Day5-3 10月14日 夜 銭湯
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「あっ…」
銭湯で体重を測ったら理想の数値を全然下回っていた。
本来なら喜ぶべきだけど、脱衣所の壁に据え付けてある大きな鏡に映る私の顔は、他人が心配してもしょうがないぐらい、やつれて見える。
あと、やせなくていい所が減ってるんだけど…、ここはやせなくていいよ!
「名前ちゃん、遅いアル~!」
浴場から神楽ちゃんの大声が響いてくる。
「今行く~!」
髪を洗いながら私は、今日身の回りに起きたことをぼんやりと回想していた。
「ちょっとちょっと三人で取っ組み合いして何が起きたんですか?」
「何っーか、これが俺たちの日常っーか。」
「ありのままネ。」
一応、大人の銀さんが本気で神楽ちゃんと争っていて、新八くんもケンカに加わっていて、髪の毛をもじゃもじゃにされた上に服はぐしゃぐしゃで、ふてくされた銀さんがとてもおかしくて思わず爆笑してしまった。
その後、新八くんが何か言ったら二人に激しく蹴飛ばされてた。
あれが普段の三人なんだろうな。
私を見ると、気まずそうにケンカをやめた銀さんは、誰かのフィギュアを神楽ちゃんから取り上げるとテレビの前に大事そうに置いてから、机の引き出しをあけて紙袋を取り出した。
「コレ、名前さんの?」
渡された紙袋の中には、事故の日に行方不明になったバッグが入っていた。
「あっ、これこれ!!どこでみつかったの?」
「親切な誰かさんが病院に届けてくれたみてーだぜ。手違いがあったらしくて、万事屋に届くのが遅くなっちまったけど。」
バッグを開ける。
何も盗られてなかった。
化粧ポーチの中のパウダーは、ひびが入っていて粉々になってたけど、私物が手元に戻ってきただけでもよかった。
顔を上げると、三人がうれしそうに私を見ていた。
早速スマホを起動させる。
電源が入らない。
あの日から何日も経っている。
待ち受け時間をとっくにオーバーしてるのだろう。
「バッテリー切れアルか?」
「そうみたいだね。」
「なら、銭湯の行きがけに大江戸マート寄るアル。そこで充電するネ。」
でも、私のスマホはどの方式でも充電できなかった。
「名前ちゃん~、先に湯船につかってるアル。」
「うん、トリートメントするから、そっちで待ってて~。」
今日も目を覚ましたら、また、万事屋の天井だった。
時計を見るとお昼に近い午前中になっていた。
そういえば、夜中泣きまくって疲れて眠ったんだっけ。
ふすまを隔てた万事屋の事務所はとても静かで、いつもだったら聞こえてくるはずのテレビの音や定春くんの鳴き声は一切漏れてこない。
たまさんが起こしに来なかった、ということは、銀さんが昨夜の私の状態を皆に話して眠れるように配慮してくれたのだろう。
銀さん、ありがとう。
上半身を起こしてしばらく布団の上でぼーっとしていると、たまさんが、
「名前様、お目覚めですか?おはようございます。」
と、ふすまの向こうから声をかけてきたので、私は急いで布団をたたみ着物を包んでいる大きな風呂敷を押入れから取り出して、たまさんを迎えた。
「何で起きたのわかったの?もしかして隣の部屋でずっとスタンバってた?たまさん、ごめんね。」
「違いますよ名前様。赤外線センサーで動きを探知したから万事屋に来たまでです。心配なさらないでください。」
たまさんの言ってることは、時々よくわからない。
いつも通りに着つけてもらった後、袖をたすき掛けにして、洗面所で顔を洗い簡単にメイクする。
くまはできてるし、顔はむくんでるし…寝覚めに嫌なものをみてしまった。
それにしても、銀さんと顔を合わせるのが気まずい、いろんな意味で。
「おはようございます…には、もう昼近いけど、おはようございます。その…、昨日はありがとうございました。」
事務所のイスに腰掛けて新聞を読んでいた銀さんは、目を合わせないように深くした私のお辞儀が終わると、
「気にすんなって。」
と、頭をかきながら、
「うちの朝ごはん終わっちゃったから。ババアとたまが待ってる。」
玄関に連れていくと、草履を履いた私の頭にぽんと手を乗せて、
「しっかり食ってこい。」
と、やさしい声で言った。
私は目を合わせることができなかった。