたのを俺たちが拾ったのが縁の始まりだ。
現在は、定春と対になる小型の守り狗の駒子とアパート暮らしだが、百音の方は依然引きこもり中らしい。
彼女は、中止になった試合の違約金とぶっ壊した球場の賠償金を背負って働いているが、悲壮感はみじんもみせないし、キャバクラ勤めはそこそこ性に合ってるようだ。
おととい、定春が名前さんの体を押して、衝突現場に程近い神社へ連れて行ったのは、絶対訳がある。
俺は昨日の朝、三人と定春がターミナルに出かけるのを見送ってから、神社の謎を聞くため家を出た。
初老の宮司は、当初、そんな話は知らないとしらばっくれたので、愛人の存在が奥方にバレねーように熱燗三本でアリバイ工作を引き受けた貸しをにおわせたが、景気のいい温和な顔が急に厳しくなり、ばらすならばらせ、とっとと帰れ、と怒鳴ると堅く口をつぐんでしまい、どうしても首を縦に振らない。
俺は話を聞くまで帰らないと頭を下げたが、「すまぬ。」の一言を残して宮司は広間を出ていった。
窓から差し込む影の方角が変わり時間の感覚が麻痺した頃に、宮司は戻ってくると、土下座をしたままの俺の肩に手を置いた。
宮司は、よほどの事情があるようだが、歴代当主が密かに受け継いできた伝説であるゆえ、他言は一切無用と誓わせてから、淡々と語り始めた。
曰く、数百年前に異世界の人間が往来した現象が存在し、事のくだりは絵巻に描かれていたが、江戸を襲った先(さき)の大火で神社の社と共に焼失したという。
※「先(さき) 現在からそう遠くない過去、以前。(デジタル大辞泉)」
絵巻によると、ある日変わった身なりをした男が突然現れ、宮司の娘と恋に落ちた。
あたかも別の世の住人のごとき摩訶不思議な話をする男との結婚には、誰もが異論を唱えたが、二人は周囲の反対を押し切って家庭を築き子宝にも恵まれた。
しかし数年後、男は、子供一人と共に、一族の目の前で跡形もなく突然消えてしまったという。
娘には他の子達と思い出だけが残された。
その後、幾代にも渡って一連の事象は研究されたが、往来のメカニズムが解明できなかったため、当時の人々は男の特異体質がもたらした悲劇と結論を出し、絵巻に記した。
そして、今に伝わる、と言いたいところだが火事で失ってしまった、と宮司は申し訳なさそうに繰り返した。
俺は名前さんの存在を一切しゃべらなかったが、事情を察した宮司は「当家は男系で承継しており、件(くだん)の男の血は自分に流れておらぬ。もし彼の子孫ならば、貴殿を助ける能力が備わっていたやも知れぬな。」と寂しげに笑うと、「何分(なにぶん)、人智の預かり知れぬことゆえ力になれず、すまぬ。」と口にして長い話を終えた。
望みを絶たれた俺は、餅は餅屋っーことで、同業者の手を借りるべく「すまいる」を訪れたのだった。